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Mudmen•Blue マッドメン・ブルー  作者: sora_op


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6/10

Mudmen•Blueマッドメン・ブルー 第6話:黒いスーツの悪魔と、ジャパン・アベンジャーズ

第6話「ここから先は大人の喧嘩だ! まさか!?のジャパン・アベンジャーズ 爆誕!!」

〖免責事項〗

本作はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。また、作中に登場する法律・科学技術・名称等は、物語上の演出が含まれています。


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第6話:黒いスーツの悪魔と、ジャパン・アベンジャーズ


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## 1.死のデス・バレー


チャオが残した分離技術レシピは大いに役立だった。


実験室のビーカーの中で、泥水は透明な上澄みと、高濃度のレアアース沈殿物に見事に分離された。


「……できた」


文哉が震える手で試験管を持つ。


「純度99.9%。これなら、EVのモーターにも即使える」


「……これは、チャオのレシピだ」


嘉門先生が、試験管を光にかざしながら言った。

「あいつが残してくれたヒントがなければ、この純度は出せなかった。……聞こえてるか、チャオ。お前の泥は、宝になったぞ」


研究室が歓声に包まれるかと思いきや、嘉門先生の表情は暗かった。


先生は、ホワイトボードに絶望的な数字を書いた。


『必要生産量:年間 20,000トン』


「いいか、よく聞け。ビーカーで1グラム作るのと、工場で1トン作るのは、まったく別の次元の話だ」


嘉門先生が試験管を指差す。


「このプロセスを実用化するには、巨大な化学プラントが必要だ。耐酸性の巨大タンク、精密な遠心分離機、そしてそれを動かす電力……。概算で、初期投資だけで50億円は下らない」


「ご、50億……!?」


優斗が素っ頓狂な声を上げる。


「そんな金、大学にあるわけないじゃん!」


「そうだ。技術はある。理論も正しい。だが、金がないから製品にできない」


嘉門先生は力強く拳を握った。


「これが、今まで多くのベンチャー企業が死んでいく場所……『死のデス・バレー』だ」


重苦しい沈黙。


いずみが溶接機を蹴飛ばした。


「アタシが鉄くず集めてタンク作っても、そんなデカいのは無理だぞ……」


文哉も唇を噛む。数式で金は生み出せない。


その時、部屋の隅で電卓を叩いていた史郎が、バタンと手帳を閉じた。


「……50億か。安いもんだ」


全員が振り返る。


史郎はジャケットを羽織り、ネクタイを締め直した。


「先生。ビーカー遊びは終わりです。……ここからは、泥臭い『大人の喧嘩』の時間だ」


「おい、どこへ行く気だ?」


「買い物です。……少し、大きな買い物をね」


史郎は不敵に笑い、研究室を出て行った。


それきり、彼は三日間、戻ってこなかった。


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## 2.丸の内の要塞


東京・丸の内。


日本経済の中枢を見下ろす高層ビルの最上階会議室に、重苦しい空気が漂っていた。


長いマホガニーのテーブルを囲むのは、日本を代表する重厚長大企業の役員たちだ。


自動車最大手「豊川自動車」の専務。


重工業界のドン「権田重工」の常務。


化学プラントの雄「西園寺ケミカル」の副社長。


そして、史郎の上司である「住金商事」の部長。


彼らの視線の先には、たった一人で立つ史郎がいた。


「……で? 東大の道楽に50億出せと?」


豊川自動車の専務が、資料をテーブルに放り投げた。

「君ね、泥遊びなら公園でやりたまえ。我々はEV戦争の真っ只中で忙しいんだ」


嘲笑が漏れる。


だが、史郎は動じない。ゆっくりと水を一口飲み、静かに口を開いた。


「EV戦争……ですか。ではお聞きします。そのEVの心臓部、モーターの磁石はどこから買っていますか?」


「中国に決まっているだろう」


「では、明日中国が『輸出禁止』と言ったら?代替調達のリードタイムは、どのようになっておられますか?顧客へのペナルティや納期遅延が発生した際はいかがなさいますか?

結局、御社のラインは止まってしまうのではないですか?」


専務の眉がピクリと動く。


史郎は畳み掛ける。


「あなた方はメーカーだ。モノ作りのプロだ。……ですが、素材レアアースに関しては、中国の下請けに過ぎない」


「貴様! 言葉を慎め!」


権田重工の常務が机を叩く。


史郎は声を張り上げた。


「事実でしょう! 生殺与奪の権を他国に握られたまま、何が技術立国ですか! 何がモノづくりニッポンですか!」


会議室が静まり返る。


史郎は、プロジェクターに一枚の画像を映し出した。

それは、第2話でいずみが溶接したパイプと、第3話でかれんが守り抜いた泥のサンプル、そしてチャオが残した数式の写真だった。


「ここには、泥まみれになって戦う学生たちがいます。そして、国境を越えてでも、この技術を守ろうとした人間もいた。……彼らの情熱を、あなた方は買うんですか、捨てるんですか」彼らは技術を持っています。情熱も、理論もある。……足りないのは、あなた方の『覚悟カネ』だけだ!」


史郎は、彼らを睨みつけた。


「このプロジェクトは、単なる投資じゃない。日本の製造業が、中国の呪縛から解き放たれるための『独立戦争』なんです」


西園寺ケミカルの副社長が、眼鏡の奥で目を光らせた。


「……独立戦争、か。商社マンが言うと胡散臭いが……悪くない響きだ」


史郎は最後に、切り札を切った。


「しかも、我々には『セキュリティ・クリアランス』という、国際的な信用のお墨付きがある。この泥を使えば、御社の製品は、堂々とアメリカや欧州の『信頼できるサプライチェーン』で売れるようになる」


役員たちが顔を見合わせた。


リスクか、未来か。


沈黙を破ったのは、住金商事の部長だった。


「……史郎。お前、失敗したらどうする気だ」


「この案件、俺のクビと引き換えです。」


部長は呆れ、そしてニヤリと笑った。


「……面白い。乗ってやるよ、バカ野郎」


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## 3.ジャパン・アベンジャーズ


四日目の朝。


研究室の学生たちは、死んだような顔でカップラーメンをすすっていた。


「……史郎さん、逃げたのかな」


優斗が呟く。


「ま、50億だもんな。普通は逃げるよ」


いずみも諦め顔だ。


その時、ドアが乱暴に開いた。


徹夜明けで無精髭を生やし、ネクタイを緩めた史郎が入ってきた。


その手には、電話帳のように分厚いファイルの束が抱えられている。


ドサッ!!


机の上にファイルが投げ出され、埃が舞った。


「……なんだこれ」


文哉がファイルをめくる。


『豊川自動車共同検討に関する基本合意書』


『西園寺ケミカル:条件付き内諾(稟議中)』


『メガバンク連合:タームシート(プロジェクトファイナンス案)』


錚々たる企業名のオンパレード。


合計金額は、50億どころではない。


「……し、史郎さん、これ……」


かれんが絶句する。

史郎はふらりと椅子に座り込み、天井を仰いだ。


「……疲れた。タヌキ親父どもを説得するのに、寿命が三年縮んだよ」


そして、ニカっと笑った。


「船は調達した。プラントも借りた。金も引っ張った。……文句ないだろ?」


「す、すげえ……!」


優斗が叫ぶ。

「これ、日本最強チームじゃないですか! まるでアベンジャーズだ!」


「『ジャパン・アベンジャーズ』か。……悪くない」


嘉門先生が「基本合意書」を手に取り、震える声で言った。


「史郎君。……よくやってくれた…」


「礼には及びません。彼らもボランティアじゃない。成功したら、死ぬほど高い利子をつけて請求されますよ」


「だから勝つ。勝たないと、全員まとめて沈む」


史郎は立ち上がり、ホワイトボードの『20,000トン』という数字を指差した。


「さあ、学生諸君。ここからは実験じゃない。ビジネス(戦争)だ。……1グラムも残さず、海底の宝を吸い尽くすぞ!」


オーッ!!


研究室に、今までで一番力強い喚声が響き渡った。


---


## 4.エピローグ:洋上の巨人


数ヶ月後。


小笠原諸島の沖合に、巨大な船影があった。

権田重工が提供した、最新鋭の深海資源調査船『あかつき』だ。


甲板には、真新しい作業着に身を包んだマッドメンたちの姿があった。


いずみは巨大なウインチを愛おしそうに撫で、文哉は船内のスパコンルームで武者震いし、かれんは広報用のドローンを飛ばしている。優斗は、あまりのスケールにただ口を開けて海を見ていた。


そしてブリッジには、嘉門先生と史郎。


「いよいよだな、史郎君」


「ええ。……ここからが本番です」


史郎の視線の先、水平線の向こうには、不穏な影が見えていた。


中国海警局の船だ。


日本の本気の動きを察知し、彼らもまた、動き出していたのだ。


ビーカーを飛び出した泥の物語は、国家と国家がぶつかり合う、荒波の中へと漕ぎ出していった。


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## 〖やさしい 用語解説〗


### 嘉門先生と優斗の「マッドメン・ラボ」


#### Theme 13:魔の川、死の谷、ダーウィンの海


優斗: 今回の「50億円」って話、リアルすぎて胃が痛くなりました。研究ってそんなにお金かかるんですか?


嘉門: 技術を製品にするまでには、3つの巨大な壁があると言われている。

* 魔の川(Devil River): 基礎研究から、製品化のターゲットを決めるまでの壁。


* 死の谷(Valley of Death): 試作品ビーカーから、量産化(工場)へ進むための資金・設備の壁。←今回はココ!


* ダーウィンの海(Darwin Sea): 製品ができても、市場競争でライバルに勝って生き残れるかの壁。


嘉門: 大学の研究の9割は、この「死の谷」に落ちて消えていく。史郎君が橋を架けてくれなかったら、我々もここで全滅していたんだ。


#### Theme 14:コンソーシアム(企業連合)の力


優斗: ライバル同士の企業が手を組むなんて、本当にあるんですか?


嘉門: 最近は増えているぞ。これを「コンソーシアム(共同事業体)」や「オールジャパン体制」と呼ぶ。


一社だけではリスクが大きすぎる巨大プロジェクトや、国際的な競争が必要な分野(半導体や宇宙開発など)では、企業が垣根を超えて協力するんだ。


優斗: 今回は「南鳥島の泥」が、みんなを繋げたんですね!


嘉門: そうだ。「資源がない」という日本の弱点が、逆に企業を結束させる最強の接着剤になったんだよ。


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## 〖免責事項〗

本作はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。また、作中に登場する法律・科学技術・名称等は、物語上の演出が含まれています。


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