表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Mudmen•Blue マッドメン・ブルー  作者: sora_op


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/10

第10話:海を越える青(マッドメン・ブルー)

〖免責事項〗

本作はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。また、作中に登場する法律・科学技術・名称等は、物語上の演出が含まれています。


1.解散命令


南鳥島での採掘開始から三年。


日本からの安定したレアアース供給が始まり、世界の市場価格は劇的に安定した。文哉たちが開発した「深海環境保全型・採泥プロセス」は、その安全性が高く評価され、国際標準化機構(ISO)での規格化議論が、日本主導で始まろうとしていた。


ある晴れた日。嘉門研究室に、いつものメンバーが集められた。


嘉門先生は、少し白髪が増えた頭をかきながら、一枚の紙をペラリと出した。


「……本日をもって、チーム・マッドメンは解散する」


「はあ!?」


いずみが食ってかかる。「なんでだよ! これからもっと忙しくなるんだろ!?」


「研究は終わったんだよ」


先生は窓の外、広がる青空を見た。


「『0』を『1』にするのが俺たちの仕事だ。『1』を『100』にするのは、企業や国の仕事だ。……お前らは、もうこの狭い研究室に留まる器じゃない」


史郎が、壁に寄りかかりながら補足する。


「先生の言う通りです。文哉君にはアメリカのMITから、いずみさんにはNASAの関連企業からオファーが来ている。……優斗君、君にも出版社の編集部から声がかかっているぞ!それとも、ウチの会社来るか〜!楽しいぞ!」


全員が息を呑む。


泥まみれだった日々が、彼らをいつの間にか「世界が欲しがる人材」に変えていたのだ。


「行け。それぞれの場所で、新しい泥を掘れ」


嘉門先生の目は、父親のように優しかった。


---


## 2.それぞれの海


数年後。


### 〖アメリカ・ボストン〗


文哉は、大学の教壇に立っていた。


彼の講義は「非合理的な直感の物理学」。父のような完璧な管理ではなく、カオスを受け入れる新しい科学を説いている。

時折、父から『体調はどうだ』と短いメールが来る。文哉は『そっちこそ、飲みすぎるな』と返す。短いやり取りだが、そこには確かな敬意があった。


### 〖日本・下町〗


「株式会社イズミ・エンジニアリング」の工場。


いずみは、若い職人たちを怒鳴りつけていた。


「バカ野郎! マニュアルを見るな、鉄の音を聞け!」


その工場で作られているのは、月探査機の着陸脚だ。彼女の溶接技術は、ついに地球を飛び出そうとしていた。


### 〖東京・丸の内〗


史郎は、住金商事の常務室にいた。


窓の外を見下ろす彼の元に、かれん社長からビデオ通話が入る。


『史郎さん! キャラクターグッズの売上、過去最高よ!』


「……抜け目ないね。まあ、俺の投資が正しかったということだ」


史郎はコーヒーを飲む。そのカップは、少し泥で汚れたようなデザインの、マッドメン記念マグカップだった。


---


## 3.草原の再会


そして、優斗は。


彼はサイエンスライターとして、世界中を旅していた。


今、彼が立っているのは、中国・内モンゴル自治区。かつてチャオが「汚れている」と嘆いた故郷だ。


だが、目の前の風景は違っていた。

黒く濁っていた川は透き通り、草原には緑が戻りつつある。


その川岸に、最新鋭の化学プラントが建っていた。


看板には『技術提携:JAPAN MADMEN PROJECT(第三者環境監査済)』の文字。


南鳥島で開発された技術は、単に「掘る」だけのものではなかった。


強い酸を使っても、それを完全に中和・回収し、一滴の汚染水も出さない「クローズド・ループ(閉鎖循環)システム」。


海を守るために生まれたその技術が、今は陸の公害を食い止め、汚れた土壌を浄化するために使われているのだ。


プラントの入り口に、一人の男が立っていた。


作業着姿で、少し日焼けした顔。


首には、古びたヘッドホンがかかっている。


「……チャオ君」


男が振り返る。


数年の時を経て、二人の視線が交わる。


言葉はいらなかった。


チャオは優斗を見て、静かに微笑み、ヘッドホンを耳から外した。


もう、外界を遮断するノイズキャンセリングは必要ない。


ここでは、風の音も、川のせせらぎも、すべてが美しいのだから。


「……久しぶりだね、優斗」


チャオの日本語は、あの頃のままだった。


---


## 4.マッドメン・ブルー


帰国した優斗は、久しぶりに嘉門先生の元を訪れた。


先生は相変わらず、薄暗い研究室でカップラーメンをすすっていた。


「……そうか。あいつも元気だったか」


「はい。先生の技術が、あの村を救ってました」


嘉門先生は、窓際に置いてある「南鳥島の泥」が入った瓶を手に取った。


光にかざすと、黒い泥の中に、キラキラと青い鉱物が光って見えた。


「優斗。知ってるか? 『マッド(Mud)』には泥って意味もあるが……」


「『マッド(Mad)』……狂ってる、夢中になってるって意味もありますよね」


「そうだ。俺たちは泥に狂ったマッドメンだ」


先生はニヤリと笑った。


「だがな、泥の底を突き抜ければ、そこには必ず、空よりも深い『ブルー』がある」


優斗はノートを開いた。


この長い長い、泥だらけの冒険を書き記すために。


タイトルはもう決まっている。


泥と、海と、空と、そして国境を越えた友情の色。


――『マッドメン・ブルー』


物語はここで終わる。


だが、彼らのイノベーションは、今日も世界のどこかで、誰かの未来を青く染め続けている。


(全10話 完)


---


# 〖最終回・やさしい 用語解説〗

## 嘉門先生と優斗の「マッドメン・ラボ」


### Theme Final:資源とは何か?


優斗: 先生、長い間ありがとうございました! 最後に一つだけ教えてください。


結局、日本にとって一番の「資源」って何だったんですか? 南鳥島の泥ですか?


嘉門: ……ふん、最後まで凡人みたいな質問だな。


優斗: ええっ!?


嘉門: 泥なんて、ただの物質だ。掘り尽くせばいつかは無くなる。


だがな、今回我々が見つけた本当の資源は別にある。


* 文哉の「疑う知性」


*かれんの 「強い、気持ち」


* いずみの「作る手」


* 史郎の「繋ぐ力」


* チャオの「国境を超える心」


* そして、優斗。お前の「伝える言葉」だ。


嘉門: 「人の知恵と情熱」。これこそが、日本という資源のない国が持っている、唯一にして無尽蔵の資源レアアースなんだよ。


優斗: ……先生。なんか最後だけ、少しいいこと言いましたね。


嘉門: うるさい! レポートの提出期限は明日だぞ! さっさと書け!


優斗: はいっ! ……本当に、ありがとうございました!


---


これで『マッドメン・ブルー』、全10話の完結です。


あなたと共に作り上げた、最高の物語でした。ありがとうございました。


泥の中にはブルーの星屑がつまっていた…

何処にだって、誰にだって輝く宝物はつまっている…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ