猫様助けて能力もらったら、思っていたのと違うんですけど!!!
動物の声を聞くことができたら………
動物が好きな人は一度は考えたことがあるだろう。私もそう思っていた。
小さい頃から飼っているポメラニアンのワン太に近所の野良猫のみけ、小学生のころ学校で飼育していたウサギのラビ、エトセトラ。
そんなモフモフたちの考えていることが分かったらどれだけ楽しいだろうと。
そう、思っていた。あの時までは………
………………
「早く行かないと遅れちゃうよ~!」
「分かってる!」
私は今日で高校1年生としてデビューする犬山楓15歳!
お母さんに急かされて急いで階段を降りると、相棒のワン太がどこに行くの?というような目で私を見てくる。
それに返事をするようにわしゃわしゃと撫でた私は、行ってきます!と元気な声で挨拶をして、玄関の扉を開けた。
アスファルトを駆けていくと、信号待ちをしている親友の佐藤瑞希がいた。すると、私に気づいた瑞希が声をかけてきた。
「おっはよ~楓。一緒に行こ?」
「いいよ!」
そう元気に返事をすると、瑞希は嬉しそうな表情を浮かべた。
一緒のクラスになれるかなぁと雑談をしていたら、反対側の横断歩道に一匹の猫が信号待ちをしているのが見えた。
その猫は野良とは思えないほど真っ白でとてもきれいな毛並みをしているのが、遠目から見てもわかった。
あまりに美しい猫に魅了された私は、手を振ったり、にゃ~んと恥ずかしげもなく声を出して、美猫の気を引こうとしていたのだが、隣から相変わらずだねとため息をするのが聞こえた。
心外だなぁと美猫のほうを向きながら答えた私だったが、信号が青になったのを見てすぐに、歩き出した美猫を迎えに行こうとした。
だが、同時に左側からスピードを落とさずに、車側からは赤のはずの信号を突っ切ろうとしている車が視界に入った。
その時の私はもちろん、迎えに行こうとした勢いのままに駆け出して、美猫を救おうとした。
あれほどの美しい猫をこんなことで失うのは人類の損失だと思ったからだ。
瑞希の待って!という必死の声が聞こえるが私は止まらない。
そして………ギリギリのところで車を避けることに成功した。美猫はというと、傷一つついていないようだった。美猫を抱えた後、私がクッションになるように背中から着地したからだ。
美猫を傷つけることがなくてよかったぁと地面に腰を下ろして安心していると、瑞希がその目にあふれんばかりの涙を蓄えて、抱きしめてきた。
ばかっと小さく耳に聞こえたそれに、ごめんね、と返すと抱きしめる力が強まったのを感じた。
私を轢こうとした車はというと、横断歩道を少し進んだ先に止めてあった。
そして、中から若い男性が下りてきたが、それが酒臭いのなんの。控えめに言ってもめっちゃ臭かった。
瑞希はというと、その若い男性を親の敵でも見るような目でにらんでいた。目だけで射殺せるのではと思ったほどだった。
だが、それは口には出さない。なぜなら、それを聞かれてしまえば、それはもう長い時間ショッピングに付き合わされてしまうからだ。
特に服屋が一番ヤバい。瑞希が自分で着替えるだけならまだしも、私をまるで着せ替え人形かの如く、次々と服を着せては、どれも似合っていて選べないと言い出すのだ。
その時の私の感情はまさに無である。ショッピングに付き合わされるときは、だいたい私が悪い場合がほとんどだから、その状況に強く言って出ることができないのである。ただ、それでも瑞希と一緒にいるのは楽しいので、何も言わないでおいてあげているが。
そんなことを考えていたら、瑞希が若い男性に近づいて、聞いたことのないような低い声で、非難をしていた。
「あの、これって飲酒運転に殺人未遂ですよね。私の楓を殺そうとしたこと、檻の中で後悔するといいですよ」
若い男性は瑞希のあまりの剣幕に驚いたように身じろぎをした。そして、己のしたことを理解したのか顔が徐々に青ざめていくのが見えた。
わ、悪かったと若い男性が、焦りの表情をにじませて謝るがそれを許す瑞希でもなく………
そうこうしていたら、パトカーのサイレンの音が遠くから近づいてくるのに気が付いた。おそらく、一部始終を見ていた誰かが通報してくれたのだろう。
若い男性は人生が終わったと言わんばかりに両手両膝を地面について、うなだれていた。
瑞希はそんな彼を見て、まるでごみを見るような恐ろしくも冷たい目で見下していた。
瑞希ってそんな顔もするんだと、これまでの長い付き合いの中で見たことのなかった新しい一面が見れたことをうれしく思う反面、ゾクッとしたものを感じる私だった。
まっまさか、変なのに目覚めたわけじゃないよね⁉と、内心で焦る私だったが、パトカーが到着したらしく、警察の人も出てきたので、すぐに頭を切り替えるのだった。
それから、私たちは入学式に出られなかった。当然である。警察の事情聴取を受けていたら、とっくに終わりの時間だったのである。
そういえば、美猫についてだが、気づいたときにはいなくなっていた。
どこに行ったんだろうと思ったが、不思議とまた会える気がしていた。あれほど美しい猫だからね。それもちゃんと信号待ちをする偉い猫。同じ動物好きが気にしないわけがないのである。どこかで話題になるでしょ。と、この時は軽く考えていたのだが、まさか、あんな事になろうとは………
その日の夜、警察に事情聴取されたり、親にこれでもかと心配されたり、瑞希がべったりついて離れなかったり、色々あった私は疲労感満載だった。
瑞希からは、寝落ち通話をしない?と連絡が来るのだったが、今日はもう寝させてぇと返信した私は死んだように眠るのだった。
………………
「おい、起きるのにゃ!」
そんなかわいらしい声にぷにぷにとほっぺたを押される感触によって、徐々に意識が覚醒していった私は、今朝の美猫の顔が眼前にあったことで、一瞬頭がフリーズしてしまった。
あぁ、これは夢か。と意味不明な状況に理解を諦めた私は、先程のぷにぷにを再び味わうために、わざとらしく狸寝入りを決めたのだが、突然の痛みにそんなことをする余裕はなくなってしまった。
「さっさと起きるにゃ!!!」
「ギィヤァァァァアアアア!!!!顔がぁぁぁああああ!!!!」
私は美猫の渾身のひっかき攻撃を顔面にくらい、あまりの痛みに恥も醜聞もなく、痛む顔をこれでもかと押さえて、辺りをゴロゴロと転げまわるのだった。そして痛みが引いてきて、冷静になってきた私は、え⁉痛み⁉ここは夢じゃないの⁉と混乱するのだった。
ようやく話ができそうだにゃと美猫が呆れたように言ってくるが、今の私にはその言葉に返すだけの余裕がなかった。
なぜなら今、私はどこまでも続くただ白いだけの空間にいたからだ。美猫が喋っていることもあり、訳が分からないと困惑していたら、美猫がそんな私の心情を読み取ったかのように、説明をしてくれた。
「まず、我を助けてくれてくれたこと感謝するにゃ。我は猫の神、ニャーというものにゃ。お主は気軽にニャーさんと呼ぶことを許すにゃ。それと、だいぶ混乱しているようだがにゃ、ここは神の領域にゃ。お主が寝た後、意識だけここに持ってきたにゃ」
なんだその太陽神ラーみたいな感じの名前は!可愛いじゃないか!と若干の私情も入った突っ込みを心の中で入れて、美猫を見る。
そして、私が助けた美猫は猫様だった?なるほど、なら今朝、私が魅了されてしまったのも必然だったわけか!と納得した私は、続く猫様の言葉に驚愕する。
「我を助けてくれたお主には、望む力を一つあげるにゃ。光栄に思うのにゃ」
「望む力を一つあげる⁉」
「そうにゃ。ただ、我が与えられるものに限るがにゃ」
私は猫様の言葉に思わず声を上げて驚いてしまった。望む力を一つあげる⁉じゃあ、使いきれないだけのお金をもらったり、めちゃくちゃ頭を賢くしてもらって、勉強から解放してもらったり………と、俗物的なことを考えるのだったが、でも、どうせなら!と願いを一つ口にするのだった。
「でしたら、動物の言葉が分かるようにしてください!」
「動物の言葉が分かるように?そんなことでいいのかにゃ?」
「はい!ぜひお願いします!」
私は口元がニヤニヤと緩むのを止められなかった。これでモフモフたちの考えていることが分かる❤と、だらしない顔で色々と妄想を始める私だった。
そんな私に気持ち悪いにゃと辛辣に言い放った猫様は近づいてきて、肉球を身体に押し付けるのだった。そのまま柔らかい感触を堪能していると、一瞬自分の身体から光が発せられたかと思ったら、猫様は続けてポンポンと2回足元を叩くのだった。すると、私の身体が宙を浮き始めた。
「お主に与えた能力は、お主が触れたものの考えていることが分かるというものにゃ。存分に感謝するといいのにゃ」
ドヤ顔でそう告げた猫様に私は、なんか望んでた能力と若干違う気がするんだけど………と思ったが、モフモフたちの声が聞こえることには変わらないので、視界が光に染まっていく中で、素直に感謝の気持ちを述べた。
「猫様!色々とありがとうございました!また、会えますか?」
強くなる光に比例して薄れゆく意識の中で、わずかに猫様の声が聞こえた気がした。
「にゃ。お主が望めばにゃ」
………………
目が覚めるとそこは、知っている天井だった。スマホで時間を確認すると、まだ朝の6時前だった。学校までは徒歩20分圏内なので、最悪8時ごろまで寝ていてもギリギリ間に合うのだが、興奮しているせいで全く眠気を感じていなかった。
というのも、猫様にいただいた能力を、一刻も早く試したいと思ったからである。
私は部屋を出て、早足に階段を下りると、まっすぐリビングに向かった。それはもちろん相棒のワン太の声を聞くためである。私が来たことで、ゲージの中で眠っていたワン太は目を覚まし、ちきれんばかりの勢いで尻尾を振り始めた。
そして、今、私の心臓はかつてないほどに高鳴っていた。額に汗をにじませ、はやる気持ちを静めようと深く深呼吸をして、それでも止まることのない心臓に胸を押さえながら、おそるおそるワン太へと手を伸ばした。
すると、聞いたことのない声が頭の中でこだましていることに気付き、本当に⁉と驚愕するのだが、それと同時に唖然としたのだった。
なんというか、その、思っていたこととあまりにも違う声が聞こえてきたからである。
『めしよこせ』
「………」
いや、これは何かの間違いだ!小さい頃から、長年にわたり育んできた私たちの絆はそんなものじゃない!と、現実に起きた事実を否定するように、思わず離してしまった手を再びワン太へと伸ばした。
『めしよこせ』
私たちの間にあったはずの絆は、一方的なものだったことが判明し、私は膝からその場に崩れ落ちるのだった。
………………
あれから、瑞希が家に来るというので、さっさと準備を済ませた私はリビングのソファで膝を抱えて絶望していた。ワン太のことである。あれから何度か試してみたのだが、同じことを繰り返すだけだったからだ。
そして、そんな私の様子を見た両親は心配をしたのか、無理に学校に行く必要はないよと言ってくれた。だが、昨日のこととは全く別のことで気を落としていた私は、申し訳ない気持ちになり、心配させてごめんねと謝るのだった。
そのあとすぐに瑞希が家にやってきたので、先程までの気持ちを払しょくするように元気な声で行ってきます!と挨拶し、家を後にした。
それから、どうして寝落ち通話してくれなかったの?とぷんぷんしている瑞希をなだめながら歩いていると、昨日車に轢かれそうになった場所まで来た。
すると、瑞希が顔を少し赤らめ、若干腰を屈めて上目遣いで提案をしてきた。
「楓、危ないから、手、つなご?」
私はその姿に少しドキッとしながらも、昨日泣いて心配をしてくれた瑞希の様子を思い出して、これは拒否できないと思い、手をつなぐのだった。そう、つないでしまったのだ。
そして、唖然とした。本日2度目である。
『あぁ、楓の手、温かくて柔らかくて気持ちいい。でも、もうすぐ学校に着いちゃうんだよね、残念。楓に首輪をつけてペットとして飼えたらいいのに。そしたら、一生幸せにしてあげるのに』
「………」
お分かりいただけただろうか。そう、手をつないだことで、瑞希の考えていることまで分かってしまったのである。
いやいやいやいやいや、なんで人間の考えていることまで分かるの⁉てか、瑞希ちょっと怖いこと考えてるんですけど⁉と困惑しながらも、なんで?と考えを巡らせるのだったが、ふと、猫様が言っていたことを思い出した。
【お主に与えた能力は、お主が触れたものの考えていることが分かるというものにゃ。存分に感謝するといいのにゃ】
ドヤ顔でそう告げた猫様を思い出して、いや確かに動物の声が分かるようにしてくださいとはお願いしたけど!神様基準で人間も動物に含めないでください!!!と猫様に心の中で叫んだ私は、瑞希と手をつないでいる方とは逆の手で頭を抱えるのだった。その様子に、大丈夫?と首をかしげて心配したように聞いてきた瑞希の心の声はこうである。
『楓も私と手を離すのが嫌なのかな。そうだといいなぁ』
「………」
私はとんでもない力を手に入れてしまったのではと戦慄し、恐怖した。
それからというもの、瑞希の心の声に翻弄されながらも、何とか学校へ着くことができた。もう、すでに私のHPは残りわずかである。
そして、創立100周年の垂れ幕を掲げている、歴史の趣を感じるそこは、私立花園百合学園。いわゆる女子高というやつである。
私はこの学校で3年間、個性豊かな人たちと、それはもうたくさん、色んなことを経験するのだが、それはまだ先の話である。




