~ プロローグ ~
放課後の帰り道。
街灯の下で、俺――**縁守結人**は、スマホを握りしめながら深く息を吐いていた。
(今日こそちゃんと別れるって言おう……)
震える手でメッセージを打とうとして、また消す。
優柔不断なのは自分でもわかっている。
でも、あの子を傷つけたくないと思うほど、逃げ道は消えていった。
そのとき――背後から、聞き覚えのある声がした。
「……ゆうとくん。今日は帰ってくるの、遅かったね?」
心臓が跳ねる。
振り返ると、彼女の 唐樹依夢が静かに立っていた。
笑っているのに、その瞳は一切笑っていない。
「ご、ごめん、依夢。実は最近、ちょっと距離を置きたいっていうか――」
「ねぇ、どうして? 私のこと……嫌いになった?」
にじり寄る気配に、喉が詰まる。
別れ話を切り出す勇気なんて、もうどこにもない。
「違うよ。ただ俺……」
「じゃあ、なんで逃げるの?」
気づけば数センチの距離。
依夢の手が、俺の腕を強く掴む。
「他の女がいるんでしょ……? ねぇ、誰? 誰なの?」
「いないよ! 本当に! 俺はただ――」
「じゃあ、ずっと私のそばにいてよ」
次の瞬間。
胸の奥が、熱いのか冷たいのか分からない感覚に包まれた。
視界が揺れる。
見下ろすと、依夢の手の中に小さなナイフがあった。
「大丈夫。痛いのは最初だけだから……私がずっと支えてあげるからね?」
「……ごめん……」
それしか言えなかった。
意識が遠のく中、依夢の声だけが耳に焼き付いた。
「――ねぇ、また生まれ変わっても、私だけを見てね?」
呪いの言葉のように、深く深く染み込んでいく。
そして――世界が暗転した。




