ギターで魔王討伐しちゃいまいした 第一話
この物語はフィクションです。実際の人物、団体等とは一切関係ありませんので、よろしくお願いいたします。
朝7時37分。いつもの電車に乗る。急行明浜行10号車3番ドア。電車に入った瞬間、冷気を感じる。
「いつもありがとうございます、めっちゃ涼しいです」
そう小さく呟く。前の人が怪訝な顔をした。どうやら聞こえてしまったようだ。変人認定されただろうが、そんなことは気にしない。バッグからイヤホンを取り出して、スマホで曲を再生する。
俺は三島祐樹。私立鷹島学園に通う、高校1年生だ。趣味で友達とバンドをやっている。父の影響で昔の洋楽をよく聞いており、憧れがあったのだ。一応ギターを弾いている。
プシュー。電車が駅に停車し、ドアが開く。続々と人がなだれ込んでくる。
どの曲を聴こうかな。「これでいいか」
思わずイントロのギターに酔いしれる。やはり名曲だな。そうこうしていると、次の駅に到着した。乗り込んでくる人の中に、見慣れない人を見かける。うちの制服だ。
???と思ったかもしれないが、俺は観察力だけは自慢で、いつもの電車に乗ってくる人はなんとなく記憶している。気持ち悪い? 勝手に言え。俺が変わっているのは重々承知している。
しかしさっきの人可愛いな。金髪だ。外国人なのだろうか。
おっと、明浜駅に到着した。人が我先にとドアへ向かう。もう七月で、通学に電車を使い始めてから3か月ほどたつわけだが、これだけは慣れないし、理解できない。もっとゆっくり降車すれば良いのに。
いつの間にか金髪の女性はいなくなっていた。ベタな展開ならば、あの女の子は俺のクラスに転校生としてやってくる。そして、俺はこういう勘はとても鋭い。つまり、そういうことだ。
さて、朝のHRだ。戸が開いて、先生が入ってくる。
「転校生紹介するぞー」
ああはいはい。お約束の展開ね。
「転校生の田神君だ」
は? 金髪美女は?
「どうも、田神です。よろしくお願いします。」
体から陰キャオーラがあふれ出ている田神は、俺の2個後ろの席に座った。
「みんな、仲良くしてやってくれ」
先生も陰キャオーラにたじろいでいるようだ。明らかに表情が引きつっている。
「ええと、まあ、よろしくお願いします」
田神が隣の女子に挨拶をする。だが、女子はこんな陰キャとは話したくないという顔をしている。
「え、・・・ああー、よろしく。」
田神もそれを感じ取ったのだろう、それ以上の話はしないようだ。賢明な判断である。
なにせ、その女子は今宮愛梨。クラスの人気者だ。転校して早々、今宮に嫌われたら一巻の終わりと言っても過言ではない。SNSでフォロワーが多いらしく、女子からの人気が高い。昼休みは、彼女を中心に10人ほどの女子が集まっている。また、なかなか可愛いため、男子からの人気も高い。
つまり、彼女に嫌われるということはクラスから嫌われるということだ。
と、ここまで言っておいてなんだが、俺みたいなクラス内の派閥なぞどうでもいい人もいるため、別に人生終了とまでは行かない。それでも転校早々クラスの4分の3から嫌われるのは大打撃ではあるが。
「よーしHR終わるぞー。日直。」
「これで、朝のHRを終わります。気を付け、礼。」
いつの間にかHRが終わっていた。さて、1時間目はーーー美術か。じゃあ、美術室にーーー
「ドサッ。」田神の机の方で、何か音がした。振り向いて・・・察した。
床に落ちているバッグ。怒っている今宮。おろおろする田神。俺は、無言で教室を出た。
そして、心の中で叫んだ。
「やっばwwwwフラグ回収速すぎだろwww」
ともかく田神も終わりだ。
そして1週間後。田神は家庭の事情とやらでいなくなっていた。
今宮は満足そうな顔で、ふんぞり返って座っていた。
はあ・・・俺は大きくため息をつく。この現状が間違っているのはわかるが、変える勇気がないし、何より面倒くさい。
その日の授業は考え事をしていたら終わった。
はあ・・・ またも大きなため息をつく。
そして・・・深い眠りについた。
ガバッ。悪夢を見た気がする。水を飲もうとしてベッドを降りる・・・と・・・
ん?これ、俺の家じゃなくね?なんか、家が木でできてるし。
なに?最近よくある異世界転生系?
カチャ。部屋のドアが開いた。するとそこには、あの金髪の女の子が!
「大丈夫ですか?」
どうやら話を聞いてみると、俺は道で倒れており、彼女が助けてくれたらしい。何を言っているのかは全く理解できないが、ジェスチャーでなんとなくわかった。しかし、ベタな展開だな。新しさが全く感じられない。おいおい、どうせならオリジナリティーのある話を考えろや。そうしているうちに、うとうとしてまた眠ってしまった。
目が覚める。すると、そこは俺の家だった。なんだ、夢かよ。つまんね。
そう思いながら学校に行く。
「しかし、妙にリアリティのある夢だったな」
HRの時間だ。特に転校生も来ず、普通の1日だった。特筆すべきところ、一切なし。
家でベッドでスマホをいじりながらゴロゴロしていると、いつの間にか寝てしまった。
目を覚ますと、またあの異世界にいた。今度は俺のギターと一緒に。
????
ほっぺたをつねってみる。
夢じゃない・・・みたいだな。
しかし、あの家ではない。俺がいるのは道端だ。
「うげえ、野宿なんて初めてだわ」
思わず声が出た。
読んで下さりありがとうございました。