大事な大事な友達
山手線の電車に揺られながら、僕はふとスマートフォンを手に取り、無意識のうちに過去のメッセージをスクロールしていた。
みんなLINEのメッセージはどれくらい見直すのだろう。
ふと、画面に現れた一つの名前に心が止まる。
アイコンの名字が変わってる人もいる中、彼の名字もアイコンももちろん学生の時のままだ。
音信不通になってしまった友達、龍太の名前がそこにあった。
僕たちは大学時代の友人で、いつも一緒に何かをしていた。
二子玉川で遊んだこともあれば、秩父に旅行しに行ったこともある。
龍太は明るくて社交的で、新入生歓迎会のときには向こうから話しかけてきた。
そして、修論発表会とか卒業生のときにはワックスで髪をキメていた。
いつも笑顔で話していた。
誰とでもすぐに打ち解けるタイプだった。
一方、僕はどちらかというと内向的で、彼のような存在がいたからこそ、大学生活を楽しむことができた。
最後に会ったのは、社会人二年目だった。
新宿の飲み屋で再会し、昔話に花を咲かせた。
社会に対する呪詛と上司に対する意見、会社ってこうだよなとか他愛もないことを喋った。
2次会はゴールデン街でタトゥーが体全体に入っているおばちゃんと話をした。
飲み屋には世界中のお札が画鋲で貼ってあった。
彼はペルーの紙幣を画鋲で壁に貼っていた。
しかし、それが最後の記憶だ。
その後、彼は突然連絡が取れなくなった。
何度もメッセージを送ったが、返信はなかった。電話をしても、応答はなかった。
ある時思い出して吉祥寺の地下街のベンチで電話をかけたが、応答はない。
スマートフォンの画面に映る彼の最後のメッセージを見つめながら、僕は彼がどこにいるのか、何をしているのかを考えた。
彼はいつも新しい挑戦を求めていた。
もしかしたら、どこか遠くの国で新しい人生を始めたのかもしれない。
実際にヨーロッパや南米に一人で行ったりした。
あるときインスタのストーリーで真っ黒な画面で
「会社で膨大な報告書を書くのに疲れました。連絡もらってる方すみません。」
と書いてあった。
一体どうなっているのだろうか。
電車の窓から外を見つめると、東京の街並みが流れていく。ビルの光が夜空を照らし、人々の生活がその中で営まれている。
その中に、龍太の姿を見つけることはできないが、彼もまたこの街のどこかで生きていると信じたい。
僕は再びスマートフォンに目を戻し、彼の名前をタップして新しいメッセージを作成する。
「元気か?いつかまた会って話がしたい。」
指が動くたびに、彼との思い出が蘇る。
共に過ごした時間、共有した笑い、未来への夢を語り合った夜。
送信ボタンを押す手が一瞬ためらうが、結局そのまま押してしまった。
しかし、既読がつくことはないだろうという予感が胸を締めつけた。
それでも、送らなければならなかった。僕たちの過去が無意味ではないことを、自分自身に証明するために。
そしていつまでも待っておこうと思う。
不思議なことに高校を卒業して5年後位に急に話すようになった知り合いもいる。
人間関係を構築するのに数年では足りないというのが僕の特徴なのかもしれない。
それこそスタンド・バイ・ミーのように人間関係はくっついたり離れたりするものだろう。
電車が次の駅に停まり、扉が開くと新しい乗客が乗り込んでくる。周りの人々はそれぞれの目的地に向かって進んでいる。
僕は深い息をつき、再び窓の外を見る。
連絡を取らないべきか迷うとこころではある。
連絡を取ろうとすること自体、僕の我儘なのかもしれない。
ただ、連絡が取れなくなってからそれから僕も少し変わった。
僕はポジティブなことであればどんな相手に伝えるようにしている。
男性でも女性でも。
ありがとうの気持ちも。
言い残して後悔したくないという僕が自分勝手な理由だ。
あとは失いたくない友人には積極的に連絡を取っている。
電車が再び動き出し、次の駅へと向かう。
山手線の環の中で、僕は彼との思い出を抱えながら、また新しい日々を歩んでいくのだろう。
彼がいつか再び連絡をくれることを信じて。
10年後でも構わない。
時の流れの中で、僕たちの友情が再び交差することを願って。