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春待ちウサギ、冬の章~ぽんこつ貴族は滅びかけ領地にて~  作者: ししゃも
第二章 騎士は食わねど空元気っ!
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第54話 結成! 冒険者パーティ?

「それではこれより……第一回! 『芋の苗捜索遠征』作戦会議を開始する!」

「もうちょっと雰囲気出る名前付けられなかったのかよ」


 グレーテ博士を訪ねた翌日、昼過ぎ。

 客のいない酒場の一席で、シュニーは高揚に声を張り上げ宣言した。


「いえーい!」

「わ、わーい……」


 それを迎えたふたつの声は、酷く対照的だった。

 諸手を挙げて元気に応じるマルシナに、言わされている感溢れるどもった声のナルナ。

 騎士と魔術師、元気と控えめ、武闘派と頭脳派。色々と正反対な少女たちは揃ってシュニーの前で椅子に座っている。


「んで、なんで俺まで……」


 そして三人目。

 やる気の抜けた表情で机に頬杖を突くラズワルドが、これまた疲れた声で愚痴を吐いた。

“明日大事な話し合いがあるからぜひ参加してくれたまえよ”。

 グレーテ博士との別れ際シュニーに言われた彼は、早朝ステラをフィンブルの町に送った後、とって返してスノールトの街に戻り今ここにいる。

 シュニーの目的は知らないが、フィンブルの町の農作業含めた今後について話し合う時のお供にされるのか。冒険に出る、という話があったので人員や道具を見繕う必要もあるかもしれない。

 自分に向けた用件を予想したラズワルドは、シュニーからの頼みを断らなかった。

 幸いフィンブルの復興作業もある程度安定し始めたし、弟分たちの猛訓練が特別必要な情勢でもない。ステラからはたまには何日か纏めてお休みを、などと言われたばかりだ。なので手伝いくらいなら付き合ってやる暇があった。


「決まっているだろう。ボクたちは冒険を共にする仲間じゃないか!」

「いつ決まったか覚えがねぇよ!」


 手伝いどころではなかった。

 一体何が決まっているのか。いい笑顔で当然のように言い放ったシュニーへと鋭く指摘するラズワルドに、マルシナとナルナの驚いたような顔が向く。


「おや? 伝えた気がしていたのだがね……?」

「全く聞いてねえし、お前らもその“違うの!?”みたいな顔やめろや……」

 

 当然のように頭数に入れられていた事実に頭痛がして、ラズワルドは頭を片手で小さく抱える。

 まずは大前提から話し合って認識をすり合わせるべきではないのか?


「じゃ、じゃあ……。マルシナさんとふたりきりじゃない、ってシュニー様がおっしゃっていたのは間違いだったのですね……?」

「い、いや……キミもいるだろう?」

「わたしも入ってるんですかぁ!?」

「そっちも話通ってねぇのかよ」


 その疑念は、雑然とした会話で確信へと変わった。

 進行がぐだぐだすぎる。

 ひとまず話を整理するために、ラズワルドはシュニーの手元にあった依頼書をひったくるのだった。


────

「まず、認めようじゃないか」


 シュニーは、多くの大人と子供を苦しめていたすれ違いを治めてみせた立派な領主である。

 成された変革を見れば、シュニーに対して好意的な評価を下す領民は少なくない。


「状況に期待が募るあまり、事前確認を怠りに怠っていたという事実をね……!」


 一方で、シュニーはまだまだ感情に流されやすい未熟な人間だった。

 激憤に呑まれれば判断を誤るし、喜びの感情が強ければそれはそれで視野が狭くなる。

 大人ですらそうなるのだ。齢12の少年がそうなるのも致し方なきことと言えよう。

 実績と合わせて考えれば、多少の失態は許されるのではないだろうか。


「なんたる……なんたる恥だ……!」

「ほんとにな」


 シュニーを擁護するためにそう理屈立てれば一理くらいはあったかもしれないが、本人が堂々と主張できるかどうかはまた別の話。

 両手で顔を覆うシュニーに、ラズワルドが容赦なく追撃を加えた。


「領主殿のこと叱らないであげて! はじめての冒険に行く! そのためにはじめてみんなで話し合う! ってなったら誰でも嬉しくなっちゃうよー」

「マルシナ……気持ちは嬉しいが擁護の必要はないよ……」


 ラズワルドに指摘されてはじめて気付いた、周囲への情報の行き違い。

 それは普段の自分であれば、絶対にしない……までの自信はないがここまでにはならないはずの失態だ。

 同じく冒険好きのマルシナは擁護してくれたが、今のシュニーにとっては逆効果だった。


「ちょ、ちょっと変だなーって思ってたんです……。今日のシュニー様、なんだかとても元気というか……目が輝いてる、みたいで……」

「そこまでかね……」


 しかも周囲に違和感を覚えられるくらい舞い上がっていたらしい。

 恥に恥が重なっていると自覚しうめくシュニー。

 このままでは冒険に出る前に精神面で力尽きかねない。

 

「……で? 俺らに同行してほしいって話だったか?」

「っ、そうなのだよ! 今回の探索のため、キミたちの力が必要だ!」


 そのため、呆れたような溜息と同時の助け舟にシュニーは縋りついた。

 極寒の気候に適合したマカイモを探す為、“冬”の領域を探索する。

 降ってわいた冒険の機会だったが、頭が痛いのは戦力について。

 シュニーとマルシナだけでは当然不足があり、他にも頼れる人間を探す必要がある。

 

「ラズワルドさんにナルナさん、わたし……戦う可能性も考えた旅群(パーティ)として最低限度……みたいな形でしょうか……?」

「よくわかったね。マルシナとラズワルドが前衛で、キミが後方から魔術による支援。ボクは……ひとまずは中心で指揮や警告、みたいな役割になるだろうか」


 察しのいいナルナに頷きながら、シュニーは皆に伝わるよう意図を説明する。

 戦闘を目的とした冒険者の構成単位は、旅群(パーティ)と呼ばれる三人から八人ほどの集団が基本となる。

 その中でもシュニーが考えたのは、自分自身を除けば最小に近い人数となる編成だった。

 接近戦用の武器を振るい前線を維持する“戦士”と呼ばれる区分がひとり、可能ならふたり。後方からの攻撃を行う魔術師や射手がひとり。前衛後衛と役割がはっきりしたシンプルなものだ。


「キミたちはどう思う? ボクなりに、領地の事情を考えた数と役割分担だ」

「いいと思う! 多すぎず少なすぎず、だね!」

「組み合わせはいいと思います、けど……」


 シュニーの確認に、冒険者に関する知見が集まった中で最も深いマルシナが真っ先に納得する。

 “冬”の領域に投入される人員の数は、大まかに分けて三択である。

 数百人からそれ以上の数で構成された国家規模で捻出した戦力か、数人一組の旅群か、極まった強者による単騎駆け。

 シュニーが選んだのは、その内の真中……というか、それしか選べないのが実情だ。


「……もっと大人数で行けねぇのか? いくらか見繕えば、腕っぷしがいいのくらい二三十は集まんだろ」


 ラズワルドの疑問は尤もだった。

 数でごり押しが利かないというスノールト領の事情は承知の上。が、だからといってどうして数人という頼りない数で“冬”に踏み入るのか。

 いくつかの集団が手を組んで数十人で挑めば、犠牲者も減らせてかつ簡単に片が付きそうなものだが。


「ああ、キミは“冬”の性質についてはあまり明るくないのか」

「生憎な」


 それだけを聞けば、間違いない正論だった。


「実際、大規模で危険な地下迷宮等は数十人規模での探索も行われるが……“冬”に限っては、そうも言えなくてね」


 だがただの未開地探索であれば正論となるそれが誤りに転じるのが、災厄の領域だ。

“冬”との戦いに明け暮れて久しいバルクハルツ帝国は、それに対する理解が最も進んでいる国のひとつである。

 この国に仕える貴族の末として、シュニーは“冬”によって作り出す異界についていくらかを知っていた。


「多すぎればその目に捉えられ、少なすぎるとただ自然の威に押し潰される。それこそが、“冬”の理なのだよ」


 万軍を滅ぼせるだけの力を持たないなら、冬に存在を感付かれてはならない。氷獄に独り立ち向かう心と力が無いなら、身を寄せ合う相手を作らねばならない。

 かつて学び、これから実践に至る内容をシュニーは諳んじてみせる。


「冬に“人間が入った”と気取られてしまえば、その時点で領域中の氷魔が押し寄せてくる。そうなればおしまいだ」

「なんだそりゃ……生き物みたいじゃねえか」


 奇妙な話だが、“冬”は『人間の侵入に気付く』という概念を有していることがわかっている。

 一定以上の人数が踏み入れば、たちどころに周辺一帯の氷魔がまるで何かに統率されているかのように総軍を以て殺到してくるのだ。

 元々“冬”の領域は近づいただけでも絶えず氷魔の襲撃を警戒せねばならない危険地帯だが、これに関してだけは度合が違う。

 下級のものでさえ複数人を容易に殺傷せしめる怪物が数百数千と襲い掛かってくれば、戦いの心得がある人間数十人程度ではすり潰されるのが目に見えている。


「だから、中途半端な大人数は送れない。そしてボクたちは、全力を挙げてもその中途半端な大人数しか用意できない」

「そうだよね。冒険者、あんまり見かけないし……」


 故に、大人数で“冬”に挑むのであれば、真正面から殴り合った上で勝てるだけの戦力が前提となる。

 そして今のスノールト領には、“冬”に全面戦争を挑んで勝てるような余裕は存在していない。そもそも、それが叶った実例は世界中を見ても数例のみだ。

 近辺の氷魔が極端に少ない、という可能性はあるかもしれないが、領地の有望な戦力数十人の全滅と天秤にかけるには分が悪すぎる賭けなのは言うまでもない。


「そして──独りで“冬”を乗り切れるだけの人間もいない」

「これは……最初から無理ですね……」


 もうひとつ存在する選択肢は、極まった強者がひとりで探索を行うこと。

“冬”の目を恐れなくてもいいのは前提として、通常の隠密行動も各段に楽になるのが利点である。

 個人の能力がイコールで行軍速度となるこの選択肢は、ただ決まった探し物を素早くこっそり探すだけなら最も向いている。

 ただこれもまた、今のスノールト領では無理な話だ。

 本来複数人で行う遠征をひとりで行う以上、当然実行する人間に要求される能力は極めて高い。

 この地にそこまでの強者がいるとは思えなかった。


「……だから、少人数での地道な探索が一番都合がいい。色々とね」


 だからこそ、今存在する可能性を検討してシュニーが選んだのが数人による探索。

 その決定には、およそ九割の理性的判断に一割の私情が含まれている。


「色々と、なぁ」

「む……」


 ラズワルドの含みある言葉に、シュニーは微かに眉根を下げる。

 何気なく実際に現地入りするひとりであることを前提として話していたが、シュニーが冒険に行くと決めていたのは、食糧問題に関する対応策が一息ついた後の趣味の話である。


 問題解決の過程に『マカイモを求めての“冬”の探索』という冒険の機会が巡って来たのは、言ってしまえば偶然だ。

 領地の進退が関わっている以上、このマカイモ探しに自分も同行したいというのは趣味の範疇を越えた我儘だった。


「……ああ、色々だとも。協力してくれるのかくれないのかどっちだね」

「ま、丁度暇してたトコだ。俺が行かなかったせいでくたばられても居心地が悪ぃや」


 そんなシュニーの少々後ろめたい自覚は見透かされていたようで、不愛想な友人は小さく笑う。


「おお……!」


 仕方ない、とでも言いたげな発言内容に反して、その声はごく小さく弾んでいた。

 シュニーがそれに気付くことはなかったが。


「いいね、実にいい! では早速、準備を進めようじゃないか! 最初の探索は、現地がどんなものか軽く確認するのと各々の技能を確かめる馴らし程度の軽いものを考えていてね! 具体的な計画案も今から四人で考えようじゃないか!」

「終わったらお祝いしないとね! あと旅群(パーティ)名! すっごく大事だから皆でいい名前決めよーね!」

「……あの」


 最も参加が危ぶまれた人間が無事加入した事もあり、シュニーのテンションは露骨に高くなっていた。

 常時テンションが高いマルシナもその熱に乗り、場の空気が一気に温まる。


「実は、何だかんだで上手くいくんじゃないかと思い始めていてね! キミたちの力は以前示してくれた通りだし、優秀な魔術師もいる!」

「えーっと……」


 その喧騒に、今まで無言で彼らを見守っていたマスターもほろりと涙を零さずにはいられない。

 どんな過酷な世でも、将来への希望を語らい旅立とうとする雛鳥たちの姿は尊いものだ。

 景気づけに肉料理を奢ってもいいかもしれない。


「あ、あのっ!」


 そんな和やかな空気が場全体に漂った矢先。


「ごめんなさい……言い出せなかったんですが、わたしは行けないです……。すぐ倒れちゃいますし……お師様から言われたお仕事があるので……」

「えっ」


 優秀な魔術師が結成一日目でパーティを抜けた。

 前途多難。

 昨日も思い浮かべた気がするその言葉に、シュニーは頭を力なく机に落とした。

ご観覧ありがとうございました!

次回からいよいよ冒険開始です。前途多難。

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