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Page:7 「覚悟を見せて」

 ーーその日の夜。


『はぁ!?マジで?そんなことあったってか!?』


「うるさい」


 夜、俺は自室で神代に今日あった出来事を電話で報告していた。アークなら聞き取りやすい大きさで流してくれるのだが、それすら突破してくるこのうるささ。思わずアークを外してしまった。


『クッソ!またかよ!』


「またってことは……」


『ああ。去年の話だけどいたんだよ!あいつのせいで死んじまった奴が!』


 疑ってたわけではなかったが、清水の話は本当だったというわけか。


『耐えられなかったんだろうな。あいつ女だったし、クソ真面目だったから……』


「それは知穂という名前の生徒で間違いないか?」


『ん?ああそうだけど、なんで知ってんだ?』


「清水が言ってた。友達だったんだとさ」


『へー、あいつに友達がねぇ。確かに、あん時先行の静止を振り切って駆け寄ってたしな。……はぁ。クッソ、益々許せねぇよ!伊吹の野郎!』


「ああ。なるべく早くに解決する必要がある。出来れば、冬休みに入る前には解決したいな」


『もう一週間以内にぶっ飛ばしてやりてぇところだけどな!』


「流石に焦りすぎだ」


『わーってるよ。慎重に、だろ?俺だってカッとなるばっかじゃねぇんだぞ』


 どうだろうか。向こうの世界で次に伊吹を見つけたら、それこそカッとなって襲いかかりそうだけどな。まあ、その時は俺がストッパー役か。


「明日、もう一度パトリアムに挑戦する」


『お、なんか算段でもあんのか?』


「生徒相手への聞き込みはもう意味がない。全員関わるなしか言わないからな」


『そうだよな。そんな都合よく行かねぇんだよなぁ』


「だから、先生相手への聞き込みを始める」


『先行ぉ?』


「生徒の本音は関わりたくないの一心だった。しかし、先生ならどうだ?普段一緒に仕事をしている相手だ。口に出すことは出来なくとも、何をしているのかくらいは知ってるんじゃないか?」


『……な、なるほど。でも話してくれっか?また関わるなって言ってくるんじゃ……』


「あれは恐怖から来てるものだ。流石に先生ともなれば、関わりたくはなくとも恐れを成す人は少ないと思う。というか、もうこれくらいしか当てがない」


『まあそうだよな。やれることは全部やっとくべきだもんな。うしっ、分かった。また明日集合だな!』


「ああ。アジトじゃなく、池袋の駅前に集合で頼む」


『お、別にいいけど、なんかあるのか?』


「仲間が増えるかもしれん」


『……?』


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ーー翌日、放課後。


「おい、雨夜」


 さて、今日も特に用は無いが、神代たちと池袋の駅前に集合だ。ーーと帰り支度をしていると、突然後ろの方から誰かに話しかけられる。


 「何ですか?」と振り返れば、そこにいたのは伊吹。特にまだ因縁もあるわけじゃないが、少しドキッとする。


「いや、確認したいことがあるだけだ」


「……?」


 確認?転校してきたばかりの俺を相手にか?


 なんだろう?家庭環境のこと?それとも普段何やってるか?みたいな軽いカウンセリングか?


「最近、神代くんとよくつるんでいるらしいと聞くんだが」


 ……そうか。その線もあったな。


 確かに、不良みたいな見た目をしている神代とつるんでいるとなるとそれなりに目立つ。特に、神代と因縁があった伊吹には些細な噂話だろうと気になってしまうのだろう。


「それがどうかしました?」


「いや、もしかしたらあいつの噂くらい聞いてるんじゃないかと思ってな。いや、特に何もないならいいんだ」


 そう言うと伊吹は「邪魔して悪かったな」と言って去って行った。


 何が言いたかったんだ?もしや、カツアゲされてるとでも思ったのか?もしくは、去年の事件のことを、神代から悪いように聞かされているのでは?と危惧したか。


 まあどちらにせよ、何も言ってこなかったので特に目をつけられたとかそういうのではないだろう。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ーー池袋駅前。


「仲間が増えるって、昨日言ってたけどさ、誰が来るんだ?」


 駅前の人がごった返している中、神代は眠そうに欠伸をしながらそう尋ねてくる。


「もうそろそろ来るはずだ。ほら、来たぞ」


 かれこれ待ち続けて10分ほど、白髪のメガネっ娘が俺たちの前に現れた。


「おいおい、まさかの聞屋かよ……」


「まさかってなんですか。こっちこそ逆に、まさかの神代くんですか」


「なんのまさかだよ……」


 軽く雑談を交わし、清水が「で、これからどうするんですか?」と尋ねてくる。


 俺は、聞くよりも見た方が早いと思い、通行証を使ってパトリアムへの挑戦を開始する。


「……え、え!?な、何ですか!?ここ!」


 予想通りの反応だ。ただし、見た目は俺たちと違って制服のまま。ここは俺が力を渡さないと変化しないらしいな。当たり前か。


「うわ!なんですかその格好!?え、神代くんと雨夜さんですか!?」


「どう見てもそうだろ。ま、俺たちも最初これになった時はビックリしたけどな」


「ああ……」


 俺は早速清水にも力を渡そうとしたが、視界のどこを触ってもそれらしいメッセージが表示されない。何かもう一ステップ必要なのか?


 まあ、仮にこのままの姿なんだとしたら、あの学校を見せて今日は帰るかとも考え、俺は先へ進み出した。


 ーー宮殿前。


「はぁ……ぶっきみな場所ですね~。えーっと、皆さんがこの学校をこういう風に見てるからこうなってるんでしたっけ?」


「他にも色んな要因がありそうだが、人の無意識から生まれる歪んだ場所。それがパトリアムと呼ばれるこの場所だ」


「そしてドミネーターとかいう、ここでいうと伊吹がそれなんでしたっけ?」


「ああ。このパトリアムを支配している奴がいる。恐らく、みんなの畏怖の対象がこの場所をこういう場所だと無意識に思い込んでるから、不気味な城になったんだと思う」


「で、雨夜さんたちはここで、現実じゃ話せないような秘密を抱えた人たち相手に暴行をしてると」


「言い方よ!言い方!暴行してんじゃねぇよ。脅してんだよ!」


 それどっちも意味変わらねぇよと。


 説明はこのくらいにして、俺たちは本校者の中に足を踏み入れた。まだ2回目の潜入だが、ここは敵も基本一体でしか出てこないし、比較的安全だ。清水を連れた状態でもある程度の探索は出来るだろう。


 そして、いつもここにいるよなと思いながら客室付近の甲冑を倒し、いつもやってるように脅して口を割らせる。その一連の流れを見せたところで客室に入る。


「とまあ、こんな具合に、さっきのは生徒を模したセルボスだったから大した情報を持ってなかったが、こんな感じで現実じゃ聞けないようなことを聞いている」


「なるほど。で、私はずっとこのままですけど、いつになったらお二人のように魔法使いみたいなローブ手に入るんですか?」


「それがな……」


 さっきから色々と見てるんだが、どうも俺の意思一つで力を渡すことは出来ないみたいだ。やはり、何か別の要因が絡んでくるのだろう。神代の時は、あいつが甲冑に立ち向かったところであのメッセージが出てきていた。となると、清水にも同じことをさせる必要があるのだろうか?


 ……いや、危険すぎる。神代の時も、あれはやらなきゃやられるだったからあんな真似が出来ただけで、特に今危険でもないのに、自ら危険な相手に立ち向かうなんて真似はさせられない。


「今は出来ないみたいだ」


「えぇー?何でですか?」


「それが分かったら苦労せん。とりあえず、今日は予定を変えてもう帰るか」


「ええ!?もう帰っちゃうんですか!?私まだ何もしてませんよ!」


 何も出来ないの間違いだ。


 何も出来ない奴を連れて何が起こるか分からないこの世界を探索なんて出来ない。ここまでは別にそこまで危険じゃないからと連れて来たが、ここから先は本当に何が起こるか分からん。ましてや、教師陣を模したセルボスを相手にするんだ。生徒のように楽に行くとも限らない。


 神代も、「流石に守りながらはきちぃな」と言ってくれたので、後はもう清水が変に駄々をこねなければそれで済む……はずなんだがな。


「私、嫌ですよ!ここまで来てやっぱ見なかったことにしてくれなんて出来ません!これでもコソコソするのは得意ですから連れて行ってください!」


 肝心の本人がこの態度だ。これではテコでも動かないだろう。


「……仕方ない。危険だと判断したらすぐに逃げる。それが守れるんだったらついて来い!」


「はい!」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ーー北校舎職員室前。


「やっぱいやがんな……」


 予定通り、北校舎2階にある職員室前まで来た俺たち。ある程度予想はしていたが、その職員室前にはこれまでの甲冑とは違う、金色の鎧を着たセルボスがいた。


 やはり、教師陣相手ともなると見た目から明らかに只者じゃない雰囲気がしてくる。しかも、まるであの部屋を守るように立っているな。


「どうする?暁」


「元より覚悟の上だ。行くぞ!神代!」


「おう!」


 二人一斉に飛び出し、まずは俺が銃による先制攻撃をしかける。首元を狙ったつもりだったのだが、上手く当たらず胸周りの鎧に弾き返される。


 いざという時を考えて、射撃の腕も上げておきたいところだなと思いつつ、続けて神代のファム、俺のヴェントで立て続けに攻撃を仕掛ける。


「ふん!効かん効かん!」


 だが、これまでとは違い、魔法を当てたところで目に見えるほどのダメージは無かった。いわゆる相性というやつだろう。この敵相手には炎も風もあまり効果がないようだ。


 続けて敵の反撃。大きな斧を振り回し、俺の方に向けて真っ直ぐに振り落としてくる。流石にこれを剣で受け止めるのは危険だと判断し、咄嗟にヴェントを壁にぶつけて勢いをつけることで避ける。


 振り落とされた地面には、斧の衝撃による深い亀裂が入っていた。剣で受け止めていたら砕かれていたに違いないな。


「クッソ、二対一だってのにやりづれぇ相手だな!」


「はっ!数が多ければ勝てると思うな!クソガキども!」


 続けて神代の方に斧による攻撃。振りかぶりに時間がかかるおかげであいつも割と簡単に避けたが、このままではジリ貧であることに間違いはない。


 やはり、清水をどうにかして戦力にしたい。今の俺たちじゃ通用しなくても、清水の魔法なら通用するかもしれない。


「何か……!」


 見落としはないかと敵に意識を向けながら画面を操作する。俺が見つけられてないだけで、清水に力を渡す方法。……クソっ!何かないのか!


「おい!暁!」


「……!」


 神代の呼ぶ声に反応し、ハッと前を見る。すると、あの大きな斧がすぐ眼前にまで迫ってきているところだった。


「ヴェンーー」


 ダメだ。間に合わない。


 一番やっちゃいけないことであることは分かっていた。しかし、気付き、反省すればどうにかなるというものじゃない。この世界において、間違いは死に繋がるのだ。


《貴君は一人ではない》


「え……」


 突然画面に映し出された意味不明な文字。その直後、「オラァ!」という雄叫びを上げながら、神代が甲冑に飛びつき攻撃を妨害する。


《数々の困難も、志を共にした仲間がいれば乗り越えられるでしょう》


「……」


 神代が「危なかったな」と言いながら、甲冑にファムをぶつけ物理的に距離を突き放す。


《貴君が守るのではない。貴君が守り、そしてまた守られる。共に戦い、互いの背中を支え合う。その関係が、貴君に新たな力を授ける》


《CODE:ArcLinksをインストールしますか?》


 こいつは時々意味不明なことを言うと思う。突然訳の分からない力を与えてきたかと思えば、俺が必要としている時に必要なだけの力と、小言みたいなアドバイスをしてくる。


 俺は画面に映し出されたメッセージに対し、《YES》を選択する。


《リクエストを承認しました》


 画面の右上に『+』と書かれたアイコンが追加される。それをタップすると、空行だらけのリストが表示される。しかし、その一番上だけは唯一文字がある。『清水美音』の名前が刻まれたところを押せば、《清水 美音さんへ権利を共有しますか?》と、あの時神代に力を渡した時と同じ文章が現れる。


「清水、戦う意思はあるか?」


 俺は後ろの物陰に隠れている清水に問いかける。神代とは違い、こいつにはまだ選択権がある。


 友のために、危険な戦いに身を投じるのか、それともこちらの世界には干渉せず、現実の方だけで俺たちのサポートをするのか。どっちを取ってもらったって構わない。俺が、俺たちが戦い続けることに変わりはないのだから。


「正直、ちょっと怖いです。でも、見てるだけなんて出来ません!雨夜さん!私に力を!」


 清水の覚悟を聞き、俺は即座に《YES》の方を押した。


 清水のカーディガンが変化を始め、水色のロングコートになる。それと同時に俺の視界に《権利の共有により、水属性魔法アクア氷属性魔法グレイチェスが解禁されました》の案内が出る。一人で似ているものとはいえど二つの属性か。中々に贅沢だなと思う。


「おお、なんか、お二人のとはちょっと違いますけど、これで私も戦えるんですね!」


 清水が俺たちの隣に並び立つ。さっきまでの戦いを見ていたからか、あまり戸惑いは見られない。


「戦い方は大体視界のそいつが教えてくれるはずだ」


「ええ!わったしに任せちゃってください!行っきますよー!アクア!」


 清水の手から放たれる水球が、甲冑に当たり弾ける。甲冑はびしょ濡れになったものの、特にダメージらしいダメージは受けていない。


「あれ?ここは新キャラ登場!からの無双な流れじゃないんですか!?」


「知るかよ!来るぞ!全員避けろ!」


 びしょ濡れのまま、甲冑が再び斧を振り回してくる。全員で後ろの方に飛び、その直後に再び清水がアクアをぶつける。だが、やはり効いている様子はない。いや待てよ?


「グレイチェス!」


 俺はびしょ濡れになった甲冑に向けて、先程解禁されたばかりのグレイチェスを唱えてみる。手のひらから吹雪のように冷気が飛び出し、その冷気が当たった甲冑をみるみるうちに凍らせてゆく。


《二次属性魔法を解禁しました》


 その行動によってなのか、再び画面に例の文字が現れる。二次属性魔法と称された今の行動は、どうやら二つの属性を組み合わせることによって発生する特殊なものらしい。ここら辺の説明がもっと事前にしておいてほしい感じがあるが、力を貰ってる手前文句は言えまい。何にせよーー


「今がチャンスだ!畳み掛けるぞ!」


 三人で一斉に総攻撃を仕掛ける。ある程度ボコボコにし、兜を剥がしたところで銃による脅しをかけた。


『……はぁ。ここまでか』


 兜を剥がした先にあった顔は、どこかで見たことがあるような初老の男性。どこかで見たって、うちの教師なんだから当たり前か。


「木村先生?」


 清水が木村先生と呼びかけると、その先生は『なんだ君たちか』と変に安堵している。


 確か、木村先生と言えば、社会の担当?だったかな。普段あまり授業を真面目に聞いてないからよく覚えてないが、確かこんな感じの額にシワが目立つ人だった気がする。


「なんだってなんだよ。こっちはテメェら先行に聞きてぇことが山ほどあんだぞ」


 早速神代が先生相手だというのにも関わらず、物怖じしない態度で問いかける。


『伊吹くんのことかね?』


「……知ってんのか」


『この学校で彼の悪行を知らぬのは、彼とあまり関わりがない生徒くらいなものだ。大人というものは、みんな知ってて黙っている』


「あ?知ってて黙ってんのか!?テメェらがちっとはマシだったらなぁ!死人が出ずに済んでんだよ!」


『分かっている。しかし、皆彼に逆らうことは出来ない。逆らえば、どうなるかも分からんしな。本当、いい歳してるのに不甲斐ないばかりだ』


「だったらよ!戦えよ!いい歳した大人だってんなら!お前ら大人が味方になるだけで全然違うだろ!」


『……そうかもしれないな。しかし、今は出来ない。一人で立ち向かったところで、証拠は揉み消され、最悪の場合私たちもどうなるかは分かったものじゃない。だが、君たちがもし、もしあいつの悪行を暴くというのであれば、その時は協力しよう』


 そう言い終えると、木村先生のセルボスは姿を消してしまった。


「ちっ、大していい情報持ってなかったな。結局本音は我が身可愛さかよ!」


「だが、今までとは違って話は出来るやつだった。恐らく、確信にまでは踏み込んでいないんだろう。他を当たれば……」


「可能性はあるってことですか!」


「かもな」


 このまま調査を続けようと思ったが、見れば俺のゲージがもう四分の一を切っていた。かなりの激闘だったからな。これ以上無理をする前に帰るか。


「明日以降、またこの北校舎を中心に調査をしよう。今日は解散だ」


「明日っつってももう土曜だぞ?先行どもいんのか?」


「あ……」


 そういえば考えてなかったな。現実の人の流れに合わせて出てくるセルボスが変わるんだった。土曜以降となると、部活の顧問ならいそうだが、そういうのは全部グラウンドや西校舎、体育館の方になる。そこを調査してもいいのだが、あまり良い結果は得られそうにないな。


「来週にしよう。それまでこっちの世界に向けた準備だ」


「そうですね。私ももっと効率よく探索出来るように色々調べてきますよー!」

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