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Page:13 「※※※パトリアム調査報告書」

 ーー夜、弓道部部室。


「完全にやってる事泥棒ですよね~」


「新聞部なら不法侵入もお手の物だろう。何を今更ビビる必要がある」


「わ、私!ちゃんと法律は守ってますよ!要ちゃん変なこと言わないでください!」


 ガヤガヤと騒ぎながらも、本当に泥棒みたいな真似をするように弓道部の部室を荒らす。片付けのことも考えなければならないが、今はそんなことよりーー


「お、診断書ってもしかしてこれか?」


 神代が当たりを引いたらしく、夏目先生がまとめていた診断書を探し当ててくれた。


 良かった。どれもこれも若干汚れてるものはあるけども無事だ。一時はシュレッダーにかけられてる可能性を危惧したが、これで事件を解決に導ける。


「にしても、伊吹の野郎何で証拠になるって分かってて残してんだろうな。俺だったらとっくに捨ててるぞ」


「ああ、それについてだが……」


 確かに神代の疑問は最もである。なぜ、伊吹は診断書を地下から盗み出したものの、それを大切に保管していたのか。


「あくまで推論でしかないが、伊吹は止めてほしかったんだと思う」


「止めてほしかった?」


「矢島の言いなりだったんだよ。これ以上被害者を出さないためにーー」


「こら!君たちそこで何をしている!」


 俺が推論を話していると、懐中電灯を握った警備の人がやって来た。しまった、少しうるさくしすぎた。


「あ、あの、えっと、忘れ物をしちゃってみんなに手伝ってもらってたんです!」


 咄嗟に清水が嘘をつくが、流石に忘れ物ごときでこの人数はどうなのだろうか。


「……忘れ物は見つかったのかね?」


「え、あ、はい!丁度見つかったところなんです!」


「そうか。もうこの時期のこの時間帯は真っ暗だ。いくら都会の明かりが眩しいからって、夜は悪い人たちが活動し出す時間でもあるんだ。さっさと帰りなさい」


「はーい」


 警備員さんに連れられ、俺たちは学校を後にした。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ーー翌日、放課後。駅近くのカフェにて。


『ーー学校側はこの件を一年近く黙認しており、現在は現場の管理体制も含めて更なる捜査が行われているところです』


 まだ半日も過ぎていないというのに、もう夕方のニュースとなった我が校の事件を聴きながら、俺たちは祝勝会と称した要するに打ち上げを行っていた。


 今朝方、夏目先生の通報によって警察が動き出し、俺たちが集めた証拠と伊吹の自白により、矢島先生と伊吹先生の二人が逮捕される形で事件は幕を下ろした。


 二人が逮捕されると同時に、今まで恐怖から何も話せなかった生徒たちから次々と証言が取れ、拷問部屋と言っていた地下室の方にも捜査が入り、現場から複数の血痕が発見されたことにより化学的な証拠も完璧なものとなった。


 神代の件に関しても、当時は本人同士による示談で決着をつけさせられていたせいか、改めて捜査が入り、神代の無実が証明されるのももう時間の問題だろう。あと、一連の事件により自殺を図った女生徒も意識を取り戻し、何とか被害は最小限で済んだと思われる。まあ、清水の親友であった知穂さんのことを思えば、遅すぎる解決だったと言うしかないのだが。


 伊吹の方は今まで起きていたことを全て話し、最後には神代に対して「謝って許されるようなことではないことをした。この罪は、一生をかけて償ってゆく」と土下座をされてしまったため、少し呆気にとられた神代は「命令されていたなんて言い訳は通用しねぇからな!」と出来るだけの悪態をついていた。


「は~、怒涛の二週間だった気がするぜ~」


「本当大変でしたね。私たちよく生き残れたものですよ~」


 二人は安堵からか、見た目からもう既にカロリーがヤバそうと思える大きさのパフェを口にしている。神代はまだしも、清水に関しては「太るぞ」と思わず言いかけたのは内緒である。


「にしてもよ、伊吹が命令されて動いてたっていつ気付いたんだよ?お前ら二人とも分かってたみたいな顔してたけどよ」


「ああ。俺も進藤に言われなかったら気付かなかったかもな」


「ん?進藤が何に気付いたって?」


「金髪、あの赤いスカーフだ。赤いスカーフと言えばパリの議論を求めた有名な運動があるんだが、赤という点にのみ着目した時、途端に恐ろしい意味に変わる」


「赤が?」


「赤はフランスでは博愛を意味するものとなっているが、あの場でそんなイメージから着けているわけがない。そこで、セルボスたちはドミネーターの支配を受けているという点に着目した。赤は血の色。奴隷たちが支配者に都合よく働かされ、血を流したという歴史から、赤は奴隷を象徴するような意味合いもある。まあ、他の色でも奴隷に当てはまることはあるが」


「ふんふん。それで、何で赤のスカーフが伊吹の操られに繋がるんだよ」


「神代、伊吹のセルボスは見たよな?」


「あったりめぇだろ。戦ったんだしよ」


「あいつ、赤いスカーフを巻いていただろ」


「……そういえば」


「逆に矢島のドミネーターは赤いスカーフなんて巻いてなかった。まあ、俺も最初はそんな気がしただけだったんだ。あの日、お前を助けた時にあいつを牢屋にぶち込んだが、その時にチラとスカーフを見ていたんだ。進藤に指摘されて初めて何かがおかしいって思ったわけだ」


 本当、今となって見ればただの偶然だったけどな。


 あんな、特徴と言えば特徴だが、数分しか見てない奴の特徴をよく覚えていたと我ながら思う。


「伊吹さえも誰かの奴隷として使われている。そう考えた時に裏から自分の手は汚さず、伊吹を操っている奴がいるんじゃないかと思ってな」


「そもそも、暴力事件の犯人にしてはあまりにも覇気が無さすぎた。どうも家族を守るために渋々言うことを聞いていたらしいが、無自覚な罪の意識との間で揺れ動いていたのだろう。だから、セルボスの方も最初こそ戦ったものの後半は失速気味だったわけだ」


「ちゃ、着眼点が独特ですよ……二人とも」


「……俺絶対分かんねぇわ。でよ、じゃあ矢島のドミネーターが出てきたあれだけど、それはどうしたってんだ?」


「ああ、それなら」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ーー話は地下室を探索した日に戻る。


 伊吹に挑むことを決め、その日は一旦解散となったところで俺は進藤を呼び止めていた。


「進藤、さっきの件についてだが……」


「少年も気付いていたか」


「ああ。あの先生、結構分かりやすい嘘をついたよな?」


「……調べておこう」


 それから時は翌日の放課後となり、パトリアムから一旦撤退してきたところに移る。


 再び図書室に集まり、俺は進藤から調査の報告を受けていた。


「地下室に隠しカメラを仕掛けておいた。確認したところ、予想通りのものが撮れた」


 早速進藤と共にカメラの内容を確認する。拷問室へ出入りする伊吹と矢島。そして今日の被害者と思われる生徒。


 あまりにもバッチリすぎるほどに撮れてるな。


「無理にドミネーターを倒すまでもないように思えるな」


「ああ。しかし、矢島教師がどうやってるのかは分からないが、去年の金髪の事件から、今日に至るまでの暴力事件を無理矢理揉み消しているんだ。この程度の証拠、踏み潰される可能性も否定出来ない」


「となると……」


「予定通り伊吹教師のドミネーター、いや、セルボスを倒し、情報を引き出すしかないだろう。そして、万が一伊吹教師が盗んで行ったわけではないことも考えて矢島教師も同時に叩く必要がある」


「同時?流石に片方ずつでいいんじゃないか?」


「向こうの世界で話をした相手は、変化の大小はあれどこちらの世界での態度も変わる。もし、伊吹教師が劇的な変化を見せた場合、矢島教師がどう動くかは分からない」


「なるほど。隠蔽を防ぐためにも同時に倒した方がいいというわけか」


「ああ」


「分かった。矢島あての挑戦状は俺が書いておく」


「それとだ少年。明日の伊吹教師戦ではあまり本気を出さない方がいい。金髪と聞屋に前線を任せ、消費を抑えよう。二人には伊吹教師戦で本気を出してもらうために、この件については黙っておこう」


「分かった。なるべく頑張る」


 ーーこうして、密かに二人だけの作戦が企てられていたわけではあるが、正直今となっては完全に判断を間違えたように思う。まず、矢島が予想以上の強敵であったこと。狐の人が助けに来てくれなければ、まず間違いなく全滅していた。そして、これは結果論になってしまうのだが、伊吹が診断書の所在を知っていたこと。矢島に聞く必要が無かったため、それさえ事前に分かっていれば挑戦状など作る必要がなかった。本当に結果論だけどな。


 あとは、向こうの世界で倒したからといって、誰もが全員態度を改めるわけではない。伊吹は反省を顕にしていたが、矢島は最後の最後まで自分は悪くないと喚いていた。向こうで何も話をしなかったのもあるかもしれないが、あのようなタイプは向こうで何を話そうが変わらないのだろう。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「ーーというわけだ」


「お前ら頭良すぎかよ……」


「むしろお前は頭が悪すぎだ。早いうちに言っておくが、赤点だなんだで助けを求めに来るなよ。俺は助けてやらんからな」


「同文だ」


「あ、それに関しては私も同じです」


「この薄情者共!」


 ……本当に頼るつもりでいたんだな。


 俺はアイスコーヒーを一口飲んでから話を続ける。


「まあ、何にせよ事件は無事に解決したわけだ。これで救われた奴は多いだろう」


「そうですよね。ちぃちゃんも報われたはずです」


 清水が薄らと涙を浮かべる。


 そうだ。確かに今生きている奴らは救われた。しかし、その前に死んでしまった奴は、報われこそしたかもしれないが、救われてはいない。失った命は帰ってこないのだからな。


 それだけじゃない。事件によって負った心の傷。それらを癒していくのにも時間がかかるし、一生治らない可能性だってある。


 事件は解決したが、必ずしも全てが解決するわけじゃない。それでも、前を向いて歩くしかないのが、人間の辛いところだな。


「そういえば、その知穂という人物についてだが、調べたところまだ生きているぞ」


「「「 え? 」」」


「今は地方の病院でリハビリに励んでいるらしい。本人曰く、本気で死ぬつもりだったのにまだ死ねなかった。みんなには死んだことにしててくれとのことだ」


 ……まさかの真実だな。


「私の情報網を甘く見てもらっては困る。そこの聞屋なんて比較にならないほど私の元には情報が集まる。少年も、これから頼るなら私を頼った方がいい」


「あー!ひどーい!そもそも私が紹介しなかったらここにいないくせにー!っていうかそんな超重要な情報知ってるんだったら教えてくださいよ!」


「聞かれなかったからな」


「きーーー!」


 うるさいなぁと感じつつも、清水と神代がこうして笑ってられるなら、この集まりも悪くはないのだろう。まあ、ほとんどタダ働きみたいなものだったが、なぜか俺の心も少しだけスッキリしているのがちょっと不思議だった。


「ちょっとトイレに行ってくる」


 少しばかりこそばゆい空気に、俺は一旦自分をリセットしようかとこの場から離れる。


「あ……」


 トイレに向かう途中、向こうから歩いてきた人と肩がぶつかる。咄嗟に「すみません」と謝るも、どうも肩がぶつかった拍子に財布を落としてしまったらしく、小銭が辺りに散らばっていた。


 今時小銭を持ち歩く人なんて珍しいなと思いながら拾う作業を手伝う。


「今、珍しいって思ったでしょ?」


「え、ええ……まあ」


 突然話しかけられたことに動揺しつつも返事を返す。顔を上げるとそこには紫髪の結構な美人さんがいて、こちらの方は見向きもせず小銭を拾っていた。


「私、機械とかそういったものが苦手なんですよ~」


 拾った小銭を全てこの人に渡し、「すみませんでした」と謝ると、「いえいえこちらこそ」とだけ言われてその人とは別れた。


 神代が見たらまず間違いなく下心全開で見そうな人だったなと、失礼な感想を抱きつつ、そういえばどこかで会ったことがあるような気になる。東京の方には知人なんて叔父さんたち以外にいないし、ただの気のせいか?


「ふふ。ニューヒーローはっけ~ん」


 ーーただ、その時、その人が不敵に笑っていたことを、この時の俺はまだ知らない。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「クソっ、どこもかしこもダメだ!」


 耳にかけていたArcを机の上に叩きつけるようにして置き、叫ぶように一言を放つ。


 全く、あいつら迷惑なことをしてくれたものだ。よりにもよってこの時期に暴行事件を起こす、いや、発覚させてくれるなんてふざけてやがる。お陰で、こちとら教師が足りなくなって、どこを当たっても今の時期から教師職を始めてくれる者がいない。


 ……せめて、伊吹か矢島のどちらか片方ならば苦労することは無かったかもしれない。どうにかして一人を雇えばいいからな。しかし、二人も同時に、それも国語と数学、更には、まあ欲を言うことになるが担任を務められる者。教頭は誰かに代役を頼むとして、失ったものがあまりにも痛すぎる。まあ、それは教師による暴行に気づけなかった私の責任でもあるのだが。


 どこか、国語も数学も教えられて、しかも担任もやれるような都合のいい人材はないだろうか?なんてバカみたいなことを考えてみるが、考えるだけ無駄な事だ。


「……いや、あいつなら」


 バカげた考えだと切り捨てようとしたが、記憶の海を探ってみると、まさに理想通りの人材がいたことを思い出す。


 思いだったが吉日。すぐさまArcを耳につけ直し、一つの電話番号にコールする。多分、この時間なら出てくれるはずだ。


『プルルル……プルルル……プルルル……ブツ』


 コール音が3回鳴ったところで、相手が出た。


『もしもーし、要件と名前をー。何も無ければ切りまーす』


 相変わらず、相手が誰であっても一切物怖じをせず、自らの態度を貫き通す奴だ。三年程前にこの人をちょっとした問題で失ってしまったことを考えると、本当に悔しい気持ちになる。だが、今は彼女を呼び戻すチャンスだ。


「もしもし、私だ。八神弘。凛成学園の理事長だ」


『理事長先生?今更なんの用ですか?私に。言っときますけど、あの件はーー』


「あー、分かっている。君のせいではない。私のせいだ」


『ならいいんですけど、本当、今更なんの用です?』


「君に頼みがある」


『頼み?』


「もう一度、教師になる気はないか?」


『無いって答えたらどうします?』


「……」


『嘘ですよ。なれるならもう一度なりたいですよ。何のために二教科も教員免許取ったと思ってるんですか。それにしても、余程深刻な状況みたいですね。こんな時期にかけてくるくらいですし、何かあったんでしょう?そう、例えば教師の問題とか問題とか、あと問題とか』


「……はぁ。こっちとしても耳が痛くなる話だよ」


『そうみたいですね。で、何やってほしいんですか?国語ですか?数学ですか?それとも顧問ですか?まさか担任までやれとは言いませんよね?』


「……できれば、国語と数学を同時に頼みたい。あと、出来れば担任もだ」


『……』


「無理なのは承知でお願いしている。しかし、君しかいないんだ」


『……あの、もしかして三島教授ですか?』


「確かにあの人は一日じゃ絶対に無理なだけの課題を課してくるが、私は八神だ」


『ですよね。何事もゆっくりすぎる八神理事長ですよね。でも、どうかしました?季節も季節ですし、インフルにでもかかりましたか?』


「信じられない気持ちは分かるが、本当に深刻な問題なんだ。多分、来年度までには代わりの教師を用意できるはずなんだ。だから、あと一学期分でいい。私の無茶なお願いを聞いてくれないか?」


『……はぁ。分かりましたよ。私の例のことを隠してくれた恩もありますし、一学期分なら頑張りますよ。ただし、給料は通常の倍以上でお願いしますね』


「ああ、そのつもりで迎えるよヒカリ君」


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