Page:11 「決戦イブキショウマ」
ーー放課後、図書室。
「改めて報告しておくが、伊吹から確かに向こうの世界の反応を感じた。今日行けば確実にドミネーターが待ち構えているはずだ」
「よっしゃ!今日こそ決着をつけてやろうぜ!」
「ええ。今日こそ仇をとる日です!皆さん!頑張りましょう!」
《異※セ界ー》
《ドミネーターへの挑戦を開始しますか?》
通行証を開いたところで一瞬謎のノイズが発生し、文面が変化する。いつもは青色の文字だったのだが、今回は警告を示してるような赤色の文字に変わっている。
それだけ危険ということなのだろう。しかし、ここまで来て引き下がることは出来ない。
「決着をつける!」
《YES》をタッチし、パトリアムへの挑戦が開始する!
ーー宮殿前。
「よっしゃー!さっさとあいつが待ち構えてるとこまで行こうぜー!」
「おー!」
神代と清水。それぞれ伊吹に対して恨みを持つ二人は凄まじいほどのやる気に満ち溢れている。これから戦いだってのに、ダッシュで体力を消費するのも如何なものかと思うがな。
「少年、例の件だが……」
「ああ。あっちも確かめてきた。反応ありだったよ」
「そうか……」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ーー弓道場。
「伊吹ィ!」
バタン!と勢いよく母屋の扉を開け放ち、神代が挨拶代わりのファムを投げつける。
『うるさいガキ共だ。大人しくしていればそれ以上の被害は免れるというのに……』
母屋の最奥に立つ白銀色の鎧をまとい、赤いスカーフを風になびかせる伊吹。
ゆっくりと立ち上がり、赤く染まった瞳をこちらに向けてくる!
「年貢の納め時ですよ!暁さん!」
「ああ」
「アクア!」
「グレイチェス!」
こちらも神代に習い、敵が完全に戦闘態勢に入る前に攻撃を仕掛ける。だが、奴は立ち上がりざまにどこかから弓を取り出し、素早い射撃で俺たちの攻撃を打ち消してしまった。
やはり、見た目通り簡単に行きそうな相手ではないな。
『全力で来い!全てひねり潰してくれる!』
伊吹の隣に颯爽と白馬が駆け付ける。奴はそいつに乗り出すと見事な騎馬術で駆け出した。
陸はもちろん、宙さえも舞うように走り、様々な角度から弓で攻撃を仕掛けてくる。もちろん俺たちは黙って見ているだけじゃない。当たる攻撃に対しては魔法で打ち消し、隙を見て反撃を仕掛ける。
「ファム!」
「ヴェント!」
今までのセルボスたちとは違い、どの属性で攻撃しても、大して効いている様子はない。まずは、どうにかしてトリアングロス・マジッカーを当てるところからか!
「神代!清水!作戦通りに行くぞ!」
「おう!」
「はい!」
三人で三角形を描くように散る。普通のセルボス相手であれば、このまま中心に来たタイミングで攻撃を仕掛けてしまえばいいが、今回は相手が悪い。
常に宙を走り続ける伊吹をどうにかして地上に引きずり落とす必要がある。
「少年、奴の誘導は任せてくれ!」
進藤が自身にバフを全がけして飛び込む。見た目に似合わぬ大きな斧を豪快に振り回し、伊吹に急接近する。
「やぁ!」
伊吹の背後に斧を振り落とす!咄嗟に振り返った伊吹は弓で防ごうとするが、流石に斧の方が強い!
勢いよく地面に叩きつけられ、早くも三次魔法をぶつけるチャンスがやってくる。
「行くぞ!」
「「「 トリアングロス・マジッカー! 」」」
伊吹を中心にピラミッドが形成され、三属性の合体による爆発が巻き起こる。
『くっ……!』
伊吹が膝をついた!
今がチャンスとばかりに全員で四方を囲んで銃を突きつける。
「さあ、話してもらおうか!診断書の居場所を!」
『ふん!こんなもので勝った気になるな!』
ーーだが、伊吹は弓を剣のように振り回し、俺たちに距離を取らせるとすぐに白馬に股がって宙へと駆け出した。
「クッソあの野郎!また自分が有利な場所に行きやがってよ!ファム!ファム!ファム!」
神代が悪態をつきながらも攻撃するが、伊吹の移動速度の方が早く、駆け回ってるだけで全ての攻撃を避けてしまう。
「神代!無闇に魔法を使うな!」
「クソっ!何か手はねぇのかよ!」
手ならあるにはある。もう一回トリアングロス・マジッカーを当てればいいだけ。しかし、あの魔法はそう何度も当てられるほど気楽に使えるものじゃない。
威力こそ高いが、三人全員のゲージをごっそりと持って行ってしまうそれは、撃つなら絶対に外したくない。ここぞという時の切り札なのだ。
「魔法の消費はなるべく控えめで戦うぞ!」
俺は剣、神代は短剣、清水は鎌を持って立ち向かう。武器による攻撃ならゲージは減ることがないし、進藤のバフも相まって以前よりかは遥かに戦えるようになっている。
進藤に習い、壁を伝って伊吹に攻撃を仕掛ける!
『ふん!』
剣と弓が真正面からぶつかる。それ本当に遠距離武器かと思うほど弓は硬く、また、奴の鍛え上げられた筋肉もあって攻撃は思うように行かない。ーーだが。
「せやぁ!」
「オラぁ!」
がら空きになった奴の背後を清水たちがとる!鎌と毒が塗られた短剣。鎧越しとは言えど、少しはダメージが入ったはずだ。
互いに地面に着地し、三人の位置さえ良ければトリアングロス・マジッカーが撃てたと思うものの、生憎全員固まっている。
「遊びはここまでにしよう!」
伊吹が弓を構え矢を射出してくる。しかも、一本だけではない。同時に何十本もの矢が広範囲に迫って来る!
「アクア!」
「グレイチェス!」
清水が真正面に水の幕を張り、俺がそいつを凍らせる。放たれた矢は全て氷の壁に突き刺さり、ボロボロと消滅していった。
予め、ある程度の連携を研究しておいて正解だった。今のが無ければ、全員もれなく串刺しだったからな。
「伊吹ィ!」
氷の壁が消滅したところで神代が奴の真正面にまで突っ込む!「この距離なら防ぎようがねぇだろ!」と、いつの間にか習得していた「メガファーム」で攻撃する。
『ぐぉっ……!』
至近距離の魔法は流石に効果があったみたいで、伊吹が大きく仰け反った。
「オラオラァ!俺の恨みはこんなもんじゃねぇぞ!」
続けて、神代はゲージの消費を気にせず立て続けにメガファームを連発する。進藤からのバフもあり、伊吹は反撃する暇も与えられず一方的に攻撃を喰らっている。
「俺たちも神代に続くぞ!」
「はい!」
「援助は任せろ。少年!」
神代の攻撃が収まったタイミングを見て、剣と鎌で同時に斬り裂く。そして振り向きざまに伊吹を二人で蹴り飛ばし、丁度四人が囲む位置に奴が来る。
今なら、トリアングロス・マジッカーよりも、四次魔法と呼ばれるポリゴノム・エクストリアムの方がより大きなダメージを与えられるかもしれない。
「神代!清水!進藤!四人で合わせる!」
俺の指示にみんなが無言で頷く。
「「「「 ポリゴノム・エクストリアム!! 」」」」
様々な角度から魔法が乱発される。先程伊吹が放った矢よりも多く、狙いを定めた一箇所を集中的に攻撃する。
火が、水が、風が、氷が、今俺たちが持っている属性の魔法全てが大小様々な形を描いて飛んでゆく。そして、進藤が参加しているからなのか、戦闘で負った傷というものが全て癒される。
正に切り札と言うに相応しい魔法だ。これならーー
『ぬっ……!』
伊吹が片膝をつく。さっきのとは違い、完全に顔から余裕が無くなっている。
全員で銃を突きつけ、今こそ奴に報いを受けさせる。
「さあ、観念しろ!伊吹!」
「大人しく診断書の居場所を吐いた方がいい。そうすれば罪は軽くなる。……多分」
「先生!これはみんなの仇です!大人しく罪を償ってください!」
各々が言いたいことをそれぞれ伊吹にぶつけていく。再び弓を振り回そうとしたが、その前に俺が一発撃って「観念しろ」と脅しをかけた。
「お前の負けだ」
『……負け……か』
そう伊吹が弱々しく吐くと、手に持っていた弓が消滅していった。……降参、でいいのか?
『いずれ、悪には必ず報いを受ける時が来ると言う。今が、その時なのだろう』
「ああ?何言ってんだテメェ!自分で悪っていう悪党初めて見たぞ!」
神代の言う通りだ。何か引っかかる言い方をする。
『だろうな。……私にはどうすることも出来なかった。お前たちがここに来るまで、何一つ私は成し遂げられなかった……』
「ああ?お前会話が成立してねぇぞ?こっちの話聞いてっか?」
『診断書だったな。それならば、弓道部の部室に置いてある。奴に処分される前に私が隠した』
「奴って、まさかテメェ一人じゃねぇって言うのか!?」
『……止めろ。あいつを、あいつを止めなければ』
そこまで言って、伊吹のドミネーター……いや、セルボスは姿を消した。
「おい!おい!まだ話は終わってねぇぞ!……って、勝手に消えやがってる……」
「で、でもでも!診断書はまだあるって話なんですよ!確かになんか気になりますけど、今はそんなことよりも探しに行くべきです!」
「あ、お、おう!確かにその通りだな!暁!」
「ああ。すぐに確かめに行こう」
俺がそう言うと、二人は俺たちを置いてさっさと来た道を戻り始めてしまった。
「少年、君の推測は概ね当たりのようだ」
「ああ。まあ、元から反応はあったしな。ただ今ので確信した」