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Page:10 「挑戦状を叩きつけて」

 ーー西校舎、図書室。


「はー、ビビったなぁ……」


 あの後再び屋上へと向かおうとした俺たちだったが、まさかのタイミングで屋上が完全封鎖となり、仕方なく人の少ない図書室へと来ていた。


 封鎖の理由は自殺行為を図った生徒がいたからとのこと。去年もいただろうがとツッコミたくなるところだが、去年は去年で鍵を変えたというのにまた出てしまったため、もう完全封鎖するしかなくなったというのが実情らしい。まさか応急処置として鍵穴を壊されてるとは思いもしなかったな。


「堂々としていれば良かったんじゃないのか?」


「いや確かにそう言ったけどさー、でもちょっとはビビるだろ。因縁の野郎だったかもしれねぇんだぞ。こんな時に鉢合わせしたくねぇだろ」


「まあ……」


 言わんとしていることは分からなくもない。伊吹との接触が向こうの世界にどんな影響を与えるか分からないという点も含め、今はなるべく接触を避けるべきである。まあ、毎朝必ず顔は合わせるし、国語の授業があれば一時間は面と面を向き合わせることにはなるのだがな。


「しっかしどうしましょう?地下室の方に診断書があるって話だったのに何もないじゃないですか」


「やっぱ伊吹の野郎に盗られたんかなぁ。もうシュレッダーかけられててもおかしくねぇだろ」


 神代の言う通りだな。都合の悪い資料を見つけて、わざわざ大切に保管しておく悪党もいないだろう。


「一応まだあてはある」


「え、どこですか?要ちゃん」


「弓道部の部室だ。金髪の言った可能性は否定出来ないが、やれるだけのことはやる必要がある」


 それもそれで正論だな。無いとはなから決めつけるより、やるだけやってやっぱ無かったってなった方が、何もしないよりかはずっといい。しかしーー


「弓道部の部室ともなれば奴のテリトリーだ。取材と称して行くにも、まず資料をあれこれ探す時間はない」


「そうなんですよね~。あの部室ちっちゃいから人目を盗んでなんて出来なさそうです~」


「打つ手無しかよ……」


 本当に打つ手が無い状況だな。


 ここまで来たのに、まさか切り札が敵の手中にあるとは……。この状況、どうやってひっくり返す?そもそもひっくり返せるのか?これは。弓道部員にでも頼んで伊吹がいない時間に探してもらうか?いや、そもそも彼らは絶対という状況でも来ない限り、こちらに協力はしてくれない。それどころか、保身のために俺たちを売る可能性だってある。


 ならば向こうの世界に行って……いや、向こうの世界は形こそ限りなく似ているが、置物、特に文書とかになると途端に全てが白紙になる世界だ。そもそも、向こうの世界から何かを持ち出そうとしたところで、こちらに帰ってきた時には全て無くなっているんだ。やはり、現実の方でどうにかするしかない。


「……」


「打つ手が完全にないわけじゃないと思う」


「進藤?」


「まだ本音を聞いていない相手がいるだろう」


「聞いてねぇって、他の先行どもか?夏目先生が最大の情報源だったんだからもうねぇだろ」


 進藤の発言に対し、神代は完全否定を決め込むかのような返しをする。まあ確かに神代の言う通りだ。夏目先生以上の情報を持っている人なんて……


 ……いや、夏目先生だけじゃない。まだもう一人、夏目先生以上の情報を持っている奴がいる。


「伊吹だ」


「……は?」


「まだ伊吹のセルボ……いや、この場合だとドミネーターか。あいつからはまだ何も聞き出してない」


「そうだ。少年の言う通り、まだ伊吹教師本人の口からは何も聞いていないだろう?」


「……で、でもでも!ドミネーターってすっごい危険な奴なんですよね!?」


 清水の不安は最もだ。実際に相手したことがまだ無いから机上でしか語れんが、ドミネーターを相手にするとなると相応の苦戦は必死となる。しかし、もうこれしか方法がないと思えるのも事実だ。


「あまりにも危険な相手であることは分かっている。しかし、危険に対してのメリットは相応にあるはずだ」


「このまま黙って見過ごすことも出来るだろう。私たちはあと一年と少しすれば卒業だ。そうなればもう奴と関わる必要も無い」


「……そ、そうだけどよ……」


 神代と清水は互いに顔をチラと見合わせ、少し悩む素振りを見せてくる。そしてーー


「……ここまで来て、諦めるなんて私は出来ませんよ」


「ああ。今までどうしようもなかった奴に報いを受けさせれるチャンスなんだ。諦めてたまるかよ!」


「……決まりのようだ、少年」


「ああ。明日の放課後、決着をつけよう」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ーー翌日、放課後。


 今日、伊吹との戦いに決着をつけよう。そう意気込んでパトリアムに潜入した俺たちだったが……。


「クッソあの野郎どこに逃げやがった!」


 宮殿の離となる、現実世界では弓道場のこの母屋。伊吹が今の時間いる場所となればこことばかり思っていたのだが、肝心の奴がいない。


 甲冑の敵ならそこら中にいるのだが、どこを探しても伊吹のドミネーターはいなかった。記憶違いでなければ、ドミネーターであるあいつは、こっちの世界でもパッと見で分かる見た目をしていたはずだ。もしかしたらと思い、地下の方も探してみたがそこにも奴はいなかった。


「どういうことですかね?今日、伊吹先生は出張でもなんでもないですよ。私、チョロっと確認しておいたんですけど、今日も憎たらしいほど元気に顧問やってましたし」


「なら、この宮殿のどこかにいるってのは間違いないはずなんだが……」


「どこにもいねぇな、あの野郎」


 本当に逃げてしまったのか。それともまた、変な条件でもあるというのか。どちらにせよ、ここに来てまた足踏みすることになるとは思いもしなかった。


 ひとまず俺たちは敵のいない宮殿の外に出る。相変わらずこの宮殿は主の思想が反映されているのか、不気味なほどに輝いており、禍々しい月も相まってより一層気味が悪くなっている。


 狐のあの人は自然発生みたいなものと言っていたが、だとしたらこの場所も伊吹がいなくなれば消えるんだろうなぁ、と関係ないことでも考えてみる。まあ、発想の転換でも来ればと思ったが、どうしても伊吹がいないという事実に頭が引っ張られてしまう。


「こんな時、あの人がいればな……」


「少年たちにこの世界を教えた人物のことか?」


「ああ。伊吹のドミネーターがいない理由についても知ってそうな気がするからな」


 まあ、それは無い物ねだりのようなものだろう。事実、ここ一週間ちょっとはあの人と出会っていない。別の場所にでも行ってしまったのだろうか。


「……はぁ」


「増えてる……」


 ーー今、懐かしい声がしたような……。


 振り返れば、なんとそこには狐のお面を着けたあの人がいたのである。なんと都合のいいタイミングであろうか。


「あんたらまだこんなとこ彷徨いてたの?ってか増えてるし、男子はともかく女子も巻き込むって、あの伊吹って人どんだけ恨み買ってるのよ……」


「実は……」


 俺たちはそれまでの経緯をこの人に説明した。流石にドミネーターに挑むってところで素っ頓狂な声を上げていたが、すぐ冷静になってありがたい説明を始めてくれる。


「……本当なら、ドミネーターを相手にするなって言いたいところなんだけど……」


「俺たち本気っすよ」


「でしょうね。いいわ。ここでちゃんと説明しとかないとあんたたちもれなく死ぬだろうし、しっかり説明してあげる。まず、ドミネーターが出現するルールについて。ドミネーターはいつでもいるわけじゃない。むしろ、セルボス共と違って自分は優位な立場にいるって思ってるから無理やり引きずり降ろさなきゃならない」


「引きずり降ろす……ですか?」


「ええ。現実の方で何らかのアクションをとる。奴の無意識が痛い目見させないといけないなとか、直々に出てやろうって気にさせないと出てこないの。あ、ちなみにこれ、極稀にセルボスの中にもそういう奴がいるから注意ね」


「そういや、あん時朝から伊吹の野郎に絡まれて、逃げてたらいつの間にかあの場所だったな……」


 なるほど。それで神代はあんなところに囚われていたのか。そして伊吹を刺激していたから奴のドミネーターも姿を現していたと。


「色々と方法はあるんだけど、確実に呼び出すためには挑戦状を叩きつけるのがいいわ。それと、本気で黙らせなきゃって思わせるほどの資料なんかも付けてやると効果的ね」


 資料か……。何でもいいと言うのなら、清水が集めたあの写真でも使ってみるか。


「そしてドミネーターを呼び出したら本番。その辺のセルボス共と違って、ドミネーターともなると規格外の強さを持ってるわ。今まで以上に立ち回りが重要になるし、四人もいるんだったらそれぞれの役割も大事になってくる。誰かが攻撃を引き付けてる間に他の誰かが攻撃。その役割を明確にしておけば、無策で突っ込むよりかは戦いやすくなるはずよ。まあ、この辺はよくあるゲームと同じだと思えばやりやすいわ。コントローラーが自分自身ってだけの違いだし」


「その辺の役割は後で決めるか」


「そうだな」


「とまあ、簡潔に説明するとこんな感じだけど、最初にも言ったようにドミネーターを相手にするのは正直反対。それでもやるのよね?」


「うす。俺たち、諦められねぇとこまで来たんで!」


「そう。私も加わってあげれたらいいのだけれど、お生憎様こっちもやることが多くってね。物を渡すくらいしかできることはないわ。はい、暁くん。そっちに色々送ったから」


「……?」


《※※※様より、以下の品物を受け取りました》

《武器庫》

《魔法薬セット》

《特殊弾丸セット》


 名前のところがなぜか伏せられていたが、見て分かる通りの、戦いで役に立ちそうなものを受け取った。ってか、薄々気付いてはいたが、この人もArcを使っているんだな。


「じゃ、私もやることあるからこの辺でね。精々健闘を祈るわ」


 その人は、今回も颯爽と現れて俺たちにアドバイスをし、風のように消えていくのであった。


「なんだか不思議な人でしたね~」


「ああ。だが、俺たちがやるべきことは判明した。ーー明日こそ、本当の決着をつける時だ」


「ああ。いっちょやってやろうぜ!」


 ーーにしても、俺、あの人に一度でも名前言ったことあったかな?Arcの連絡先からか?


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ーー翌日。


「挑戦状?」


 予定通り、昨晩のうちに伊吹の机に挑戦状と調査報告書を並べておいた。こういう時、神代の見た目通りな素行の悪さが頼りになる。まさか、夜中の学校に忍び込んでまでやってくれるとは思いもしなかった。バレてなければいいが。


 職員室へは適当な理由をつけて入り、伊吹の反応を確かめる。


「……伊吹 翔真。テメェの罪は全て暴いた。今日、テメェに全ての罪を償わせる。精々弓道場で懺悔の準備をしておけよ!このクソ教師が……か。どこの誰かは分からんが、変なイタズラを……」


 ……あまり苛立ったように見えないな?この程度じゃ意味が無いということか?


『待っていろ。どちらが裁きの舞台に立つべきかを教えてやる!』


「……!」


 今、微かに向こうの世界の伊吹が見えた。Arcが映し出した世界か?まあ何にせよ、効果はあったっぽいな。

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