ブリタンニクス
俺は今、上機嫌だー!
なぜだか教えてやろう。元老院からゲルマニア行きの許可がおりたのだ!出発は来週。
転生してから物事が上手くいったのは初めてじゃないか?
あぁ、これでオクタウィアと旅行に……行けるのか?
気持ちが先走って勝手に計画してしまったが、オクタウィアはまだ同行するとは言っていない。
ってか考えてみたらオクタウィアがゲルマニアに同行してくれる可能性なんてゼロに近いんじゃないか?
オクタウィアにとってゲルマニアに行く理由なんてないし、なにより俺と一緒だったら絶対嫌がるに決まってる。
あれ?これじゃあただ1人でゲルマニアに行く人になっちゃうのでは?
どうする。今更やっぱりゲルマニア行くのやめますとは言えないし、どうにかオクタウィアを連ていきたいんだが。
でも俺が説得したところで絶対OKしないだろうしな。
セネカに説得してもらおうか。いや、セネカとオクタウィアはそんなに親しくない。多分ダメだ。
ブッルスはどうだ?どっちもどっちだ。
母さんなんて論外だしなぁ。
誰かオクタウィアを説得できるいい人はいないのか?
いるじゃねぇか!弟が!
俺の義理の弟、オクタウィアの実の弟ブリタンニクス。あいつならオクタウィアを説得できるはずだ。
いや、むしろブリタンニクスもゲルマニアに同行させてしまえばいいのでは?
ゲルマニアは野蛮人がはびこる未開の地、オクタウィアも弟が心配で一緒に行きたがるはずだ。
我ながら完璧な作戦だ!
来年には険悪になるけど、この時のブリタンニクスは俺のことを好いてくれてるから、「一緒にゲルマニア行こうぜ」って言ったらついて来てくれるはず。
しかもブリタンニクスと険悪になる未来も防げて一石二鳥じゃないか。
そうと決まったら早速ブリタンニクスに話をつけよう!
俺は早速ブリタンニクスに会いに部屋に向かってるんだが、ブリタンニクスの部屋はオクタウィアの部屋の隣にある。
会いに行く途中にオクタウィアに鉢合わせたりしたら気まずい。
だからオクタウィアに見つからないようにブリタンニクスの部屋に行き、速やかに話を済ませて、また気づかれないように自分の部屋に帰る。
ブリタンニクスの部屋の前の廊下までは誰にも気づかれづに来た。
まあ当然だな。
前世で散々セネカや使用人の目を欺いて宮殿を抜け出していた俺にとって、この程度は簡単――
「何をしてるんですか兄さん」
「あっ……」
なに!?この俺が見つかっただと!?
脱走のプロであるこの俺を見つけるとは、さてはかなり精鋭の使用人だな!と思ったらなんとブリタンニクスだった。
「ブリタンニクスか!精鋭の使用人かと思ったぜ」
「なんですか精鋭の使用人って」
「そんなことより今お前の部屋に行こうとしてたんだよ。ちょっと相談があるんだ」
「兄上が僕に?珍しいですね」
「これはお前にしか頼めないことなんだ」
俺はブリタンニクスに事の経緯を説明した。
「なるほど。姉上に謝りたいから旅行を計画したから、僕から姉上を誘って欲しいって事ですね。……普通旅行と謝る順番逆じゃないですか?」
「俺、酔った勢いであいつのこと殴っちゃったらしいんだ。もうただ謝ってどうにかなる問題じゃねぇんだよ」
「んー……考えすぎだと思いますけどねぇ。でも姉上もローマから出たいだろうし、僕もゲルマニアには行きたいから協力しますよ」
「本当か!恩に着るぜブリタンニクス」
「今なら姉上は部屋に居ると思うから、言ってきますよ」
「わかった。頼んだぞ。俺部屋で待ってるから」
ブリタンニクスがオクタウィアを説得しに行ってからどのくらい経っただろうか。
今日は雨で日時計が使えないから正確な時間はわからないが、20分くらいは経ったんじゃないか。
結構時間かかってるな。大丈夫かな?
俺も行ったほうがいいかな?
そう思った時、俺の部屋のドアがノックされた。
入室の許可を出すとドアがゆっくり開き、ブリタンニクスが顔をのぞかせる。
その表情はとてもじゃないが喜んでるようには見えない。
さっきまでの可愛い笑顔は完全に消えてしまっている。
「ど、どしたぁ?うまくいかなかったのか」
「あぁ……いや、なんというか部分的にはうまくいきました」
「部分的に?」
「はい。姉上は条件付きでゲルマニアへの同行を承諾しました」
「条件?なんの条件だ?」
「僕がローマに残ることが条件だそうです」
なるほど笑顔が消えたのはそういう理由か。
悪いが今回はブリタンニクスにはローマに残ってもらおう。
「行きたかったなぁーゲルマニア」
「大丈夫だ。お前もあと4ヶ月くらいで成人だろ。成人したらゲルマニア戦線に配属させてやるから今回は我慢してくれ」
「約束ですよ」
「ああ。約束だ」
なお成人するまでブリタンニクスが生きているという保証はない。
ブリタンニクスくんは成人の前日、ネロによって毒殺されました。