オクタウィア
災いの種は摘まなきゃならない。ということで俺はオクタウィアの部屋にやってきた。
今のうちにオクタウィアの好感度を上げておけば、これから起きるいくつかの問題は未然に防げる。
例えば俺とオクタウィアの離婚に反対するやつらを暗殺する必要も、オクタウィアを処刑する必要もなくなる。
しかし昔愛してその後処刑した人と会うのはなかなか緊張するものだな。そもそもそんなシチュエーション、俺以外ありえないけど。
それに加えて何を話していいかわからないことも緊張に拍車をかけてる。
前世で俺とオクタウィアはほとんど言葉を交わさなかった。
避けられてたんだろうな。
でも俺から積極的に話しかけないと状況は何も変わらない。
俺は意を決して呼びかける。
「はぁ…………オクタウィアいるか?」
「はい陛下。ここに」
ドア越しだからか、今にも消えそうなか細い声だった。
「入るぞ」
「は、はい」
部屋の中には机に向かうオクタウィアがいた。
俺の記憶の中よりだいぶ若い。確か俺より3歳下だから今13だ。
俺がオクタウィアをまじまじと見ている間、沈黙が続いた。
とりあえずオクタウィアの好感度を上げるために何か話さないと。
「戴冠式終わったよ。これで俺も晴れて皇帝だ。もちろん君は皇后だ」
「そうですか。おめでとうございます」
「う、うん」
会話が続かねぇ!
そりゃそうだよな。
結婚してから約1年、ほとんど会話しないし寝る部屋も別。
そんな夫が急に精力的に話しかけてきたらどうだろう。
怖いよね普通に考えて。
何かオクタウィアの興味をひく話題はないだろうか。
そういえば、確かオクタウィアは多くの時間を宮殿の中庭で、植物を見て過ごしていた。
手始めに花の話でもしてみよう。
俺だって薔薇くらいは知ってる。
「なあオクタウィア、今度庭に新しく花を植えようと思うんだが、お前はどんな花がいいと思う?」
「すみません陛下。わたし今、あまり気分が優れなくて。後にしていただけますか」
「そ、そうなんだ。わかった。また後で話す。体調が悪いのに悪かったな……ん?」
オクタウィアが髪をかき上げた時に、頬に大きなアザがあるのに気づいた。
アザは拳ひとつ分くらいの大きさで、内出血の具合からかなり強く何かが当たったみたいだ。
オクタウィアのことは心配だが、これはチャンスでもある。
ここで俺がオクタウィアのことを心配して思いやりがこもった言葉をかけてやれば、俺への好感度は尋常じゃないくらい上がるはず。
「どうしたんだそのアザ!かなりの怪我じゃないか!」
「えっ?これは……」
その傷、自分でぶつけたわけじゃないだろ?何があったんだ。話してくれないか?」
「出てって……」
「ん?」
「出てってください!」
「えー!?」
部屋中をオクタウィアの声が響いた。
こんなに大きな声を出したオクタウィアは、前世を含めて初めてだ。
でもなんか思ってた反応と違う。
感謝の言葉を期待していたのに、返ってきたのは辛辣な言葉だった。
その言葉の真意を問いただしたかったがオクタウィアがすごい剣幕でこちらを見ているので、とりあえず俺は後退りして部屋から出た。