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暴君ネロの2度目の治世  作者: Kaiser
アナザードラマ 皇帝不在のローマ
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皇帝不在のローマ 第8話

お久しぶりです。なんの報告もせず失踪してすみません。実は来月末から新生活が始まるので引っ越しの準備などがあって、執筆に時間をとれていません。あと数週間はこの状態が続くと予想されます。更新が遅れるとは思いますがよろしくお願いします。

また4月から環境や生活リズムが一変することが予想されるので、作者が順応するまで更新に時間がかかるようになると思います。よろしくお願いします。

私たちが住む宮殿の地下には限られた人間しか知らない地下牢がある。ここには街の雑多な牢に入れておくには危険すぎる極悪人や、秘密裏に監禁したい人物が収容されている。

その牢にウァレリウスを入れる。


「ちょっと待ってくださいよブッルスさん!あなた、身の安全は保証するって言ったじゃないですか!」

「確かに言いましたけど、あなたは『遠慮します』って言いましたよ。でも安心してください。ローマにこれ以上安全な場所はありません。それに、すべてを話した後であなたの身の安全が確認できれば解放します」

「クソっ……わかりましたよ。あぁあ、何でこんなことになったかなー」


ウァレリウスは牢の壁を軽く蹴った。

自業自得、因果応報。言いたいことは色々あるが、まず私がしなければならないのは尋問だ


「いくつか聞きたいことがあります。まずあなたはアグリッピナ様から暗殺計画への協力を打診されて、それに応じたのは間違いありませんか?」

「……そうです。弱みを握られてた」

「弱み?」

「妻を殺した時、あいつと瓜二つの女を寄こしてもらったんです。おかげであなた以外に妻の死に気づいた奴はいなかった」

「そもそもなぜ奥さんを殺したんですか?」

「殺そうとしたわけじゃありませんよ!浮気がバレて喧嘩になって、それで黙らせよう思って突き飛ばしたんです。そしたら打ち所が悪くて……あんな簡単に死ぬとは思わなかったんです」

「……もういいです」


最低すぎる。ローマ建国以来800年。こんなにも嫌悪感を抱かせる人物がいただろうか。


「アグリッピナ様から計画書のようなものを受け取りましたよね?あれは今どこにありますか?」

「破って燃やしましたよ」

「なんですって!?」

「読んだらそうしろって書いてあったんです」


計画書は強力な証拠になると思ったのだが……


「その内容は覚えていますか?」

「大したことは書いてないですよ。アエギュプトゥス(エジプト)からバジリスクとかいう怪物を取り寄せろとか、それを届ける場所だけが書かれてましたよ」

「バシリスク?」


バシリスク?昔セネカさんから聞いたことがある。確かアフリカにいる毒蛇だったはずだ。

アグリッピナ様はバシリスクの毒を暗殺に使うつもりか。


「そのバジリスクはもう買ったんですか?」

「昨日届いて今日アグリッピナに届けましたよ」

「えぇ……そうですか。仕方ありませんね」


もうバジリスクの毒はアグリッピナ様の手に渡ってしまったか。


「最後に、これは質問というよりお願いなんですけど、アグリッピナ様を告発することになったら証言してくれますよね?」

「私を見逃してくれるなら」

「わかっています。大変不本意ですが、あなたを告発はしません。ただそれでも使用人たちにはもう少し優しく接することを期待します」

「わかりましたよ」


ウァレリウスは舌打ちしてから渋々首を縦に振った。


「質問は以上です」

「もういいんですか?」

「今のところは。また後で聞きに来ます。やることがあるので私はこれで失礼します」


他にも聞きたいことはあるが、いったん切り上げよう。毒がアグリッピナ様に渡っているなら、いつ行動に出るかわからない。今のうちに警備を固めておいた方がいい。

それにセネカさんにも報告したい。


私は地下牢を出る前にウァレリウスの方を振り返る。


「逃げ出そうとしても無駄ですよ」

「逃げませんて!私だってね、好きであんなことしたんじゃないんですよ!」

「どうですかね。まあいいです」


――――――


地下牢を出て、私はまず部下たちを宮殿の庭に集めた。精鋭の古参連中がネロ様と一緒にゲルマニアへ行ったとはいえ、まだ十分な人数が揃っている。その大半はまだ新人だが……

その部下たちに宮殿の全ての入り口とその周りを厳重に警備するよう命令を出した。


次に向かうのはセネカさんの執務室だ。調査した結果を報告しないとならない。

二階に上がり、最も端の最も日が当たらない部屋のドアをノックする。


「ブッルスです。入ってもよろしいですか?」

「君か。入ってくれ」


ドアを開けるとセネカさんは青ざめた表情で私の顔、いや。私の顔のさらに奥の方を見つめている。


「大丈夫ですか!?すごく顔色が悪いですよ」

「……眠ってないんだよ最近」

「あぁ……お疲れ様です」


起きているか寝ているかわからない表情のセネカさんに私は今まであったことと、ウァレリウスから聞いた話を全て話した。

セネカは表情ひとつ変えず答える。


「あー……毒かー、アグリッピナがやりそうなことだ。わざわざ海をまたいでバジリスクの毒まで用意してくるなんて、彼女相当本気だね」

「ええ。それを入手するために現役の法務官まで利用してますからね」

「そういえばその法務官は今どこにいるのかな?」

「ウァレリウスは地下牢に入れてあります」


セネカさんは眉をひそめた。


「あそこは監視が行き届かない。やめた方がいい」

「大丈夫ですよ。監視できなくとも、あそこからは絶対に出られません」

「確かに内から外に出るのは難しいだろうが、外から内に入るのはそれほど難しくないんじゃないかね?」

「というと?」

「口封じされるなんてこともありえると思ってね」


確かに。入り口に鍵があるとは言え、位置さえ知っていれば入るのはそう難しくない。そもそも地下牢は外からの侵入を想定していないから見張りも置いていない。


「万が一ということもある。彼をここに連れてきてくれないか?」

「言われてみれば、確かにその可能性は否めませんね。わかりました。今連れてきます」


セネカさんの部屋を出て、再び階段を降りて地下牢の前の廊下に来た。

先ほど地下牢を出たときからそれほど時間が経ったわけではないが、食事時ということもあって廊下の人の姿は見えなくなっていた。人目を気にしなくていいのでちょうどいい。

地下牢への扉の鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。


「……ん?」


鍵が開かない?いや、すでに開いている。出るときには確かに閉めたはずだが。嫌な予感がする。


「ウァレリウスさ~ん?」


半分だけ開けたドアから顔を突っ込み、小声で呼びかけた。返事はない。それどころか中からうっすらと戦場で嗅いだ匂いがしてくる。血の匂いだ。

厳重に警戒しながら中へ進む。進めば進むほど血の匂いは濃くなっていき、ウァレリウスを入れた牢の前までくると、その匂いは最高潮に達した。


「なんてこった……セネカさんになんて言えばいいんだ?」


牢の中に入るまでもない。予想はしていたが、ウァレリウスは死んでいた。致命傷はこの首には切創だろう。その傷口からはまだ真っ赤な血がかなりの速さで流れ出て、床に広がる赤い海をさらに拡大させている。

まだ殺されてから時間は経っていない。犯人は近くにいるはずだ。

あれだけ出血したなら返り血を浴びたはず。足跡が残ってもおかしくない。私は周りを見渡した。

その時、肩に水が当たった。不思議に思い、私は肩をぬぐいつつ上を見た。


「うわっ!」


目に飛び込んできた予想外のものに、私は年甲斐もなく叫び声をあげてしまった。

血だらけの女が手足を目一杯伸ばして天井に張り付いていたのだ。

女は私に見つかったとわかると天井から、私を踏みつけるべく飛び降りる。


「くっ……」


避けられなかった。左腕で防御はしたものの、相手の蹴りがクリーンヒット。体勢を崩して床に倒れこんだ。その間に地に着ている服がウァレリウスの血を吸い、腕に絡みついて動きを邪魔する。

その間に足ついた女が倒れている私に近づいてきた。手にはいつの間にかナイフが握られている。おそらくウァレリウスの命を奪ったものだ。

起き上がるのに手こずっている私に、女は覆いかぶさるような体制になってナイフを振り下す。

一か八か、私はそのナイフを腕で受け止めた。


「うぐっ……あぁ……」


刃は腕の骨で止まった。それでもなお、女はナイフに全体重をかけて私の腕を切り落とそうとしてくる。

いつ死んでもおかしくないほどの痛みだが致命傷じゃない。一方女の方は勝負は決まったと見て隙がある。反撃のチャンスだ。

覆いかぶさっている女の腹の下に足を滑り込ませ、勢いよく蹴り上げる。巴投げだ。

予想外の反撃だったのだろう、女は抵抗もできず宙を舞い、地面に頭から落下した。


「はぁ……はぁ……なんなんだよもう」


痛む腕をかばいつつ、さらに絡んでくる衣服を脱ぐ。

ウァレリウスめ。死してなお、私の足をひっぱってくるか……

ようやく上着を脱いだ時には、すでに手首からかなりの量の血が流れ出てしまった。

視界が時々白く染まるのもそのせいだろう。早くどうにかしないと。だがまずはコイツをどうにかしなければ。


女の脈をとってまだ息があることを確認した。気絶しただけのようだ。

私は女からナイフを取り上げ、逃げられないよう右足だけ折った。これで医者のところに行ける。

だがあまりにも多くの血が出てしまったようだ。地下牢を出たところで立ち眩みと吐き気に襲われてその場に倒れた。

意識が遠のいていくのを感じる。

意識が消える直前、ひどい耳鳴りの中でセネカさんの声が聞こえたような気がした。

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