暴君の2度目の人生
俺は書斎のような部屋で目覚めた。
どうやら俺は本当に生き返れたようだ。
代償として腕の一本くらい無くなってるんじゃないかと思ったが、体のどこかのパーツが欠けているなんてこともない。
むしろ喉の切創がきえている。ありがたい。
でもここはどこだろう。死んだ場所に戻されるものだと勝手に思っていたが、どうも違うらしい。
俺が死んだのは解放奴隷のパオラの別荘だった。だがここはパオラの別荘とは明らかに違う。
パオラの別荘は豪華な装飾品で飾り通されていたが、ここは打って変わってシンプルな部屋だ。
だがこの部屋、どこかでみたことがあるような……
俺が部屋の中を眺めていると、ドアの向こう側から足音が聞こえてきた。
マズイ。生き返ったからといっても俺はまだ国家の敵。見つかれば通報されて処刑されてハデスのもとに逆戻りだ。
焦って隠れる場所をさがしたが、この部屋シンプルすぎて隠れる場所が全然ない。家具を置け!
ヤバい。本当にヤバい。足音はもう部屋のすぐ前だというのに、俺の全身は見事に出たままだ。
仕方がないので最終手段。椅子に掛けてあった毛布を頭から被り、部屋の隅でうずくまった。
バレないわけないけど、反撃に出る隙くらいは作れるだろう。
ドアが開き、誰かが中に入ってきた音が聞こえる。
俺は拳を握りしめ、反撃の機会をうかがう。理想としては、この毛布を剥がそうと近づいたところで飛びかかりたい。
汗が額を流れる。恐怖で震え、歯と歯がカチカチと音を立てる。
その音に気付いたのか部屋に入ってきた人が俺に近づいてきた。
俺が飛びかかるタイミングを見計らっていると、なんと声をかけられた。
「ルキウス、そんなところで何をしているんだい?」
「!!?」
ルキウスというのは俺の本名だ。
ルキウス・ドミティウス・アへノバルブス、これが俺の本名だ。だが皇帝に即位して以来14年、俺はその名前を使ってない。
ネロ・クラウディウス・カエサル・ドルススが即位して以来使っている名前なのだが、わざわざ旧名で呼ぶくらいだから、昔から俺を知っている人なのかもしれない。
俺は意を決して被っていた毛布を取り払い、俺の名前を呼ぶ人物の顔を見た。
「セネカ!な……なんでお前が生きてるんだ!?」
「え……どうしたんだ急に。哲学に興味でも出てきたかい?」
「哲学の話じゃねぇよ!マジでなんで生きてるんだよ」
俺は思わず驚愕した。なぜなら目の前にいたのは死んだはず、というか俺が処刑したはずのセネカがいたからだ。
やっぱり俺はまだ生き返れていないのか?逆にセネカが生き返ったと考えるべきなんだろうか。
いずれにしても確かめる方法は1つしかない。
「セネカ、お前もハデスに生き返らせてもらったのか?」
「ん?何を言ってるんだいルキウス。まさか熱があるんじゃないだろうね?戴冠式前日に風邪なんてひかないでくれよ」
この反応を見るにセネカは生き返ったわけではないようだ……ん?戴冠式前日?
「戴冠式って誰の戴冠式だ?」
「まさか本当に熱があるんじゃないだろうね?君の戴冠式だよルキウス。あぁ、それともこう呼ぶべきかな?ネロ・クラウディウス・カエサル」
「なんだって!!!」