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暴君ネロの2度目の治世  作者: Kaiser
アナザードラマ 皇帝不在のローマ
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皇帝不在のローマ 第2話

最近怪我が多い

空腹だからといって、肉は重すぎた。やっぱり朝から脂っこいものはダメだ。私ももう53歳だし、悲しいが朝は大麦のお粥くらいがいいのかもしれない。

胸の不快感を水と共に飲み込み、私はセネカさんから渡されたメモに目を落とす。

セネカさんにアグリッピナ様の動向を知らせた人物。その人の名前と住所が書いてある……らしいのだが相変わらずの悪筆だ。政府の文章を書く時はこんなではないのだが、プライベートな手紙となると一転、毒を盛られて苦しむ人間のような字になる。

まずはこの暗号を解読することにしよう。

さて、まずは名前だが……これはポムポムアヌスと書いてあるのだろうか?珍しい名前だ。

住所の方はまだ読みやすい。これはローマ郊外の住所だ早速行ってみよう。


***


ポムポムアヌスの家はローマの城壁を出て少し歩いた場所にあった。それほど大きい家ではないが、装飾などから家主のこだわりが見て取れる。

それにしてもローマ市内から出るのは心地いい。高層住宅に陽の光を遮られることもなければ、変なニオイもしない。日光を浴びて、草木の香りを楽しみながら歩けるのだから。

金持ちがローマ郊外に別荘を持ちたがるのもわかる。ローマ市内は物が手に入りやすいという点で便利だが、暮らしやすい場所とは到底言えないのだ。

ポムポムアヌスなる人物もまた、都会の喧騒から逃れてきた1人に違いない。

はは……金が私も田舎に畑と屋敷を買いたいよ。

別に嫉妬しているわけじゃないけど、私は玄関のドアを少し強めにノックした。少し経ってからドアが開く。中から髭と髪を伸ばしたお爺さんが出てきた。


「何の用かね?」

「ポムポムアヌスさんに伺いたい事があるのですが、ご在宅ですか?」


お爺さんはホッホッホと笑い、それから持っていたペンの先を自分に向けた。


「わしの名はポンポニアヌスだ」

「あ!すみませんポンポニアヌスさん。大変失礼しました」

「いいんだいいんだ。お前さん、セネカの知り合いだね?NとMの見分けがつかないのは奴の字の特徴だ」


珍しい名前だとは思ったが、やっぱり読み間違いだったのか。


「セネカの知り合いってことは、やはりあの事を聞きにきたのかね?皇帝陛下の母君の事を」

「ええ、そうなんです。あなたがセネカさんにアグリッピナ様の行動を伝えたとか」


ポンポニアヌスさんはペン先で家の中を指して「来なさい」と言った。言われた通り、私は家の中に入る。

屋敷内はよくある構造で、玄関を抜けるとすぐに中庭があり、その庭を囲んで廊下がある。

玄関から中庭を挟んで反対側にある部屋に通された。

ベッドと机があるところを見ると、寝室と書斎を兼ねた部屋のようだ。


「あー……お前さん名前は?」

「ブッルスと申します」

「ブッルス殿、ワシはそれほど高い身分ではないが、文字の読み書きができるのだよ。それゆえ、ワシ身分関係なく子供達に文字を教えていた事があった。昔はセネカもその1人だった」


なるほど。セネカさんとポンポニアヌスさんの接点はここだったのか。

なぜ人嫌いで交友関係も狭いセネカさんがポンポニアヌスさんの住所まで知っていたのか、実はずっと不思議に思っていた。


「5年くらい前までパウルスって子を教えててな、これがまたいい子でなセネカに似て明るいいい子だった」


セネカに似て明るい!?あえて聞き返したりはしなかったが、すごい違和感だ。ポンポニアヌスさんの言っているセネカは私の知っているあのセネカさんなんだろうか


「今ではウァレリウスとかいう貴族に書記官として仕えてるんだが、先日その彼が久しぶりにワシを尋ねて来てな。それもひどく怯えた様子でだ」

「怯えていた?」

「なんでも主人が暗殺に加担しているところを見てしまったようなのだ。それでワシに相談をしに来たわけだ」

「その話、詳しく聞かせてください」

「待ちなさい。確か書いておいたはずだ」


ポンポニアヌスさんは何でも書いて記録する癖がある、いわゆる筆まめらしい。そのためパウルスから相談を受けた内容も書き留めていたようだ。

相談内容を書いた(パピルス)を机の引き出しから取り出して、それを見ながらポンポニアヌスさんは話す。


「パウルスは一昨日の夜、主人のウァレリウスから金を渡されてどこかで食事でもしてくるように言われ、他の6人の使用人も金を渡されて同様のことを言われたそうだ」

「追い払うための口実でしょうね」

「おそらくな。だがパウルスは大切な書類を出しっぱなしにしたことに気づいて屋敷に引き返した。その時屋敷の裏からウァレリウスと知らない女が暗殺について話しているのを聞いてしまったそうだ。あいにく暗殺のターゲットは誰かわからなかったようだが、こっそり相手の女を見たらしい。それが皇帝の母君だったわけだ。そしてウァレリウスが女から暗殺の計画書を受け取るのところまで見て、恐怖が好奇心に勝るようになって、ワシのところに逃げて来たわけだ」


今まで私はアグリッピナ様の無実を信じていたが、こうもはっきりとした証言があるのでは、その希望は捨てなければならないだろう。まずはアグリッピナ様が暗殺計画を立てていると仮定して調査するべきだろう。


「貴重なお話ありがとうございました」

「なに、役に立てたのなら光栄だよ。ワシとしてもこの件をどうするか困ってた所だったんだ。お前さんが解決してくれるなら助かるよ。それとこれも持っていきなさい」


ポンポニアヌスさんはパウルスの話が書き留められた紙を差し出した。


「ありがとうございます」


私は紙を受け取り、ポンポニアヌスさんに敬礼をして屋敷を去った。

さて、私は次に何をするべきか。選択肢は2つだ。1つは当初の予定通りアグリッピナ様の調査をするか、もう1つはウァレリウスの調査をするかだ。

アグリッピナ様は賢い人だ。私が突然訪ねていけば、怪しむどころか訪ねた理由すら見透かされてしまうだろう。アグリッピナ様の使用人を問い詰めたところで欲しい情報にありつけるとも思えない。アグリッピナ様は自らウァレリウスに会いに行ったこと、ウァレリウスもわざわざ使用人たちの目を盗んでアグリッピナ様と会った事を考えると、今回の計画はごく内密に進められている可能性が高いからだ。


それならば私が取るべき選択肢は1つ。ウァレリウスの調査だ。

パウルスの話が本当なら、ウァレリウスは暗殺の計画書を持っているはずだ。そいつを見つければ、少なくともウァレリウスを逮捕できる。あとはウァレリウスを拷問すればアグリッピナ様がこの件にどんなふうに関わっているのか明らかになるはずだ。

だが計画書がどこにあるか検討もつけずに探すのは危険だ。まずは家を調べたいが、ウァレリウスが家にいる時はまずいだろう。先に彼の行動パターンとスケジュールを知っておきたい。

また彼女を頼ることになりそうだ。

お祓い上手な人いませんか?

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