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暴君ネロの2度目の治世  作者: Kaiser
即位・ゲルマニア編
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アスペル

この小説が投稿される頃、私はF1をみているだろう

俺は船の上から海岸線を眺めた。いくつかの町が見えたが、その中でも一際大きな建物が立ち並ぶ町があった。ローマの町だ。

漕ぎ手たちはもう丸一日以上船を漕いで限界を迎えているはずだったがスピードを落とすことなく漕ぎ続けてくれた。そのおかげでナルボネンシスの港を出た翌日、太陽が真上に来る頃にはローマの港に到着できた。

漕ぎ手たちに持っていた金を全部渡して、俺と数人の護衛は今宮殿に向かった。

途中、雨上がりの石畳に足を取られそうになりながら入り組んだ街を進み、丘を登って宮殿に着いた。

そして俺は今、2階の1番端にあるセネカの執務室の前にいる。もちろん何が起こったかを聞くためだ。

ドアを破るようにして俺はセネカの部屋に入る。


「セネカ!俺だ!今帰った!」


俺の声にびっくりしたのかセネカは肩を痙攣させた。それから俺の方を振り向いて言う。


「思ってたより早かったねルキウス。ゲルマニアからならあと2日はかかると思ってた」

「ゲルマニアにいる将軍に船を用意してもらったんだ。そんなことより何があった?ブッルスが刺されたってのは本当なのか?無事なんだろうな?誰が刺した?何のために?まずいつ刺されたんだ?教えてくれ!」

「そう焦るなルキウス。順を追って説明するから」


説明を求める俺を手で制し、セネカは咳払いをすると飾り気のない部屋を歩き回る。セネカらしい短く端的な言葉で説明を始める。


「ブッルスは使用人の女に刺された。5日前のことだ。幸い怪我はそこまで重くない。犯人の女もブッルス本人が倒したほどだ」

「はあぁ〜 よかった!マジで心配したんだよ。でも使用人に刺されたってのは気になるな。動機は?」

「状況証拠から推測するに動機は金だろうね」


セネカは一度話を区切り、机の前で足を止める。そして机の上に置いてある物を拾い上げると俺に向かって投げた。

投げられたものは、この淡白な部屋には似つかわしくキラキラ輝いていた。


「コレはネックレスか?しかも純金か。エメラルドまでついてんじゃねぇか」

「こんな物、一介の使用人が買えると思うか?誰かが金銭的支援を下に違いない。もちろんブッルスを暗殺する見返りとしてね」

「じゃあその金を払った奴が黒幕ってわけだな。なるほど俺を呼び戻した理由がわかった。こんな高い物を買えるほどの金を人に渡せるのは貴族しかいねぇ。なら、貴族に接触する機会の多い俺が黒幕探しに適任ってわけだ」


俺が自信たっぷりに胸を叩き、言った。だがセネカは捲し立てるようにそれを否定した。


「あーいやいやいや違う違う違うそうじゃない。君を呼び戻したのには別な理由があるんだよルキウス」

「アンタそんなに舌回ったんだ……っていうか別な理由ってなんだよ」

「皇帝不在の間に事件が起こったせいでみんな浮ついている。市民は不安がってるし、元老たちは混乱に乗じて好き勝手やっている。だから皇帝が帰ってくれば、いい意味で緊張感が生まれて秩序回復につながると思ってね」

「なるほどな」


宮殿に来る途中に街を通った時は、セネカが言うほど不安が広がっていたとは思えなかったが、こう言う時に元老どもが好き勝手やるのは想像に難くねぇ。確か俺の2代前の皇帝が暗殺された時も、共和制を復活させるため、皇位継承者を殺しまくったって話を聞いたことがある。

帰ってきてよかった〜!


「それとふたつ目の理由なんだけどね。ルキウス、君に会わせたい人がいるんだ。少し待っててくれ、今呼んでくるよ」

「あ、おい。ちょっと待てよ」


セネカは俺が止めるのも聞かずに部屋を出て行った。俺は必要最低限の家具だけ置かれたシンプルな部屋に取り残された。

会わせたい人とか言ってたけど誰のことだろう。わざわざ呼び戻す理由になるくらいの奴だから、結構な大物なのかもしれない。例えばどこかの国からの使者とか。

考えていると、セネカが部屋に戻ってきた。その後に続いて部屋に入ってきたのは……子供!?

金色の髪を首の中腹まで伸ばしたその子供はセネカの影に隠れて出てこようとしない。セネカはその子の肩を掴んで俺の前に立たせて「さあ、ご挨拶」と小声で言った。

鋭い目つきの子は無表情のまま名乗る。


「アスペルです。今日からネロ様の護衛を務めさせていただきます」

「……護衛!?」


聞き間違いじゃなきゃこの子は今、俺の護衛を務めると言った。だけどこの子はどう見ても俺より2つか3つ下だ。体付きも痩せ細っている。悪いが護衛として役立つ気は全くしない。それどころか俺がこの子を守ることになりそう。


「どういうつもりだセネカ。この子はまだ子供じゃないか。それに、護衛ならプラエトリアニがいる」

「プラエトリアニはいつも君のそばで守っているわけじゃない。もし仮にそうだとしても、君の気が休まらないだろう?だがアスペルなら君を付きっきりで守れるし、年も近いから慣れればそんなにストレスはかからないと思うよ」

「だからって別にいつも守られてる必要はねぇだろ!プラエトリアニで事足りてる!」

「ルキウス、これは君の失踪癖を制限する意味もあるんだよ。ゲルマニアでも行方不明になったらしいじゃないか」

「うっ……」


なんでセネカがそれを知ってんだよ。カトゥス将軍が知らせたのか?余計なことしやがって!


「い、いいだろ!無事に帰ってきたんだし、同盟相手だって見つけたんだぜ?」

「それは初耳だね。あとで詳しく聞かせてもらうよ。でもどうせ失踪するんだったら護衛も一緒の方が安心だし、楽しいと思わないかいルキウス?」

「……わかったよ。でもちゃんと護衛として役に立つのか?」

「それは私が保証する。悪いが私は仕事があるからもう行くよ。黒幕を見つけなきゃならないからね」


そう言うと、セネカはアスペルを残して部屋を出て行った。

なんだか面倒ごとがひとつ増えた気がしないでもない……

俺は大きく息を吸ってから、アスペルを連れて自分の部屋に戻った。

明日あたり、もう1話出せたらいいな

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