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暴君ネロの2度目の治世  作者: Kaiser
即位・ゲルマニア編
23/34

交渉はフレデリクス族長にお任せあれ

本当に長らくお待たせいたしました。今回からまた、週に一回のペースを目安に投稿していきたいと思います。

5ヶ月も間が空いてしまいましたが、また読んでいただけると嬉しいです。

ジイさんの後に続いて、族長の家がある丘に来た。ここからなら集落全体を見渡せる。

言ってた通り、確かにここを包囲してるのはローマ軍だ。風になびく軍旗にはⅣの刺繍。ゲルマニカ(第4軍団)だ。少なく見積もっても2万はいる。

もし攻撃されたらこの集落はひとたまりもない。

ローマ軍の動向を見ていると後ろから清涼感のある声がした。族長だ。


「この集落、見つかりにくい作りになってるんだけどねー こうもあっさり見つかっちゃうとは」

「多分俺の血を辿ってきたんだ。ここに来るまでに結構垂らしてきたからな」

「なるほどねー それじゃあ見つかっちゃうわけだ」


族長の言葉には半分くらいあくびが混じっていた。

この大軍を前にあくびする余裕があるって、コイツのメンタルはどうなってんだ?

なにか策でもあるんだろう。


「どうするつもりだ?そんなに落ち着いてるってことはなんか考えがあんだろ?」

「そりゃーもちろん」


族長は俺を指さしながら言った。なるほど、俺が止めろということか。まあ、そうなるか。


「わかったわかった」


とは言ったもののどうするか。そこらの兵士に「俺はローマ皇帝だ。攻撃をやめろ」って言ったところで無駄だ。末端の兵士が代替わりしたばかりの皇帝の顔を覚えてるわけがない。マケドニカ(第4軍団)の中で確実に俺の顔を知ってるのは……カトゥス将軍か。

なんとかカトゥス将軍に会えないか……もしかしたら使者として会いに行けば会えるかもしれない。


俺は族長にローマ軍に交渉を持ち掛け、その交渉役を俺にしてくれるよう頼もうとしたそのときだった。ローマの軍服に身を包んだ人間が5人、族長の家がある丘を登ってきた。

しまった、先に向こうから使者を送ってきやがった。これじゃあ将軍に会えねぇ。

4人に囲まれるようにして立っている若い奴が口を開いた。


「初めまして。私はローマ軍第4軍団所属、騎兵隊隊長のガイウスと申します。この度は突然の訪問で申し訳ありません」


ガイウスと名乗った若い使者はまず俺にお辞儀をし、その次に族長に向けてお辞儀をした。胸に手を当てゆっくりと頭を下げる。

所作の1つ1つから、生まれの良さを感じる。

頭をあげて使者は話を続ける。


「我々が訪問させていただいた訳なのですが、単刀直入に申し上げます。我々は捕虜の開放、およびレヌス川(ライン川)を越えての略奪行為の即時停止を要求します」

「え、いや俺に言われても……」


ガイウスはローマ側の要求を族長じゃなく俺に突き付けてきた。完全に俺がゲルマンの代表だと思われてるな。本当はローマの代表なのに。

予想通り、コイツも俺の顔を知らねぇってことだ。


さてどうするか。下手なことを言うと戦いの火ぶたを切っちまうことになりかねない。ここは慎重に答えないと。

ってかそもそもここは俺が答えるべきなのか?族長が答えるべきだろ!

だが族長は口を押えて笑いをこらえている。何も言う気はないらしい。笑ってる場合か!

視線を送って助けを求めると、族長はようやく口を開いた。


「すいませんね~ 族長はボクの方なんです。その子はただ保護してるだけなんですー」

「おっと、そうでしたか。これは失礼。なんか派手な格好してる子だったもので」

「こちらこそ早く言い出さなくてすいませんねー 改めまして、ヴァリナエ族の族長、フレデリクスと申します。よろしくー」

「ではフレデリクス殿、こちらも改めて捕虜の開放と略奪行為の停止を要求します。もし拒否されるのであれば……」


ガイウスはそこで言葉を止めた。その先は言わなくてもわかってるだろう?と無言で言ってきている。

族長はそんな脅しに屈する気はないらしい。それが2万の兵士に裏づけられた脅しだったとしても関係ないようで、ガイウスの要求に首を横に振った。


「それでは戦場で会うことになりますね。残念ですよフレデリクス殿」


ガイウスと4人の護衛は自陣に帰ろうと俺たちに背を向ける。


「ここに捕虜なんていませんよー 略奪行為もボクの代じゃやってません。それとボクたちと戦うなら、負けるのは君たちだ」

「なるほど。面白い意見ですね」


去り際に族長が投げかけた言葉に煽られて、ガイウスは足を止めた。そして少し苛立たしげに言う。


「フレデリクス殿、つまりあなたはこう言いたいのですね。我々の要求は既に達せられていると」


族長はさっきまでの、どこかかしこまった話し方をやめて俺と話してた時の調子で語りだす。


「話がわかる人で助かりますよー いない捕虜は解放できないし、やってない略奪行為は止めようがない。そうでしょー?」

「ごまかしても無駄です。先日、我々の都市を襲った一団の中にいた弓兵があなた方であることはわかっているんですの」

「ごまかしてるわけじゃなくて屁理屈を言ってるんですよー 僕たちは確かに君たちと戦ったけど略奪はしてない。捕虜にしてもそうです。ここには怪我をしたローマ兵が数人いますが、彼らは保護しているだけです」


ガイウスは口撃をのらりくらりとかわす族長に呆れているようだ。だが追撃の手を緩めず、族長の逃げ場を潰していく。


「では保護下にあるローマ兵の引き渡しと、戦闘行為の停止を要求します」

「それも無理ですねー 捕虜……じゃなくて保護してる兵士たちは酷い怪我を負ってて中には動かすと死にかねない人がいるんですよー」

「……仕方ありません。ではそのことは後回しにしましょう。しかし戦闘行為の停止については今、お返事をいただきたい」


族長は空を見上げて少し考える。そして答える。


「わかりました。いいでしょう。戦闘行為の停止を約束します」

「よくご決断くださいました。では我々はこれで」

「あー待って待って。ボクからも2つ条件を出させてください。ボクたちとローマ軍の間で協力体制を作ることです」


ガイウスは困惑した表情を浮かべた。

普通なら不利な立場の人間から条件を突きつけたりはしないから無理もない。


「な、なるほど?協力とは具体的にどういったことを?」

「ボクたちが攻撃を受けた場合、ローマ軍が救援に来る。逆にローマが攻撃を受けたら僕たちが助けに行きます。それとこの辺りの地形の情報も提供しますよー」

「魅力的な提案ではありますが……さすがに無理です」


ガイウスは小さく首を横に降った。割に合わないと思われたんだろう。だが族長も引き下がるつもりはないようだ。


「しゃあココを前哨基地として提供するというのはどうでしょーか?食糧も提供しますよー」

「えぇ!?失礼ですがそれがどう言う意味かわかっていますか?この村に、我々の兵士が大勢流れ込んでくるんですよ。それだけじゃありません。敵が真っ先に攻めるのは前哨基地です。ココが戦場になりかねませんよ?」

「もちろんわかってますよー」


要求を押し付けろと命令されているであろうガイウスも、この破格の提案には流石に揺らいでるに違いない。

その証拠に今までになく考え込んでるし、腕を組んで苛立たしげに指をトントンしている。

やがて


「……わかりました。受け入れましょう。その条件なら誰も文句は言わないでしょう。まだ条件があるとおっしゃってましたね」

「もう1つはボクをローマに連れて行って欲しいんですけど、いいですかー?」

「その程度であれば構いません」

「ありがとうございまーす」


族長とガイウスは握手を交わした。交渉はまとまった。一時はどうなることかと思ったが、族長はなかなかの交渉上手みたいだ。

絶望的な状況から相手の妥協を引き出した手腕は見事だった。


「さて、では我々はこれで」


立ち去ろうとするガイウスをまたまた呼び止めた。

それから俺の肩を掴むと、ガイウスの前に差し出した。


「この子、ローマ皇帝だから連れて帰ってー」


え?このタイミングでバラすのかよー!

リアルタイムで7、8ヶ月ゲルマニアに幽閉されていたネロくんにローマ帰還の時が近づいています。

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