宴
「その反応、やっぱり君ローマ皇帝かー!そうかー いやーこれは楽しくなりそうだなー」
「俺は最悪だよ……いつから気づいてた?」
「ひと目見て貴族なんじゃないかとは思ったんだー こんなにいっぱい豪華な物があるのに君は鎧を気にしてたよね?それって平民じゃありえないんじゃない?」
こいつ思ったより鋭い。口調からは想像もできないほど。
「あとは君の発言かなー 『ローマ帝国は面倒事に巻き込まれるのはごめんだ』って国を代表する人じゃなきゃそんなこと言えないよ」
「チッ……うかつに喋るんじゃなかったぜ。で?俺を解放するかわりに同盟しろとでも言いたいのか?」
「そうだなぁ……その話は後にしようか。お腹空いたでしょ?そろそろ夕食の準備ができるころだからボクの家に来てよ。まさかボクのもてなしまで断らないよね?」
もう夕食の時間か?老人の家に着いたのが明け方だったから、まだ昼食どころか朝食も食べてないんじゃないか?
と思ったけどミノタウロスにやられて昼過ぎまで寝てたから時間感覚が狂ったんだ。
さっき窓から外を見た時も空が少し赤く染まっていたし、もう夕方なんだ。
それにしてもいきなり夕食に誘うなんてどういうことだろう。それともう1つ気になることがある
「急だな……っていうかここお前の家じゃねぇの?」
「違うよ。さっき家に使者が来てたでしょ?」
さっきのスエビ族のデケェ2人組のことだ。
「アイツらに会いたくないからさー 身代わり立てて抜け出してきちゃったんだよねー ちなみにここはボクの弟が使ってる倉庫だよー」
「じゃあお前の家は?」
「あの丘の上にある屋敷だよ。ローマ式の建築様式で造ったからぜひ見てほしいんだ」
「屋敷……」
そうだよね……そうだよね!
やっぱりなんか変だと思ったんだよ!老人よりも見窄らしい家に住んでる族長なんて。
使用人も居たし、宝もあるから騙されかけたぜ。
「来る?できれば来て欲しいんだけど」
「まぁ食事くらいなら……いいだろう。そのローマ式の家も見てみたいしな」
「じゃあ早速行こー 絶対後悔させないよ」
俺たちはまず、今いる倉庫から出て左に曲がる。ちなみに右には老人の家がある。
左に曲がると見えるのは、丘の上に続く1本道だ。
あの丘の上に族長の家があるんだろうけど、丘が意外と高くて家はここからじゃ見えない。
1本道を丘の方に進む。途中、道の両脇には家だけじゃなく、店もあった。
小料理屋に鍛冶屋、それから服屋。宝石店まである。
店のラインナップはローマとほとんど変わらない。だけど1つだけローマじゃ見ないような店があった。
「ビール売ってるのか!聞いたことはあるけど飲んだことねぇんだよな」
「ローマじゃワインの方が人気だもんねー もし飲みたいならウチにもあるから飲んでみて」
「せっかくだし飲んでみるか」
さらに進むと丘に差し掛かって、道に傾斜がつきはじめた。
見た目より急な傾斜で、1歩踏み出す足が重い。
重い足取りで数分歩くと、それらしい建物があった。
族長が言ったように建物はローマの建築様式で造られていて、規模は中流貴族の屋敷といったところだろうか。
「ついたよー ここがボクの家。もう夕食できてるみたいだねー」
「確かにいい匂いがするな」
「さあどうぞ。遠慮しないでー」
俺は族長に勧められるままに屋敷の中に入る。
入り口の柱廊を過ぎるとまず中庭があって、その奥が屋敷としての機能を果たしている。これはローマの屋敷の基本的な構造だ。
ローマ式の建築様式で造ったと言うだけのことはある。
族長の後に続いて中庭の水盤を抜け、部屋に入る。宴が開けるような広い部屋だ。
部屋に入ってまず目に入ったのは料理や酒じゃない。人だ。
部屋の中には思っている以上にたくさんの人がいた。
その人たちは俺が部屋に入ると拍手したり歓声をあげる。
「おいおい……なんだよこの人数。夕食とは聞いてたけどパーティとは聞いてないぞ」
「みんなローマの客人をもてなしたいんだよー 君だけじゃなくて怪我してたローマの兵士のこともね」
俺たちが探してた重装騎兵のことだ。
俺たちと同じように老人に助けられて、今は医者に診てもらっている。
「彼らも招待したけど、全員怪我が酷くて来られそうにないねー 寂しいかもしれないけどローマ人は君1人だけみたい」
「別に寂しくねぇよ」
「そっかー じゃあボクが居なくても大丈夫だよね。楽しんでねー」
そう言って族長は俺に背を向け、部屋から出て行こうとする。
「おぉい!ちょっと待て。どこ行く気だ?」
「この後やるちょっとしたレクリエーションの準備だよー」
そう言い残して族長は行ってしまった。
残された俺はどうすりゃいい?
とりあえずまずは料理か。いや酒か?なんでもいいか。俺を歓迎する宴らしいし、好きに食べてやろう。
まず俺は、1番に目に入った鳥の手羽元から食べることにした。