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暴君ネロの2度目の治世  作者: Kaiser
即位・ゲルマニア編
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族長

自分のツイートが、いつの間にかストリートファイターに関することばっかりになっていることに恐怖している今日この頃。


「ここだ。中に族長がいらっしゃる。くれぐれも失礼のないようにしろよ」

「いやいやいや、まだ家を出て2歩しか歩いてねぇぞ」

「当たり前だ。ワシの家の隣だからな」

「えぇ!隣!?」

「何か変か?」


そりゃ変だろ。

族長って、言わば一族の首領。多分この集落のトップを指す言葉。

ローマで言うところの皇帝と同じ扱いを受けていい人間だ。

それがただのご老人の隣に住んでるなんて変だろ。

それも立派な家に住んでるならまだわかる。でもどう考えてもご老人の家の方が立派だ。比べ物にならないほど……


「何を突っ立ってるんだ?早く入れ。族長が待ってる」

「あぁ、はいはい、わかったよ」

「ワシは家に戻ってお前の相棒の様子を見ておく。話が終わったらお前も帰ってこい。帰り道はわかるだろ?」

「こんな短い距離を帰り道って呼ぶな」


俺が言い終わる前に、ご老人は家の中に入って行った。

視線をご老人の家から族長の家に戻す。

うん。やっぱり族長の家には見えない。

ご老人が耄碌(もうろく)していて家を間違えてる可能性もある。

俺は少し控えめにノックをしてみた。


少し経って、中から足音が聞こえて扉が開いて、中から髭と髪を伸ばした金髪の男が出てくる。


「何かご用ですか?」

「族長が俺と会いたがってるって聞いて来たんだが、あんたが族長か?」

「いえ、わたしは族長の使用人です。族長は奥でお待ちです。どうぞ中へ」


使用人に案内されて奥に行くと、少し大きめの部屋に出た。その部屋には色々なものが置いてある。

そのほとんどは貴族が喉から手が出るほど欲しがるような芸術品だ。

宝石が散りばめられたネックレスや腕輪。見事な出来栄えのガラス工芸。

だが、そんな豪華な品の眩しい輝きよりも、俺は鉄の燻んだ銀色に目が行った。

それは見慣れた銀色だ。


「これは……ローマ軍の鎧」

「ようこそローマ人」

「!?」


鎧に気を取られていると、後ろから声をかけられた。細くて鼻にかかった声だが、どこか威圧感のある声だ。

振り返るとそこには、その爽やかな声からは想像もつかない筋骨隆々の大男が立っていた。

さっきの使用人と同じで、長く伸ばした金色の髭と髪で顔の8割が覆われている。


「怪我してるのに悪いねー どうしても君と話がしたくてね〜」

「あんたが族長か」

「まあ、そういうことになるのかな」


ずいぶん軽い話し方をするやつだ。

族長っていうからゴツいやつが出てくると思っていたが、俺の考えていた族長のイメージとは大分違う。

俺のイメージする族長は、ローマを苦しめたウェルキンゲトリクスとかアルミニウスみたいな威厳のある男のイメージだ。


「そんな事はどうでもよくて〜 君には聞きたい事があるんだよねー」

「聞きたい事?」

「実はボク、ローマのことを色々聞きたいんだよねー 例えばローマ人は何を食べて、何を着て、何を好むのか」

「そんなことを聞いてどうする?」


俺の予想が正しければ、コイツらはゲルマン人。今まさにローマと戦っているゲルマン人だ。

そいつらがローマについて知りたいことがあるとすれば、それは弱点以外ないだろう。

案の定、族長は質問には答えない。ただこちらを見つめてくるだけだ。


「答えられないのか?だったら当ててやろう。お前はローマの弱点を知りたいんだろ?知って戦いに勝ちたいんだ。違うか?ゲルマン人」


それを聞いた族長は笑いだした。

核心を突いてやれば少しは狼狽えるんじゃないかと思ったが、族長はまだまだ余裕そうだ。


「何がおかしい」

「ボクたちがローマと戦ってなんの得があると思うの?ボクはローマと同盟を結びたいと思ってるだけ」

「同盟!?それ本気で言ってるのか?」


ローマ帝国は、世界を見ても比類ない大帝国だ。そんな大帝国が、国とも言えないただの集落と同盟を結ぶと本気で思っているのか?思っているなら族長は甘すぎる。いや、バカだ。

属州になって保護下に入るならまだしも、対等な同盟を結ぶなんて、頭が硬くてプライドの高い元老院どもが許すわけない。


「君の言おうとしてる事はわかるよー 不釣り合いだって言いたいんでしょ。確かにボクたちは小さな集団だし、敵も多くて存続も危ぶまれてる部族だけどね」

「今のところお前らと同盟する利点がない。ローマ帝国は部族間の面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ。悪いが俺は帰る」

「まぁまぁ、そう邪険にしないでよ。ちゃんとメリットもあるんだから」

「どんなメリットだよ」

「もし君たちローマ人が戦争になった時、僕たちもその戦争に参加するよー」


それはメリットというより、同盟国にとって最低限の義務だ。


「帰る」

「あぁ待って待ってー まだあるよ。君たちを苦しめてたゲルマン人の弓兵がいなくなるよ」

「なんだって!?」


カトゥス将軍が『弓矢を使った一撃離脱の戦法に対抗できない』と言っていた。

その正体はこの小さな集落のゲルマン人だったということだろうか。

思えばあの老人もたった2射でミノタウロスを追い払った。確かにあのレベルの弓使いが10人もいたら、戦況を動かせるだけの力がありそうだ。

だけどそれが本当なら……


「やっぱり敵じゃねぇか!帰る!」

「あぁ待って待ってー 確かにローマと2、3回は戦ったよ。でもボクたちは戦いたくて戦ってるわけじゃないんだよー」

「ふざけんな!じゃあ戦うな!お前らのせいでマケドニカ(第4軍団)は大損害だ!」

「悪いと思ってるよー 僕たちだって敵意を持ってない人間に弓を向けるのは心苦しよ」

「それなんなんだよ!その『誰かに言われてやりました』みたいな言い方!」

「実際そうなんだよー ボクは族長だけど部族のトップってわけじゃないんだ。見てもらった方が早いね」


そう言って族長は高価な品々を跨いで壁の方へ行き、小さな窓を開ける。

少し外の様子を確認すると、手招きして俺を呼ぶ。

俺も高価な品々を踏まないように気をつけながら壁にたどり着く。


「あそこにいる2人見える?あの馬に乗ってる2人」

「あ、あぁ」


族長が指差す先には、自分よりも小さい馬にまたがる2人の大男がいた。

ここからは横顔しか見えないが、とても怖い顔をしている。

機嫌の悪い時の母さんに匹敵する強面だ。


しばらくすると2人は馬を走らせ、行ってしまった。


「アイツらがどうした?」

「あの2人はスエビ族の使者。またローマと戦うから兵士をよこせってうるさくてさー」

「スエビ族って確かカエサルとも戦ったやつらだよな」

「そうそう。その時にスエビ族はカエサルに大敗したらしくてー その後ローマに嫌がらせするのはやめたみたいだけど、代わりにボクたちみたいな小さな部族を標的にするようになったんだよねー」

「つまりお前らは今スエビ族の支配下ってことだな」

「そゆことー」


話が見えてきた。多分コイツらはスエビ族から独立したがっている。ローマとの同盟はその足がかりだろう。


「やっぱりこの話はなしだ。元老院だって了解しないだろう。諦めな」


俺はそう言って族長に背を向ける。


「でもさー 皇帝が説得してくれたら元老院だって納得してくれると思うんだけどね。そう思わない?ネロ様」

「!?……今なんて言った?」

いつも睡魔と戦いながらの執筆なので、過去の話を見返すと「なんだこれ?」という点がいくつかあります。

今後修正を行う可能性が1%くらいあるので、投稿日の横に(改)ってついたら「あぁ、誤字ったんだな」くらいに思ってください。

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