暴君の死
初の創作作品ということで至らぬ点も多いと思いますが頑張ります。
68年 6月9日 ローマ郊外
外で何か物音が聞こえて、俺は棚の陰に隠れた。
数人の配下と宮殿を逃げ出してから半日ずっとこの調子だ。
ネロという名前とは真逆の行動だが、怖いんだから仕方ない。
元老院から国家の敵に指定されて追われている今、追手に見つかれば俺は捕らえられローマ中を引きずり回された挙句死ぬまで鞭で打たれるのは目に見えている。
「ネロ様、万が一に備えてこれを」
奴隷のスポルスがそう言って俺に剣を渡してきた。剣と言っても刀身は普通の剣の半分くらいしかなく、戦うには向いていない。
追手に見つかったら勝ち目はないから潔くこれで自殺しろってことだろう。
クソッ、なんでこんなことになった。なんでこんなに嫌われなきゃならない。
国民も俺が皇帝になった時は名君と讃えてくれていたのに、今じゃ誰も助けてくれない。なぜだ。
母を殺したからか?セネカを殺したからか?それともピソを殺したからか?
あれは俺のせいじゃない。アイツらが裏切ったのが悪いんだ。俺はどうすればよかったんだ。
俺は国のために一所懸命にやってきた……その結果が国家の敵だなんて……酷すぎる。挙げ句の果てに親友のオトまで俺を裏切った。俺はどうすればよかったんだ……
涙で視界が歪む。
いやだ。まだ死にたくない。
「陛下大変です!騎兵隊が……」
外で見張りをしていたマルクスが最悪のニュースを持って入ってきた
ついに追手が来てしまった。
馬の足音がここまで聞こえるほど騎兵隊は近くまで来ている。こうなったらもう逃げられない。
俺は覚悟を決めた。
どうせ死ぬのであれば、鞭打ちで長く苦しむよりこの剣で自分の首を掻き切る方がマシだろう。
スポルスからもらった剣を首元に当てる。剣を持つ手が震える。
溢れる恐怖を抑えるために俺は叫んだ。
「これが偉大な芸術家の最期だ!」
喉元に痛みが走る。次第に痛みは熱さへと変わり、最後には何が何だかわからなくなり、そこで俺の意識は途絶えた。