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【問】と【解】

【解】しんどさは後悔となる

作者: うかびぃ

 

「あ。」

「…え?」


 向かいの彼女は、だいぶ髪が伸びていてすぐには誰だか分からなかった。何故こんな所にとは思ったが、お互い動くことも出来ず沈黙が続いた。




 ◇◆◇




 結局あの後自問自答を繰り返し、俺は彼女に別れを告げた。彼女が俺との未来を楽しそうに語り、俺の為に駄目な所を直そうと頑張る姿を見て、耐えられなくなった。彼女のような生き方が出来ない自分が駄目な奴に思えて。そう生きることが理解出来なくて。

 きっと泣くであろう彼女を見たくなくてメッセージで済ませた自分は最低だと思う。でも、本当にしんどくて。縋り付いてくる彼女を想像して罪悪感を感じて。


 幸せになってください、と最後に送ったメッセージのとおり、彼女が幸せだといいとは思っていたのは本当だ。




 ◇◆◇




「なんで此処に?」

「今の派遣先、最寄りが此処なの。最初は辞退しようかと思ったんだけど、条件が良かったから。それに、電車使うことないだろうから、駅周辺歩いてても問題ないかなって。」


 そのまま無視することも出来ず、とりあえず入ったファミレスで飲み物だけを頼んでまた沈黙。やっと出てきた言葉に返ってきたのは、少し気まずそうな声。

 伸びた髪以外何一つ変わってない彼女は俯いてこちらを見ようとはしない。

 それが何故か寂しかった。


「腰は大丈夫?無理してない?」

「え?…あぁ、悪くはなってない。」


 俺が仕事で腰を悪くしたと知った彼女は、よくお風呂上がりにマッサージをしてくれていた。急に仕事になった時も出掛ける前に湿布を貼ってくれていたっけ。

 そう考えだしたら、いっきに思い出が溢れ出てくる。

 あれだけしんどいと拒絶したものを、こうも簡単に思い出すとは。


「…あのさ、俺」

「そうだ、アタシ、婚約したの。」


 何を言うつもりだったか自分でも分からない俺を遮って彼女が告げる。瞬間、心臓が締め付けられた気がした。


「前の派遣先で仲良くさせてもらってたオバサマが少し前にお見合いみたいな感じで紹介してくれてね。向こうがとても良くしてくれるから、この前正式に婚約したの。」


 続けて言う彼女はずっと下を向いたまま。何かを堪えるような表情は、とても婚約したことを喜んでるようには見えない。


「そうか。おめでとう。…幸せそうで良かった。」

「…幸せ?…ふざけないで。」


 気持ちとは反対に出た言葉に彼女は初めて顔を上げる。


「ずっと考えてた。アタシは貴方と一緒にいることが幸せだったの。貴方に幸せにしてもらいたかったし、アタシも貴方を幸せにしたかった。アタシのやってたことは押し付けだったのかもしれない。でも、それがアタシの生き方だったから。別に貴方にもそうして欲しかったわけじゃない。そんな貴方を愛してたの。なのに…っ。」


 あぁ、泣いてしまう、と思ったと同時に彼女の頬に一筋の涙。見たくなかったものを結局見ることになってしまった自分の心が更にザワつく。

 拭いたい、と。


「正直、今も貴方を愛しているわ。でも、前に進まなきゃって思ったから。周りはアタシを最低と蔑むと思うけど、婚約者には申し訳無さしかないけど。それでも…。」

「…ごめん。俺…。」

「何の謝罪?………。久しぶりに会えて良かった。これが最後だと思うけど。貴方に彼女とか奥さんがいるなら大事にしてあげて。」


 財布を取り出し自分の分だとお札を置いて彼女は立ち上がった。頬の涙を軽く拭ってこちらを真っ直ぐ見た顔は、初めて会った時の大好きな彼女。


「幸せになってください。さよなら。」


 小さく笑って俺に背を向け、長い髪を靡かせ去っていく。去年俺が「喪服みたいだ」とからかった黒のワンピースがキラキラして見えて眩しかった。


「…幸せになんかなれるかよ…。」


 彼女の隣に立つ婚約者を想像して湧き上がったのは強烈な嫉妬。それと、どうしようもない後悔。

 俺は彼女みたいに上手く立ち回れない。新しい女を作る気も無かったけど、それはこの先ずっとになりそうだ。


 あぁ、あれだけしんどいと思ってたのに。

 彼女が愛しくてしょうがない。


復縁ルートも考えてたけど、指がなかなか動かなかったので、こっちになりました。

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