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真実


彼女が目指していた場所は、この街を一望できる丘の公園だった。

 カサカサと揺れる樹木に囲まれ。シーソーとブランコ。グローブジャングル(クルクル回る球体のやつ)。ペンタゴン型の屋根が付いた東屋。どれも年季が入っているが現役だ。

 こんな場所もあったのか。


「なんでいきなり走り出したんだ。置いていかれたと思ったぞ」


「ん? そんなの。お前と居る所を見られたくないだけだ。変な噂が流れてみろ。気色が悪い」


「悪い顔だ。もっとそういう顔を学校でもさらけ出せば、充実するんじゃないのか?」


「なんだ。お前。私を心配してるのか? 私の事などアウトオブ眼中だと思っていたのだが」


「ないよ。初めから」


「その言葉。ただのツンデレなら許す」


 彼女の言葉が。会話の流れが。読み取れる。今までは気付かなかった。なぜ彼女の逆鱗に触れたのか。しかし。それが今の自分には分かる。


「それで。用件は? まさかここまで付き合わせておいて何もないは通じないぞ」


「簡単な話だ」


「ならここまで来なくとも……」


「都合が悪い。聞かれているのでな」


「誰に」


「ふふふ。ライバルに」


 彼女は面妖な笑みで答える。

 好敵手にだけ見せる余裕の笑み。

 しかし。そのドス黒い濁った瞳は憎悪に燃えている。

 どうやら、自分の学校にはまだ化け物が徘徊していそうだ。早く卒業して実家に帰りたい。


「そうか。ちなみに自分は黒曜さんのライバルになり得るだろうか」


「その言葉。ただの道化なら許す」


「……」


 彼女は学校で話しかけた時よりも生き生きとしている。言葉に力があり。意思が感じられる。鉄仮面は剥がれ、悪い顔を浮かべている。「愉快」が顔一面を覆っていた。(そう見えるだけかも)


「本題だ。……。誰だったか。お前」


「サバンナ」


 友達と思っていたのは自分だけだったようだ。これが一番響く。


「サバンナ。諦めろ。お前が手を出していい領域じゃない。格が違う。立場も。権力も。器も。血筋も。全てにおいてボーダーに届かない。夢は夢で終わらせるのが道理だ」


「……」


「私なりの優しさだ。想うだけにしておけ」


 その優しさは、自分を癒すものでは無く。蹴落とす事と同義だ。

 だから、反発するのは当然の事で。


「そうは思わない。友達は言った。チャンスがあるなら手を伸ばせと」


 友人に相談してよかった。自分の気持ちに気付けた。心に間違いが無いのなら。今の自分にとって彼女の言葉はただのヤジに過ぎない。

 自分は言葉を盾に反抗する。


「初めは分からなかった。自分の気持ちに。何が君を刺激したのかも」


 あの時の光景が蘇る。大通りの交差点。談笑する2人。

 次の日。彼女に問いかけた。

 彼女は外敵を払うように拒絶した。


「君は不快に思うだろう。でも自分の気持ちを捻じ曲げるような事はしたくない」


 後日。また君に声を掛けた。

彼女は堂々と宣言した。自分に入り込む余地は無いのだと。


 黒曜の奥歯に力が入る。「不愉快」が満ちてゆく。

 彼女は先ほど言った。聞かれたくないやつがいる。おそらく学校でいつも「不愉快」をさらけ出すのは。そいつがいるからなのだろう。

 ならば今。彼女が見せる「不愉快」は。自分に初めて向ける顔なのだろうか。

 先ほどの言葉は本当に優しさから来るものだったかもしれない。

 が、口に出した言葉を否定しようとは思わない。


「随分な度胸だ。優等生は止めたのか?」

 

「勝手に言ってればいいさ。自分は。いや。俺は。俺の心のままに従う」


 苦虫を嚙み潰したような不快感。彼女の瞳に憎悪が灯る。


「どうした。余裕がないのか? それとも怖いか? 俺が。脅威に値すると」


「不愉快だ」


「それは。今の俺にとって対等である証だ」


 彼女は舌打ちをし、視線を反らした。認めたくないのだろう。一瞬でも脅威になると判断したことに。それを口に出した事に。


 俺はあの時。魅かれたのだ。魅せられたのだ。

 鉄仮面を被る彼女の氷結な心さえも虜にする彼に。

 自分の本当の気持ちに気付けた。

 俺は彼にひかれている。


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