かいぶつ
朝。登校時。
いつもの並木道を歩く少年。
青い葉がそよ風を舞う。
大通りの交差点。
人がひしめき合う。その中で。彼女を見つける事が出来たのは。彼女の醸し出す冷たいオーラが向かい側に見えたから。
何故彼女は向こう側で立ち止まっているのだろうか。
学校は反対だというのに。
「それにしても。目が怖い」
信号が青になり、一斉に動き出す。彼女はその波に逆らうよう。動かない。
コレは話しかけるべきだろうか。無視するべきだろうか。考える時間は刻々と無くなり。彼女の目の前を通り過ぎようと決心した時。
「少し付き合え」
透き通った。鋭い声で彼女は言った。
何が何だか分からない。でも、彼女は声を掛けてきた。(おそらく)
返事をするのが良いだろう。
「それは一緒に学校まで行くってコト?」
「学校には行かない」
「遅刻しちゃうよ」
「サボればいい」
「そういう訳には……。自分は。学校に行きたい」
「私が許す。ここは息苦しい。場所を移すぞ」
彼女は周りの目が気になるのか。有無を言わさず、歩を進めた。
おいおい。どこに行くんだ。学校はそっちじゃないぞ。
しかたない。関わってしまったのは自分から。ここは穏便に済まそう。
「長くなりそうなら、先に電話をさせてくれ。学校に」
彼女は答えない。
聞こえてないのか。聞かないのか。彼女が許可したからか。
自分は電話を一本いれ、彼女の後を追う。
すれ違う学生に気まずさを持ちながら彼女の背に続く。
彼女はそれに何を思ったのか。声を発した。
「少し走る。付いてこれるだろ」
その言葉が言い終わった時にはもう。彼女はボトル程度に小さく。距離を離されていた。
物凄いスピード。学生たちの隙を縫うように駆け抜けていく。
とっさだった為、固まる。
予想に反した行動だったからか。
いや。違う。速すぎる。純粋に。
彼女のスピードに驚愕した。
かけっこは好きだ。しかし、彼女のアレはかけっこと言うより。
そう。スケートに近い。一歩一歩の滞空時間が長く。滑るように駆け抜けた。ただ者じゃない。そう思った。
しかし。付いていける。そう思う程度に。
自分も走り出した。これなら、並大抵の奴はテレビのサブリミナル広告程度に映るだろう。(それはそれで、注目されてしまうのだが)
彼女の後を追う。全く追いつけそうにない。こっちは全速力だというのに。
それでも彼女を視界に捉えられるのは、彼女も同じくらいのスピードなのか。
「たぶん。抑えて走っているな。何て奴だ。身近にこんなバケモンがいたのか」
時間が経つにつれ。体があったまってくる。エンジンがかかり、より体が軽くなる。
自分も一歩一歩の滞空時間が長くなり、地面との接触面積も減っていく。
タン。タン。タン。と駆け抜けて。
ようやく彼女は足を休めた。