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直球

 次の日。学校で。

少年サバンナは当然の如く。可憐な少女黒曜に会うわけで。


「おはよう」


 と声を掛けてみたモノの、華麗にスルーされるのは予想の範疇だ。

 彼女は読書に夢中で、自分の挨拶は他の有象無象に向けられたモノと思っているのだろう。なぜなら、いつもは挨拶など掛けないのだから。

 しかし、視線の端で固まる自分と、視線に気付いて。

 彼女は前髪に隠れていた黒い眼で、しっかりと自分を捉えた。


 正面から見ると、やはり心を締め付けるモノがある。

 これが「美」というモノなのだろうか。

 いや、違うな。これはヘビに見つめられるネズミの気分だ。


「……おはよう」


 言い終えると、また黒く塗りつぶされた瞳は前髪に隠れた。

 彼女は自分が知っている「不愉快」な表情で挨拶を返してきた。

 読書の邪魔をされた。相当キているコトが伝わってくる。


 少し失敗してしまった。心の奥底で呟いた。

 それと同時に、驚きもあった。

 なぜ声を掛けてしまったのか。昨日の一面から来るものがあったのだろうが。

 驚きと疑問に対する答えは見つけられなかった。



 授業と授業の隙間時間。教室を移動する。10分休み。

 教科書と筆箱をもって。少年サバンナは黒曜にまた声を掛ける。


「少しいい? 聞きたいコトがあるんだけど」


 自分は彼女のスピードに合わせながら声を掛けた。

 彼女はいつも一人。教室移動の時も。だから声は掛けやすいほうだった。多分。


「……」


 返事は無かった。が、自分は話を切り出す。

 返事を待つには。この重々しい空気に耐えられそうに無かったからだ。


「昨日、帰り道で黒曜さんを見かけたよ。気付いた?」


「……?」


「大通りの交差点だよ。信号の反対側に居たんだ。黒曜さん。誰かと楽しそうに話してたから意外で。どんな話をしてたのか気になって」


「別に。意外でも。何でも。無い」


「意外じゃないのか。すごいな。どんだけ夢中だったんだよ」


「何が言いたい?」


「いや。何ていうか。黒曜さんと一緒に居た人って誰かな……って思って」


 相手を刺激しない。優しい口調で言ったつもりだった。

 しかし、相手に与えたモノは刺激以外の何モノでも無かった。

 次第に彼女の眉には力が入る。


「お前には関係ない」


 言い切ると。彼女は自分との間に見えない壁を作った。

 言って後悔。

 まるで、自分が黒曜さんの事が気になり。黒曜さんと一緒に居た男性とどういった関係か聞き出す外野じゃないか。(いや、確かにそうなのだが)

 彼女からしたら。いきなり声を掛けられ。プライバシーに土足で踏み込んでくる奴。

 たしかに、嫌な奴だ。自分が恥ずかしくなる。

 もっとこう。彼女を刺激しない。変化球の様な話題で切り出せばよかったのだろうか。

 頭のモヤモヤを洗い流すには少し時間が掛かりそうだ。


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