意外な一面
とある放課後の帰り道。横断歩道で。
学校指定のカバンを肩にぶら下げた少年サバンナは目を疑うような光景を見た。
「……驚いた。あんな風に笑えるのか」
黒いセーラー服。黒いニーソ。黒いローファー。背中まで伸びた黒髪。
冷たいオーラに鋭い眼光。清楚で可憐で。棘がある。
白い歯と三日月の口。
談笑する彼女の笑顔は自分の知らない一面だった。
彼女の名前は黒曜。同じクラスメイトであり、自分の後ろの席の女の子。
表情が硬いことで知られている。テストで高得点を取ろうと、学年一のイケメンに告白されようと、彼女の表情はいつも「不愉快」で満たされている。
そんな彼女の鉄仮面を剥がした隣の男に興味を持つのは、彼女を知る人間としては当然の思考だ。
学ランの上にウィンドブレーカー。
ファスナーの引手にキャラクターモノのストラップ。
鶏冠の様な黒い前髪。静かで。巨漢な。青年。
長身な黒曜よりも背が高い。170は超えて。180? 185? もう少し高いかも。
不思議な男だ。一風変わったファッションは似合っている。
顔の容姿は上手く読み取れないが、彼女が容姿で選ぶようには見えない。おそらく器が違うのだろう。人としての。
「珍しいモノを見てしまった」
二人がどんな話をしているのかが気にならない訳じゃない。
しかし、それをわざわざ二人の輪に割り込むほどでもと思うわけで。
人それぞれ、色んな側面があり、様々な付き合いがあるのだろう。
少年サバンナは青い空を見つめた。
世界が広いと痛感したのか。
いや、違う。たぶん。
視線でバレて、気まずくなるのを防ぎたかったからだ。