1株目『 キ ノ コ に な っ て る 』
今日も仕事だ。片田舎の食品工場で働く俺は日曜の今日も仕事。
基本的に毎日稼働してる工場勤務なので、土曜だろうが日曜だろうが祝日だろうが関係ない。
就職した時は、土日仕事でもそんなにキツくはないだろ、、、と思っていたが、大学の友人と休日が合わなかったり、日曜に仕事をしてるということの精神的な疲労感は想像以上に大きかった。
しかも夜勤もある。2週間ごとに昼勤と夜勤が入れ替わるのだから時間感覚が狂ってくる。
恐らくこの仕事は俺には合わないな…
などと思いながら電車に乗り込むが座れない。
「今日も立ち、か…」
ぼそっと呟きながら電車に揺られること10分。
突然心臓を掴まれるような、キュッとする感覚がした。
「うっっ…」
痛い。苦しい。
その辛さに耐えきれず電車内で倒れ込んだ。
周りにいた人の心配する声が聞こえるが、何と話しかけてるのかは分からない。
元々、子供の頃から心臓の病気で入院することは何度かあったが、大人になってからは比較的体調も良かったので油断していた。ストレスや心労で一気に体に負担が掛かったのだろう。
(((((これで死ぬのかなぁ…)))))
結婚もしてなければ彼女もいない。
体が弱いことがきっかけで学生時代にはいじめに遭ったこともある。
仕事も特に充実していたワケではないし、たまにある休みの日はお酒を飲みながらYouTubiを見てダラダラ1日を過ごすだけ。
特技も趣味も自慢できるようなものは無い。
(((((まぁ、特に思い残したことはないけど、ゴメン、母ちゃん…)))))
そして真っ暗になった。
…
どれほど時間が経ったのだろうか…?
ぼんやりとだが少しずつ意識がハッキリとしていく。
(((((なんだここ…?)))))
…
周囲の様子が見えない。ついでに動くこともできない…
ここは病院?いや、何かおかしい。
体が横になってる感覚じゃない。立ってるような座ってるような…
それに頭が重い。大きな傘を被っているみたいだ。
腕も無い。足も無い。
これは…
『 キ ノ コ に な っ て る 』
そんな馬鹿な、気のせいだ。
うん、キノコだ。
目は見えないが、自分の姿形はなんとなくイメージ出来た。
ずんぐりむっくりの柱のような物の上に大きめの傘を被ってる…
うん、キノコだ。
絶句である。
夢なのかと思い、ベタに頬をつねろうかと思ったが手が無い。手足があることの自由さが今になってよく分かる。
一体どうしてこうなってしまったのか?
何も出来ぬ。動くことも喋ることも…
どうしたものかと考えに耽っていると、周囲から声が。
身の回りから微かに声が聞こえる…話しかけてくる…
ちゃんと声を聞こうと思い、意識を集中させると近くからはっきりとした言葉が。
???(((((ようこそ、アンダーグラウンドへ)))))
(((((なっっ、誰だ!?一体どこに…)))))
???(((((はじめまして。僕の名前はアリス。君の後ろにいるよ。動けないから見えないんだね。それにしても驚いたよ!急にニョキニョキ地面からキノコが生えてくるなんて!笑)))))
誰かは分からないその声は幼い子供のようだった。
(((((…いったい何なんだ!?この感覚…)))))
アリス(((((君は赤帽子のキノコ。目は見えないし声は聞こえない、口もないから話せないみたいだね。だからこうして僕は君の精神に話しかけてるのさ!)))))
なんとも不思議な感覚である。心の中に自然と言葉が流れ込んでくるような…
というか、やはりキノコなのか、俺は…
(((((なんだか変なことになったな…一体俺はどうなっちまうんだ…)))))
アリス(((((まあ、僕も似たようなもんだから仲良くなれるかもね!)))))
(((((君もキノコなの?)))))
アリス(((((僕は花だよ!)))))
たまたま出会った声の主に話を聞いて分かったことがいくつか。
・花の名前は『アリス』と言い、彼?彼女?も数日前に花開いたらしい。
意志を持つ植物や鉱石はたまに存在し、それら同士でコミュニケーションをとることもできるそう。
・この世界は『セレスティア』と言い、地上と地下世界がある。
今いる場所は地下「アンダーグラウンド」と呼ばれる洞窟の下層。
大気中や地中には”ルーン”と呼ばれる物が存在し、この世界にありふれるエネルギーのようなもので、あらゆる物はそのルーンによって存在すると言っても過言ではない。
・地上には人間がいる。
人間がいる…
それを聞いただけで少し安心した。もしこの世界が人間のいない狂った世界だったら…と考えたら恐ろしすぎる。まぁ、意思のあるキノコや花がいるのも狂っているが。
もっといろんなことをアリスに教えて貰わねば…!
(((((俺はたぶんこの世界じゃない別の世界から来た元人間なんだけど、何か知ってる…?)))))
アリス(((((え?どういうこと?何かの冗談???人間が別の何かになるなんてこと聞いたことも見たこともないよ!笑)))))
まぁ、そうだよな…そんなこと俺も聞いたことがない笑
そしてアリスから突然こんなことを聞かれた。
アリス(((((君はなぜなぜそんなにルーンを吸収しているの?)))))と。
どうやら普通の植物や鉱石も多少のルーンを吸収することはあるのだが、自分はその約100倍量のルーンを吸収してるらしい。
ルーンが豊富な洞窟なのでそう簡単に枯渇することはないらしいが、それにしても大食漢。
((((((ルーンってたくさん吸収したらヤバい…?です…?もしかしたらメチャクチャ太るとか、体に毒な成分で死に至る可能性があるとか…
アリス(((((影響…うーん、害は無いとは思うけど、大きく成長したり、色が変わったりすることはあるよ。あとは…
アリスはまだ話を続けていたが、途中で思わず俺は俯いてしまった。(動けないから気分だけ。)
自分に害がないと知れて少し安心はしたけど、大きいキノコになろうが、色の綺麗なキノコになろうが、どちらにせよあまり自分にとって特にメリットも無さそう…
((((((はぁぁぁぁ…( ´Д`)
深いため息をする俺であった。出来ないけど。
それからどれくらい時間が経っただろうか。
当たり前だけどキノコなのでお腹は減らない。もしかしたらルーンを吸収してるせいでお腹が減らないのかもしれない。
動くことも何も出来ない俺はどうすることもできないので、しばらく洞窟でアリスと話したり、これからどうしたものかと考えてたりしていると突然自身の体が光に包まれた。
(((((なんだっ!?急に眩しくっっ…!!!?アリスっ……
あまりに急すぎることに驚き、何も出来ずただ生きることを祈っていると、少しして光が収まった。
違和感を感じる。
さっきまでとは違って息が出来る…
そして手が、脚が…!動ける…!目が見える!
自分の近くにあった水晶のようなものを覗き込むとそこに反射した自分の姿が。
そう、気づけば人間のような姿になっていたのであった。
赤髪で色白の20代前半ぐらいの男性。(キノコの時に赤い帽子だったからその影響だろう)
「そうだ、アリスは…!?」
とっさに思い出し、自然と声が出た自分にも驚いたが、それよりももしかしたら踏んでしまったのではないかという怖さに襲われ、足元を見るとそこにアリスはいなかった。
この世界で初めての友人をさっきの光に巻き込んで失ってしまったのでは、、という罪悪感で、涙が溢れそうになった。
すると不意に肩から
「おおおおおおお!凄ええええ!これが進化かああああ!」
という子供のような声が聞こえた。
自分の肩を見て驚く俺
『『『俺の肩に花ががががが咲いてるががががg』』』
アリスは青く美しい花だった。
子供のような声に反して、知識が豊富でこの世界のことをいろいろ教えてくれる頼れる友人。
この世界に来てからしばらく隣にいた彼女だったが、それが今自分の肩に。
厳密に言うと取り込んだとでも言うのだろうか。
よく周囲を見渡すと自分を中心に約半径10mの範囲がクレーターのように凹んでいる。
「これは一体…?」
アリス「さっきのは進化だね。体が光ったのは一定量のルーンを吸収したから自分に変化が起きたんだ。と言っても、こんな短期間で一気に進化することはないよ。恐らくだけど、この洞窟が他の場所と比べてルーンの密度が濃いことと、そして君がルーンの吸収量が通常と比較して莫大であることが原因かもね」
「じゃあ君はなんで肩に?それにこの地面…」
アリス「君はルーンの濃いこの空間のリソースをそのまま取り込んだのさ。その結果、隣にいた僕も取り込まれた。君の左側にいたから左肩にいるのかもねー。」
アリス「よく自分の体をご覧。君、服を着てるだろ。さっき周囲にあった植物で編み込まれてるね。グリモの蔦と言う植物だ。繊維として使えるほどの強度なのはさっきも言った通り、ルーンが濃い環境で成長したからだね。」
「ほぉ…」
急のことでいろいろ困惑してるが、ひとまずこれで自由の身にはなった。
人間とほぼ変わらず足で歩き、手で物を触れる。五感があることがこんなに嬉しいとは…!
いつまでもキノコでいたらどうしようかと、不安ではあったがもうその不安は無い。
「さて、とりあえずこの先どうするかな…」
などと呟くと、
アリス「だったら行きたい場所があるんだ!まずはこの洞窟から出てみようよ!」
地上には人間がいると聞いたし、自分のように他の世界からこの世界に来た人が他にいるかも知れない。
別に元の世界に戻りたいと強く願ってるわけでもないし、未練があるわけでもないけど、なんとなく同じ境遇の人がいるのかは気になる。。。
それになんと言ってもこの世界での新しい生活が気になる。見たことも聞いたこともない物がたくさんありそう!子供のような好奇心でワクワクが止まらない!
過去のパッとしない自分とは決別してこの世界で生き抜こことを今決意した。
「行ってみるか、地上に…!」
こうして元人間、いや、元キノコと青い花の謎のコンビの冒険が始まるのであった。




