第08話『説明フェイズ後編(これで終わりです!)』
「双極円卓大魔法陣という演劇をやりたい。そしてその監督が京楽魔凛。脚本は完全オリジナルでも良かったんだけど、原作ありのほうが神様の機嫌を取りやすいっていうのが長年の研究で分かったんですな」
「あー、まぁ、原作アリの方が企画が通りやすそうだもんね……」
「そうそう、身に覚えのない話よりも、どっちかっていうと神話に近い原作があったほうがいいって事にボクは気づいたんだ」
「そこはまぁ、納得できるかな」
「で、その原作が『アーサー王伝説』なんですな」
「ソシャゲでしか知らないな……オーディンとかヴァルキリーとか出る奴?」
「それは北欧神話」
「どっちも同じようなもんだろ」
「スペシャルレアとか、ウルトラレアで聞いたことありますー!!」
「……キミ達、神話や古典や歴史の事をフリー素材か何かだと思ってる?」
「………………いや、あながち……フリー素材に関しては、それはそれで間違いではないような……」
「戦国武将とかも、スペシャルレアとかウルトラレアにいつもなってますねー!!」
「オタク、そのうちオダノブにぶっ殺されても文句は言えないのでは」
………………何も言えねェ。そこそこ擬人化にキャッキャ言ってるし、オレも。
「ああ、話が逸れちゃったね。ともかく、双極円卓大魔法陣の演目は『アーサー王伝説』で代々続けてるんだ」
くいくい、と魔凛は中空に一二個の光を浮かべる。その光は人間の形になる。
「まずボクが一二個の『円卓因子』を人間に与える」
十二個の光は、十二人の人間の胸に吸い込まれていく。
「『円卓因子』を与えられた人間は『円卓騎士』となる」
ヤー! と中空に表示された人間が剣を掲げた。
「かわいーですー」
気の抜けた麻子ちゃんの声が癒しである。
「んで、十二人の円卓騎士は、六人と六人のグループに分かれます」
ヤー! と言いながら、二つのグループに分かれる円卓騎士ちゃん達。
「二つの陣営でバトルします。勝った方のグループが願いを叶えられます」
ヤー! と言いながら、六人の円卓騎士ちゃん達は、もう一方の円卓騎士ちゃん達六人をめった刺しにして殺害する。怖い。
「こわいですー」
「こわいね……」
「以上、終わり! 『円卓騎士』にはそれぞれ『円卓心機』と呼ばれる必殺装備があるけれど、ま、それは今いっぺんに言うと混乱するからやめておくね」
「……あー、うん。大体だけど、分かった」
・この世界には魔法使いがいる。それは世界的に秘密の存在である。
・魔法使いはそれぞれ研究テーマがある。
・京楽魔凛という魔法使いは『神への謁見』という研究テーマの完遂の為に行動している。
・『神への謁見』の為には『アーサー王伝説』という『魔法使い同士が戦うゲーム』のゲームマスターをする必要がある。
・京楽魔凛はそのゲームのプレイヤーを六人VS六人で集めて、戦わせようとしている。
自分の頭の中で変換すると、こんな感じでまとめられた。
魔凛はまたオレの頭を読むようにニヤニヤして『それであってるよ』と言う。不気味なボクっ娘だな。
「それでね、ボクは今『円卓因子』……ま、プレイヤーに十二枚の参加券を配って回ってるフェイズなんだけれども……」
「さっき、アグラヴェイン卿、パーシヴァル卿に関しては倒しておきました!」
麻子ちゃんは元気に報告する。
「はい?」
「なので、十二人いる円卓の騎士は、残り十人です!」
「んん? ちょっと待って? そもそも参加券だってまだ配り切ってないし、まだオープニングムービー的なものも流れてないんだけれども?」
「でも、ししょーが……」
「なんかごめんなさい……」
……おそらく、オレは不味い事をしたのであろう。なんだかバツが悪い。
「円卓騎士は、円卓騎士以外が傷をつけることはできないのだけれど……」
「なんかそんな事言ってましたね!」
「そう。円卓因子を与えられた円卓騎士は、戦車に轢かれようが、銃弾を万発撃ち込まれようが、傷一つつかないような絶対防御があるんだ」
「すげぇ」
「いやだって、物語途中で車に轢かれて死ぬわけにもいかないじゃない」
それはそうなんだけど、実現できるのが凄い。
「でも、ししょーは……何をしたのかは分からないですけど、あっという間にアグラヴェイン卿とパーシヴァル卿を無力化したんですー! えっへん」
「ちょっと確認するね……うわ、本当だ、二人の円卓因子が消滅してる」
ふむ……と京楽魔凛は思考する。
「おもろ」
「え?」
「面白くなってきたね。ボクの知らない物語が動き始めてるんだ、いいじゃないか」
ニヤニヤと笑みを浮かべ、魔凛はオレに近づいてくる。
「少々展開は早いけど、まぁ、アニメの三話ぐらいでキャラクターを殺せばバズるもんね。オタクは単純だから」
「主語がでかいし、敵をわざわざ作るな!」
「ふふ、未知こそ甘美。既知こそ唾棄すべき概念。こんなアーサー王伝説があってもいいのかもね」
とん、と魔凛はオレの胸に手をあてた。
「キミを双極円卓大魔法陣に招待しよう。円卓の騎士として頑張ってくれたまえ」
「……ちょっと待てよ、勝手な話すぎないか?」
「……というと?」
「いや、キョトン顔されても。だって、そもそも、そもそもだ。なんで一人の魔法使いの自由研究の為に色々な人が巻き込まれなきゃいけないんだ」
「確かにそうだね」
「えええ……」
「ああ、いや。ボク的には研究の為に行動する事は息をするぐらいに当たり前の事で……そういう端役の感情の機微に気づけなかった」
「うわぁ」
「ああでも、説得力が無いかもしれないけれど……今ここでボクが研究を中止したとしても、それはそれで『お爺さん達』が納得しないんだ」
魔凛はくだらないなぁ、といった表情を浮かべる。
「魔法使いはそれぞれの研究テーマで頑張ってるけど……究極的には一つの目標に向かって頑張ってる……らしい」
「究極的な一つの目標?」
「それが『不老不死』なのか『時空支配』なのか、ボクにはよく分らない。けれど、たった一つの真奥に向けて魔法使いは研究しているんだ」
「……なるほど」
「『お爺さん達』は、その真奥に辿り着く為、ボクや他の魔法使い達のバックアップをしてる……と、同時に、研究結果を欲している、つまり……後は分かるかな?」
「双極円卓大魔法陣が中止されれば、黙っちゃいない?」
「うん、そうだね。魔法使いは数が少ないだけで、普通の人間なら絶対に勝てないような絶大な力を持ってるんだ」
魔凛は怪しい笑みを浮かべる。
「報復として、『原理が全く分からない、絶対に治す事が出来ないインフルエンザ』をばら撒く事だってできちゃうかもね? まぁ、それは行き過ぎだけれど」
「過激だな……」
「それぐらい、真奥というものに辿り着きたいんだろうね……さ、どうだい?」
「どうだい? って言われても、もう外堀は埋まってるんだな」
「そうだよ♪ それにもうボクはキミにオモロを感じてしまったからね」
オレにそういうと、魔凛は瞳から光を消して、オレの事をモノを見るような瞳で見つめた。
「……ま、泣くほどいやだったら記憶をいじいじしてあげてもいいよ。モチベが低すぎるのはつまんないし」
……それも一つの選択肢だろう。ここで全てを忘れて日常に戻るのも大いにアリだ。本当に忘れてしまえるのであれば、罪悪感も無いだろうし。
「ししょー……」
でももう、オレは知ってしまった。大の大人が多人数で女の子を追いかけ回すような戦いが、自分の生活の裏で行われていることを。
「麻子ちゃんはどうして戦っているの? 願いを叶える為?」
「あたしは別に、自分の願いは無いんです」
きらきらした純真な瞳で、麻子ちゃんはオレを見つめていた。
「ただ、悪い人が悪い願いを叶えちゃったら……それはとっても嫌な事かなって」
あまりにもピュアなその願いに、オレはちょっと笑いそうになる。
「うん、シンプルでいいと思う。素敵だ」
それなら、オレも迷う必要は無い……オレには無敵のチートがあるし、今の所は疑いの気持ちのほうが強いけれど、双極円卓大魔法陣で願いが叶えられるというメリットもちゃんとある。それに……
「オレは麻子ちゃんを助けたい。理由なんてそれだけで十分だ」
そんな理由でオレはあっさりとこの戦いに巻き込まれる事を了承する。力があって、それを使えば助かる人がいるのなら、やるのが義務というものだろう。
それに、この流れも……どうせカミサマの台本に書かれているのだろうから。乗ってやったほうが面白そうだ。
「……キミ、ちょっと肝が据わり過ぎじゃない?」
「こういう展開に憧れていた時期があってね」
「すげーな、オタクって……キミ、名前は?」
「鳥巣一貴」
「トリスイッキ……はは、これも運命かもね? じゃあぴったりの円卓因子がある」
魔凛の手がうっすらと光り、少しだけ痺れるような感覚がした。
「円卓因子『トリスタン』……継承」
「ダジャレかよ」
「麻子ちゃんだってそのノリで決めたしね。アーサー子……麻子」
「えぇえ!? あたしの時もそうだったんですか!?」
大丈夫か、双極円卓大魔法陣。
「アーサー王伝説は様々な作者により構成されているもので、トリスタンはアーサー王伝説とは別の物語の主人公なんだ」
「スピンオフ的な感じか」
「ああ、そんな感じ、円卓因子の中でもちょっと異質の円卓因子だね。キミがまるで物語の主人公のように活躍する事を期待しているよ」
「ふっ……スピンオフが本編を食ってしまっても構わないな?」
我ながら……めちゃめちゃキザな台詞である。
「あはは、それも面白いかもね……ようこそトリスタン卿。神に捧げる一つの悲劇の一員として、頑張ってくれたまえ」
――こうして。
オレは双極円卓大魔法陣という闇深い戦いに参戦する事になった。
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