第18話『魔眼無双と書いてRTAってルビ振る回』
「――馬鹿野郎、馬鹿野郎過ぎる!」
大馬鹿野郎であるオレ――鳥巣一貴は夜の闇を全速力で駆けていた。確かめる時間は今まで取れなかったが、円卓因子を継承し円卓騎士となったオレは、大幅に身体能力が向上しているようだった。
「ぬああああ!」
思い切り足に力を込めて跳躍する。カンカンと鳴り響く踏切を軽々と飛び越え、オレは全ての障害を無視して目的地に駆ける。
幸い、隠ぺいする事をまるで意識しないような闘争の覇気があり……オレはそれに向けて全速力で走る事が出来ていた。どうやらアホが一人いるみたいだ。
なんであの時、オレは眠ってしまったのか。いやそりゃ、めちゃくちゃに疲れていたのはそうだけれど……お腹いっぱいになって眠くなったとか……馬鹿野郎過ぎる。
幸い、先程……麻子ちゃんからの謎のスタンプ(犬がちんちんをしている)を着信したおかげでオレは目覚める事が出来て、冷や汗が出るような闘争の覇気に気付き、今こうやって現場に急行できている。
麻子ちゃん、起こしてくれても良かったのに。まさか……攫われたのか? いや、そんな回りくどい事をする必要があるか? 麻子ちゃんともモードレッド卿とも連絡が取れないから、確認のしようがない。
「……どうでもいい、全部イカせてやるんだ!」
復讐の魔眼があればどうとでもなる。事実関係や複雑なシナリオなんて関係無い。筋書きをぶち壊すこの魔眼で、全てを覆してやるんだ。
オレは、ただひたすら夜の闇を駆けていく。
「……ふむ、トリスタン卿がこちらに来ているね」
河川敷とその周辺を見渡せる位置の電柱の上に、ガレス卿は立っている。
ガレス卿自身はそこまで闘争に興味を持てず、こうしてどのような事態にも対処できるような位置に待機していたのだ。
ガレス卿――本名、ガレスウェイル・ファイエット。
現存する『魔法使い』の家系で、最大の権力を持つファイエット家の長女。千年に一度の魔法の才能を誇る神童である。
単純な魔法使いとしてのスペックであれば、この双極円卓大魔法陣の中で頭一つ抜けており、それに加えて、反則じみた円卓心機の能力により、イレギュラーさえなければ単身で暁陣営を壊滅させる事ができる。
「双極円卓大魔法陣……勝者の願いが叶うのが真実であれば、これほど都合の良い儀式も無いけれど……ううん。なかなかどうして混迷を極めているね」
最初にこちらの陣営の二人が敗退したのは、ガレス卿にとって意外な事だった。正直、自分がいれば無傷で六人全員で勝者になれると思っていたから。
ただ、もう茶番は終わり。ここでアーサー王とトリスタン卿を潰せば、暁陣営は全滅だ。
寝返ったモードレッド卿の処遇はどうするのかは少し疑問に残る所ではあるが……気に入らない処遇になるようであれば、自分以外の全ての円卓騎士を潰せばいい。
……そう、ガレス卿の円卓心機『時空掌握マルミアドワーズ』ならば、誰がどのような事をしようとも、一方的に勝利する事が出来る。
文字通り、ガレス卿の円卓心機は『時空を掌握する』。自分以外の存在の時間を停止して、その間に一方的に攻撃を行う事が出来る。
時間停止が可能な時間はガレス卿の魔力に依存するが、元々血筋として世界最強の魔力を宿しているガレス卿は、その気になれば一時間程度『自分だけが動ける世界』を展開できる。
加えて、ガレス卿としての円卓因子の特性は『自分より格下の円卓騎士の魔力吸収』である。
世界最強の魔法使いであるガレス卿にとって、全ての円卓騎士は格下。つまり、円卓心機が発動した瞬間に勝利が確定する。時間停止中に相手を倒せずとも、相手の魔力によって時間停止が成立し、相手の魔力は底を尽くのだから。
何から何まで、ガレス卿にとってこの双極円卓大魔法陣は自分の掌の上。ガレス卿はこの戦いの指示を有能なガヴェイン卿に任せていたが……本来、この戦いはガレス卿が動けば終わる話なのである。
「早くこの茶番を終わらせて、魔凛に会いに行かないとね……おそらく、彼女が……」
ガレス卿はそう一人で呟き、近くなって来るトリスタン卿の気配をとらえる。
「創成」
最大最強の円卓心機が起動する。儀礼用の小剣――時空掌握マルミアドワーズが虚空より出でて、ガレス卿の手に握られる。
「ふふ、トリスタン卿は何かとても特殊な魔法を使うようだ。射程も分からないから、少し遠くから迎えに行こうかな」
マルミアドワーズに魔力が集積する。空間が軋み、歪み、光が反転し、全てを掌握するように……夜の闇より黒い何かが拡がっていく。
「時空掌握」
世界最強の魔法使い、ガレスウェイル・ファイエットによる一方的な蹂躙。儀礼用の剣は天高く構えられる。
今ここに、幕引きの一撃が降り下ろされる。
「マルミアドワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?!?!?」
次の瞬間、ガレス卿は思いっきりイった。
謎の力によって、何故かものすごくイった。イキ散らした。
セミがしおしおと空中で力を無くすように……ガレス卿は電柱の上から落ちて、セミファイナルっぽく痙攣して戦闘不能になった。
「うわぁ! なんだこいつ!」
遅れて到着する鳥巣一貴。
「ふええ……こんなの初めてにゃのぉ……♪」
めちゃくちゃにイって、女の子になっているガレス卿。
「……なんでだろう……何故か激イキが発動している……って事は円卓騎士の人か……?」
一貴はガレス卿の頬に月の紋章を確認する。
「敵じゃん」
一貴は光を放ちながら明滅するマルミアドワーズを見つけた。
「ふんッ!」
「あっ♪」
存在すら曖昧だったマルミアドワーズは、まるでゴキブリを踏むかのように砕かれて消滅する。
鳥巣一貴のチート能力。時間停止貫通による自動迎撃(射程は無限)により、ガレス卿――敗退。
「よく分らんが、魔眼が発動したのかな……? うん、まぁ、オレも強くなってるのかもしれないな、先を急ごう」
時を止めるとかいう知覚できない概念のせいで、ガレス卿は夜の闇の中、倒した当人にも気づかれず、ひそやかに敗退するのであった。
「なんだかよく分らんが勝った! 残りの円卓騎士はこれで三人だな!」
オレは名前も知らない円卓騎士との勝負(?)に打ち勝ち、先を急ぐ。河川敷の坂を全力で駆け上がり、金属音が鳴る方向へ駆け出す。
「潰れろ!」
「潰れません!!」
裂帛の咆哮が聞こえる。麻子ちゃんはまだ無事なようだ。
「オレはもう、迷わない……!!」
視界内に入れてしまえば、それがどれだけ遠くても魔眼は発動する。オレはありったけの力を両脚に込め、ぐっとしゃがみこみ……次の瞬間、爆発的な膂力で真上に跳躍。
視界が跳ね上がり、手を伸ばせば星に届きそう。オレは急激な運動にぐらつく視界を必死に制御。
「麻子ちゃん、どこだ……!?」
金属音と共に、火花が夜に咲く。
「麻子ちゃんっ!」
四人の人影を……視界に捉えた!
「――ッ!! ししょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
大切な弟子の必死の叫び。宵闇に煌めく決死の閃き。
それを逃す訳が無い、オレは身体を反転させ、咆哮する。
「テメェら全員……快楽の海に沈めぇえええええええええええええええええええええ!!」
オレは、麻子ちゃん以外の人影に、全力で魔眼を発動する。
「んほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?」
「ふにゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「ぽああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
――勝敗は決した。
その場にいる三人はえげつない嬌声を発し、痙攣して倒れ伏す。
「あひっ……♪ ほ、ほひぃっ……ふああああんっ……♪」
「なぁにぃ……なによこれぇ……ふにゃぁああ……♪」
「だめ……う、うそ……な、何も……何もかんがえられにゃいいい……♪」
円卓心機はポイ捨てされて、無防備な状態で三人の女性が転がっていた。
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