第5話 オレの物語
オレは小さく首を振った。
イザベラとはまだだと、いう意味だ。
「やっぱり、そうですよね……私なんか……」
茶色のドレスの袖で、彼女は涙を拭うが、オレは身をこわばらせていた。
──この女、演技だ。
オレは知ってる。
このタイプの女を知ってる。
オレのことをいじめた、あの女と同じ匂いがする………
「でも、イザベラ様は本当に冷たい方で……私は腹違いといえど、彼女と血のつながりがあることが、本当に恐ろしくて……」
そうきたか。
ちょっとややこしいけど、間違いなく、王子騙されてる系じゃね?
黒幕、こいつだろ。間違いないわ。
いや、オレもイザベラのこと、なんも分かってないけどさ。
でも、最後だからってわざわざベッドまできて、オレが起きるまで待っててとかって、冷徹な人間はしないと思う。
確かに言われたことは冷徹だったけど!!!
いや、あの突き放した感じ、めっちゃよくない!?
デレさせたいよね!!!!! ゲームのしすぎって言わないで! でも、あるじゃん、そういうギャップ萌!
……だってさ、オレがうずくまって、愚痴ったとき、本当に心配そうに手を差し出してたから。
あの目は、嘘じゃない──
「今日はまだ時間があるから……えー……」
「どうされました、ラインハルト様? ハンナはいつも、ラインハルト様の心のそばにおります」
ハンナって人なのね、君。また泣いてるし。でも、それ、ダウトー!
女って女優っていうけど、マジ、こんなのいるんだよね。怖……
よし、嘘泣き女とは付き合ってられんから、もう少し歩くか。
「最善策を考える。少し、出てくるよ。待っててね、ハンナ」
オレが言うと、彼女はようやく笑った。
だが、心の底から馬鹿にした笑いだ。
ハンカチで隠したつもりかもしれないが、オレには頬の歪みでわかるんだよ。
「……いきなりガゼボで現れるって、あそこ、逢引の場所だったのか? キモいな、マジ」
庭園を抜けると、小さな森が現れる。
だが道は整備されていて、ちゃんと歩けるようになっているようだ。
オレはものは試しにと、歩くことに。
虫っぽい妖精や、美しい蝶々を眺めながら歩いていると、小川がある。
オレは小さく息をついて、小川の横に腰を下ろした。
緩やかな水面に映った顔は、見慣れないイケメンだ。
小さく草をむしり、オレは考えをまとめていく。
・明日がオレの誕生日(王子)
・明日は、婚約者から、正式に妻にする人を決める日
・婚約者は、リア、クリスティーネ、イザベラ
・今日、イザベラと婚約破棄し、ハンナを婚約者とする予定だった
「……ってことは、明日は、リア、クリスティーネ、ハンナとし、イザベラを追放する予定だった、とか……?」
オレは気づく。
気づいてしまった。
この本の主役は、オレじゃないってこと。
そう。
オレの物語は、明日までしかない、ってこと!!!!
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書くのが初めてに近いもので、悪役令嬢モノ、色々教えていただけたら嬉しいです。
感想はとっても嬉しいですし、割烹でも構いませんので、勉強させてくださーい!