第2話 この世界のこと
冒頭短編を短編完結へ
全7話です
顔を上げたオレの横に、ダンディな執事が首をにゅっと伸ばしているではないか!
しかしながら、今のオレは、怒だ。
「ちょっと、あんた、どこ行ってたんだよ!」
「あんたとは……ラインハルト王子、言葉遣いが荒すぎます。キルヒアイス、と、名で呼んでください」
たしなめられたが、キルヒアイスとな。 キルヒアイスとな?
これでもオレ、オタクの端くれ。ラインハルトとキルヒアイスといえば、知ってる。
しかも赤毛じゃん。まんまじゃん。
「……マジかよ」
つい声が漏れるが、その言葉遣いもあまりよくなかったようだ。
睨まないでよ。
「……さ、王子、お着替えを」
どこからか現れたトルソーに、洋服一式が着せられている。
これを着ろということらしい。
が、なんだ、このファンタジー王子服!!!!
どこから着ていいのか、わかんねー!!!!
だいたいリアルにマントがついてる服なんて、結婚式でも着ねーよ!
オレは慣れない順序で服を身につけ、ときには間違え、着替え直して、ようやく首元のひらひらまで辿り着いた。
ダンディ・キルヒアイスはオレの首元のひらひらを丁寧に結びあげ、そっと撫でる。
「お似合いですよ、王子」
鏡を見せられたが、アニメや乙女ゲーで見たことがある、キラキラした王子がいる。
光の守護神って名乗っても通用しそうなキラキラ感。
くるりと回っても、どの角度もイケメン。
イケメンすぎて、もう、オレの顔が思い出せない。
鏡の中の王子を見ながら、ふと、思ってしまう。
オレ、ラインハルト、乗っ取ったんじゃね!?
いくらなんでも、オレは美形になりたかったワケじゃないし、王子になりたかったワケじゃない!
思い出そうとしても、オレの過去しか出てこないし。
なんなんだよ、これ……
オレはラベンダー色の目を見つめて、考える。
待て、オレ。
こいつは、イザベラとの婚約を破棄するような男だぞ?
乗っ取って良くね?
むしろ、オレがイザベラを幸せにするために乗っ取ったんじゃね?
オレが鏡のイケメンに語りかけていると、肩越しにいるキルヒアイスが、感慨深い顔で小さく息を吐いた。
「明日で、ラインハルト王子も16となられるんですね」
「……へー」
急な話についていけない。
明日が誕生日だそうだ。しかも、なんか、16歳は区切りっぽい。
そういう雰囲気がある。
「王子はまだ実感はないかもしれませんが、明日で成人とみなされるんですから」
ほら、やっぱり。
「……王子が3つの頃からお世話をしております故、私の手から離れてしまうのだと思うと、寂しくもあり、嬉しくもあり……」
涙ぐむキルヒアイスに、オレはなんて声をかけていいかわからない。
が、一応、伝えておくか。
「キルヒアイス、13年、世話になった。今まで、ありがとう。何か、お返しができたらいいんだが……」
ありきたりだけど、これがオレの精一杯。
きっと、存在が消えたラインハルトでも言うはずだろう。
「王子が感謝の言葉など……! 感謝などされていないかと……何と申したらいいか……」
ラインハルトとキルヒアイスの関係性が、全くわからん。
仲よかったの? 悪かったの? ねぇ?
白い手袋をはめたまま、目尻を拭うキルヒアイスに、オレは視線で問いかけるが、答えは返ってこない。
「そうですね……お返しは王子のギター演奏が聴きたいですね。王子のギターは心を豊かにしてくれますから」
「わかったよ。近いうちに、演奏するよ」
ギターの演奏って、なに?
オレ、弾き語りが趣味なんだけど、演奏って、楽譜読めたら弾ける……?
墓穴掘った気がしなくもないけど、やっぱ、仲はよかったのかな。
この感動の空気を割くように、音が響く。
──ぐぅううううう
オレの腹時計だ。
「……最悪……」
つぶやいたオレに、キルヒアイスは高らかと笑った。
「お元気になった証拠じゃないですか。もうお昼ですね。お食事の準備をいたします」
「ありがとう、キルヒアイス。あと、食堂まで連れてってくれよな。な!」
「はい?」
「いいから!」
このときはまだ、昼飯ってどんな食事なんだろなーなんて、のんびり考えていたけれど、オレがすぐにぶち当たったのは、オレの意思や記憶に関係なくある、キャラ設定。
王子には、幼馴染がいるんだそうで。
しかも、婚約者だという。
つーか、婚約者って何人いんの?
そんなにイザベラを溺愛することができないの!?!?
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書くのが初めてに近いもので、悪役令嬢モノ、色々教えていただけたら嬉しいです。
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