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第1話 終わりの始まり

冒頭のみ上げていたものを加筆、短編に仕上げました。

全7話になります

 コンビニ行くというオレに、逆方向の書店にも寄れと、姉貴が言う。


「自分で行けばいいじゃん……」

「今読みたい。すぐ読みたい! 陰キャのほぼニートなんだから、運動しろ、運動! 買ってこさせてやるって!」

「陽キャのニートなんていねーし」


 姉貴の蹴りを華麗に避けたオレへ、いきなり送られたメッセには『悪役令嬢』の文字。

 なんだ、この長いタイトル……


 悪役令嬢イザベラは溺愛されないのなら追放されてさしあげま……?


 まだタイトルの続きはあるけれど、長い。覚えられない。

 しかも、これ、本屋の棚がどこかもわかんないヤツじゃん……うわぁ……


 姉貴の目は諦めていない。

 オレはスマホをポケットに突っ込むと、右手を差し出した。


「姉貴、金」

「買ってきたら、払うっつってるだろーっ!」


 姉貴のドスの効いた声から逃げるように、オレは自転車にまたがった。



 ──この結果として、オレは帰り道、車にどーんと、ひかれることに。


 もう痛みもない。なぜか、走馬灯も、後悔もわいてこない。

 現実の、納得だけだ。

 中学校は2年の途中から不登校。高校に入っても、まばらにしか通えていないオレは、生きていても価値がないって、ずっと思っていたからもあると思う。


 寒気もおさまったオレの目の前に、赤く濡れた悪役令嬢のカバーが見える。


 黒髪を揺らし、青い目の下にほくろが2つ、黒いドレスをまとっているのが、この本の主役の悪役令嬢。

 意外と好みの顔だ。クール美人っていいよね。


 小さく息をついた。


 こんな女子と会話できる人生がよかったなぁ……

 めっちゃくっちゃ溺愛したのに……


 まぶたがぐっと落ちる──




「……ハルト王子、朝でございます」


 ダンディボイスで名前を呼ばれ、オレは飛び起きた。

 横を見ると、執事の格好の渋いオッサンがいる。

 燃えるような赤毛なんて、初めて見た。

 めっちゃかっこいい。ヒゲもダンディ……!


 すぐ声に出そうとしたけど、それは声にならなかった。

 逆に、息が詰まる。


 どこだ、ここ……?


 まるで見慣れない景色だ。

 言うなれば、西洋の豪華な室内のベッドに、オレは寝ていたことになる。


 ぐるりと見渡すが、装飾が半端ない。

 ネットで見た、ベルサイユ宮殿みたいだ。


 白い壁には様々な装飾がされ、金の縁取りがされている。天井には豪華なシャンデリア、刺繍が施されたベッドカバーは宝石でも散りばめられてるのか、やたらと光ってる。

 窓は白く滲んで外は見えないが、テラスがあるのは間違いない。

 逆側の大きな壁には、それに見合うだけの大きな天使の絵画が下がり、アクセントなのか、大理石の石像まである──


「……え……え?」

「ラインハルト王子、どうしました?」


 オレの戸惑いっぷりにオッサンが驚いている。

 いや、オレが驚きたいんだよ!!!


「は? オレ、ハルトだけど? 王子?」

「王子、熱でも?」


 オッサンがぐっと寄ったことで、後ろにかけてある鏡が現れた。

 だがそこに映っていたのは、赤毛のイケオジと、金髪の美青年系イケメン……!


「ちょ……他に誰かいる!?」


 テンパるオレに、オッサンもテンパってる。

 部屋中をぐるりと見渡したけど、肉眼で確認できた人間は、オッサンと、オレだ。


 この鏡に映ってんの、幽霊、とか……?


「……こわっ!」


 思わず仰け反ったら、向こうも仰け反った。

 そっと、ピースをしてみる。

 イケメンもいぶかしそうな顔でピースをする……


 オレは前髪を、そっと、つまんだ。

 鏡越しではない、直接の視界に、前髪をぐっと引っ張った。


「……きん、ぱつ……!」


 ふらりとする。

 視界が暗転していく───




 目を開けると、そこには、知らない豪華な天井がある。

 これは、現実なのだろうか。

 それとも、寝てまた夢の続きを見てるパターン……?


 横を見ると、鏡が見える。

 毛布に包まれている顔は、パツキンのイケメンだ。


「……はぁ……」


 意味がわからん……!!!


「あいかわらず、のんびりしてらっしゃるのね、ラインハルト様」


 女の声に、素早く起き上がり、振り返った。

 そこには、黒いドレスに身を包んだ、青い目の黒髪美女が。


 彼女に見覚えがある。

 ……そうだ。あの、『悪役令嬢イザベラ』の、表紙イラストにそっくりなんだ。


 黒い髪、青い目、目の下のホクロ、そして、少しキツそうなこの雰囲気……!


「……え、あの……まさか、イザ、ベラ?」

「なんです、ラインハルト様?」


 返事した!!!!


 マジかよ……

 マジ、イザベラかよ……!!!


 でもなに、この、ぐっと顎を引いて、かしげながら見つめる目……

 呆れたような、この冷たい視線、たまんない!

 めっちゃ、きれい……!


「今日、わたくしと、最後のお茶会でしたが、お倒れになったとお聞きして来ましたのに。全くお変わりないなんて。わたくしとお会いになりたくないのなら、そうおっしゃればいいのでは?」


 おいおい……

 予定あんなら、早く言ってよ、オッサン!!!


 つか、見れば見るほど、マジ、好み。美人。

 めっちゃVRゲーしてる感じ。


 ……いや、むしろ、ゲームじゃね?

 オレがこんなイケメン、あり得ねーし。

 パツキンイケメンのアバターって思うと、メチャクチャしっくりくる。

 なら、オレが、イザベラをデレさせに動いても、問題なくない?


 つか、“最後のお茶会”って……?


「ご、ごめん、ほんと……で、あの、その、最後のお茶会って……?」

「まさかお忘れになって? 手紙で、わたくしとの婚約を破棄をしたいと書かれていたじゃありませんか。だから今日は正式な文書をもって、破棄の手続きを」


 オレはベッドから飛び出し、ハイハイで高速移動する。

 足元に座っているイザベラの眉が引き攣るが、そんなのお構いなしだ。


「なんで? なんでオレがイザベラと婚約破棄?」

「そんなこと、わたくしも知りませんけど。……お噂ではお好きな方ができたとか」


 オレは絶望すぎて、ベッドから床に転がり落ちた。


「ありえん……なんでだよ……黒髪ロングに吊り目なんて、猫系女子で、ドンピシャじゃん……バカじゃねーの? バカだよ、王子……きっと金髪ふわふわのくりくりお目目の女子に行ったんだろ? バカじゃん! バカじゃん! オレのネット情報じゃ、そーいうの地雷女って言うんだよ! バーカバーカバァアアアカ!!!」


 床をガンガン殴りながら、この体が過去にした仕打ちをオレは憎むが、イザベラがオレにそっと手を伸ばした。

 オレはその手を握り、力の限り、叫ぶ。


「オレは、イザベラと、絶対に、婚約破棄しないから!!!」

「……はぁ?」


 頭を下げつつ、懇願するオレだが、戸惑ったままのイザベラの顔が、かわいすぎる!!!

 さらに、吸い込まれそうな美しい瞳に、オレの目が離れない。


「……ライン、ハルト様?」

「え、いや……その……き、きき、キレイ、だなって……」


 年齢=彼女いない歴のオレなのに、いくらVRゲーと思ったとはいえ、目を見て、手を握って、ましてや、キレイだなんて、大胆すぎる! すぎる!!!


 素早く吹っ飛んで壁際に立ったとき、自分の寝巻き姿に絶望した。


「……なんだ、これ!」


 全身タイツのような寝巻き姿……!

 ベッドにダイブし、体を毛布で丸めたオレに、イザベラが大袈裟にため息をつく。


「わたくしのドレスをお褒めになられて?」

「ち、違うって……青い目が、夜の海みたいで、キレイだなって……思って……」


 ベッドの毛布にくるまりながら、オレは声を小さくしながら言った。恥ずかしい。恥ずかしい!

 イザベラはぐっと俯くと、またため息をついた。


「からかいになられるのなら、帰ります」

「え、ちょ、あ、」


 足早に部屋を去った彼女をオレは追いかけることもできず、ベッドで見送ってしまった……!

 ただ、彼女の耳が赤かった。

 彼女の方が、熱あるんじゃない? 大丈夫かな……


「っていうか……あーーーもーーーー!!!」


 叫ぶしかできないオレが、悔しすぎる。


 オレは、これから彼女を溺愛する! 勝手にしちゃう!

 マジで、決めたし!!!


「まずは、お茶会ってやつの、やり直し、かな……」


 着替えようと、オレはベッドで立ち上がった。

 だが、部屋のどこがクローゼットなのか、全くわからない。


 バタンとベッドに突っ伏したとき、耳元から執事の声が。


「王子、調子はいかがですか?」

冒頭のみ上げていたものを加筆、短編に仕上げました。


前回、冒頭のみにもかかわらず、たくさんの方の反応をいただけて、とってもうれしかったです!

しっかりとハッピーエンドを迎えます。全7話、お楽しみください。


楽しんでいただけたら、“☆”や“いいね”で反応いただけると、嬉しい&勉強になります。

よろしくお願いします。書くのが初めてに近いもので、悪役令嬢モノ、色々教えていただけたら嬉しいです。

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