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【完結】氷結の聖女と焔の騎士  作者: 冬月光輝
第一章『呪われた忌み子』
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5.弟子入り

「それで可愛い弟子候補たちよ、名前を教えてくれぬか?」


「弟子候補って、本気ですか? アーシェ・アーウィンです」

「んっ? 今さら名前? まぁいいか。俺はアレス・マギナスだ」


「ふむふむ。銀髪の美人ちゃんがアーシェちゃん。金髪の男前がアレスちゃんか。二人とも良い目をしとる」


 助けてから随分と時間が経ったのに今さら自己紹介って、なんだか照れくさいわ。

 エドモンドさんは機嫌良さそうに白いヒゲを撫でながら私たちの名前を復唱した。


「あれ? 君たちって、あのエルドラドさんに引き取ってもらった子どもたち?」


 ああ、やっぱりクラウスさんは知っていたか。

 ギルドマスター、エルドラドの名前はそれなりに有名だし、宮廷ギルドに務めている人なら知っているに決まっていると思っていた。


「そうです。巷では呪われた忌み子と呼ばれています」

 

「ふむ、忌み子とな。それは(まこと)か? クラウス殿」


「えっ? そ、そうですね。残念ながらそういった差別のようなことが行われているのは確かです」


 そのとき、エドモンドさんの目がギラリと光った。

 クラウスさんは言いにくそうに差別的なことが実在すると語る。

 この人は良い人ね。まだ私たちに同情心を持ち合わせてくれている。

 

 だけど内心ではまずいと思っているだろう。これから私たちのような者を公爵様に紹介しなくてはならないのだから。


 それに彼が私たちを弟子に取ろうとしていることを止めなくてはならないと考えているかもしれない。


「なるほどのう。うーむ。……アーシェちゃん、アレスちゃん。君ら、なってみるか? 英雄に」


「はぁ? 英雄? なにを言っているのかわかりませんが」

「ははは、面白い爺さんだな。俺らが英雄って」


 考え込んで、どんなことを言うと思ったら英雄って。

 あっちの国では魔法だけでなくて冗談も流行っているのかしら。

 まったく、バカバカしいにもほどがある。英雄どころか普通の人間にすらなれずにいるのに。


「英雄はええぞ。周りの見る目がガラリと変わる。君たちは英雄になっておいたほうがいい。世界が君らを崇めるのだ!」


「なれるなら、そうでしょうね。でも私たちには力もなければ地位もない」

「そうそう。おまけに職もな。爺さん、俺らを英雄にしたいって、一体どうするつもりだよ?」


「じゃから、ワシの弟子になるんじゃよ。ワシが稽古をつければ君らはすぐにでも英雄への道を駆け上がるだろう。もちろん、君らの努力も必要じゃが」


 夢みたいなことを言う。

 並の冒険者以下の私たちが大賢者の弟子になったとて、英雄なんてなれるはずがない。

 勇者だろうが、聖女だろうが、本人の資質があったから歴史に名を残したのだろう。

 

 私たちはこの呪いのせいで努力して成り上がるという道すら失ったのだ。


(エドモンドさん、昔は凄い人だったのだろうけど、耄碌しちゃったのかもしれないわ)


 つい失礼なことを考えてしまう。だってそうでしょう? 私などが頑張ったらなんとかなるって普通のことを言われたのだから。

 努力などとっくにしたわよ。どうにもならなかったの。


「ワシは耄碌しとらんよ、アーシェちゃん」


「へっ? なんでそれを?」

「おいおい、アーシェ。そりゃ、失礼だろ。って、そんなことこいつ喋ったか?」


 アレス、反応が遅い。疑問に持つところはそれよ。

 なぜ私が心で思ったことを読まれたのか。それにびっくりしたのよ。

 

 やはりこのエドモンドという老人、只者じゃない。そりゃ、大賢者なんだから当たり前なんだけど、ねぇ。


「ほっほっほ、心を読まれたことに驚いておるな? 安心せい! ワシは魔法だけならばこの世界の誰にも負けない自信があるんじゃ」


「「…………」」


「君らにはそんなワシが認めた素質がある。鍛えれば、英雄になるなど造作もない。やるか、やらぬか。君たちの選択は二つだけじゃからして。心して選べ」


 私とアレスはジッと顔を見合わせる。

 今までの人生、良かったことなんてなかったわよね。

 唯一のいい思い出が孤児院からギルドに拾われたことだけど、結果的に最悪の思い出になったし。


 何もしなかったら、もうお金もなくて仕事もなくて、忌み嫌われていく人生は確定している。

 

 これより下はないと信じたい。でも、なんでこんなに新たな一歩を踏み出すのが怖いの……。


「いいぜ、爺さん。俺もアーシェもあんたの弟子ってやつになってやる。英雄にするって約束を忘れるなよ?」

「ちょっと、アレス!?」


「ほっほっほ、その瞳には迷いなし。アレスちゃん、若いのに肝が座っとるのう。……アーシェちゃんも弟子入りということで良いか?」


 まったく、勝手なことを言って。なんで私のことまで決めちゃうのよ。

 そういう強引なところが嫌だって何度言ったら理解してくれるのかしら。

 

 ……でも、今までずっと一緒だった彼を一人にするわけにはいかない。


「大賢者の弟子になれるのなら光栄です。魔術師としては未熟者ですが、よろしくお願いします」


「任せなさい、アーシェちゃん。ワシが最強の魔術師にしちゃるよ」


「えっ? 爺さん、大賢者なの!?」

「今さら!?」


 そういえば、アレスって寝ていたっけ。

 てか、この人はどんな人の弟子になるかよくわからないまま弟子になるって言っていたの? やっぱり怖いんだけど。


 本当にしょうがない子ね。なんて危なかっしいんだろうか。


「しまったなぁ。俺、魔法適性ゼロなんだぞ」

「そもそも、誰の弟子になるのかも知らずに返事をするほうが悪いでしょ」


「ほっほっ、君らは実に仲がよいのう。では馬車を降りるまでに、そうさな。君らに“属性の限界突破”の基礎を教えよう。これはこの魔法研究者エドモンドの最先端魔法理論に基づいた奇跡じゃて。きっと気にいるじゃろう」


 こうして私たちは大賢者エドモンドの弟子となった。

 弟子になって早々、なんだか無理そうなことを教え込もうとしているけど大丈夫なのかしら……。やっぱり、ちょっとだけ不安だわ。

 

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