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【完結】氷結の聖女と焔の騎士  作者: 冬月光輝
第一章『呪われた忌み子』
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4.大賢者の弟子候補

「ワシはこの大陸の向こう側、魔法国家アルカムル王国で随一の魔法研究者。エドモンド・ネイビスというものじゃ」


「アルカムル王国の魔法研究者?」

 

 アルカムル王国といえば海を越えた先にある魔法の最先端技術によって、世界で最も豊かな国と言われている。

 魔法国家と呼ばれていて、魔法研究者は厚遇されているんだっけ。


(この人が研究者? だって寄生虫を飲み込むような人よ。信じられないわ)


「いやー、ここブエルバラン王国の宮廷に呼ばれてのう。途中で腹が減ってメシを食ったら、死ぬ程腹が痛くなって――」

「エドモンド様~! 困りますよ! 勝手にいなくなっては! 護衛の僕が怒られるんですから!」


 疑いの眼差しを送っていると目の前の建物の屋根から黒髪のメガネを青年が飛び降りてきた。

 あの襟についている銀バッヂはこのブエルバラン宮廷のエンブレム。つまりこの人はこの国最高峰ギルドである宮廷ギルドの一員ってことだ。


 宮廷ギルドから護衛を出すってことはこの老人、本当に……。


「おお、クラウスくん。君から逃げるのには苦労したわい。透明になる魔法まで使わせてからに」


「本気で逃げようとしないでください」


 姿を透明にする魔法? そんな魔法なんて知らないわよ。

 なんか凄い人と関わったみたい。寄生虫食べた老人だという部分がそれをゴリゴリ削っているけど、宮廷ギルドの護衛は本物に見えるし、只者じゃないのは間違いないだろう。


「ふわぁ。なぁ爺さん、よく分からんが薬代って返してもらえるのか?」


 アレス、話がわからないからってあくびしないの。

 そうね。裕福な人なら薬草代くらいは返してほしいわ。

 それでなんとか食いつないで辺境まで旅ができればまだ望みはあるもの。


「おおっ! そうじゃった、そうじゃった! 命を助けられたお礼がしたかったんじゃ! クラウスくん。お二人も公爵殿の家に連れて行くぞ。なんせワシの命の恩人だからな」


「い、命って一体なにが……? わかりました。エドモンド様の恩人ならば護衛の僕にとっても恩人です。ご同行願います」


 お金返してって話を無視しないでくれるかしら? 

 それに公爵家なんて私たちみたいな呪われた人間が行っていいところじゃないと思うんだけど。


「私は構わないけど、ええーっと」

「ま、俺らはどうせ暇人だしな。爺さんに恩返しくらいさせてやろうぜ」


 とはいえこのままじゃどうにもならないので、私たちは魔法研究者のエドモンドについていくことにした。

 

 クラウスさんという宮廷ギルドの護衛が用意した馬車に乗り込み、目的地である公爵家を目指す。


「グーグー」

「よく眠れるわね。本当に図太いんだから」


 馬車に揺られながら堂々と眠るアレス。この男はメンタルを鍛えすぎて、時々無神経だと思ってしまうことがある。

 

 この先のこととかきっとあまり考えていないのね。

 ある意味羨ましいけど、なんか腹が立つわ。


「……まさかエドモンド様がアネキセツを飲み込むとは」


「そんなもん、ワシの国にはおらんでな。いやー、うっかりうっかり」


「アーシェさん、本当にありがとうございます。大賢者エドモンド様になにかあったら、僕はクビですよ」


「大賢者?」


 大賢者という称号は聞いたことがある。

 三十年前に魔王っていう魔界からの侵略者が世界を荒らしまわっていて、そいつを討伐した英雄と呼ばれる冒険者たち。

 勇者マルサス、聖女アネット、騎士ケヴィン、それからええーっともう一人いたような……。 

 

 とにかく、その英雄たちの師匠って人が大賢者って呼ばれる老人だったはずだ。


 この寄生虫丸呑み老人が大賢者? 研究者というのも怪しいのに。それに三十年前に老人だったってことはこの人は何歳なのよ。


「こら、古い名で呼ぶな。ワシはもうしがない魔法研究者じゃ。弟子もおらぬし、戦うこともないじゃろう」


「これは失礼。ですが、エドモンド様。こちらの国の発展のために弟子を取ると仰ってくれたではありませんか。国王陛下もそれを楽しみにしているんですよ」


 へぇ~。大賢者と呼ばれた人が国の発展のために弟子をねぇ。

 国王陛下はいくら積んだのかしら? 余程の条件じゃないとわざわざ海を越えてこの国のために弟子を取るなんてしないんじゃない? 

 

 そんな大仕事を任されているならクラウスさんも顔を青くするはずだ。護衛対象の大賢者が寄生虫に殺されたら、この人はクビどころではなかったかもしれない。


「弟子候補ならもう見つけとるから安心せい! ワシの弟子になれば四英雄に勝るとも劣らない実力をつけること請け合いじゃ!」


「なんですって!? 弟子候補、もう見つけたんですか!? いつの間に!? これは大ニュースですよ。どんな人なんですか!?」


 クラウスさん、ものすごく興奮しているわね。アレスなら確実に炎上している。

 確かにその話が本当なら大ニュースかもね。大賢者がこの国の人間を弟子に撮ったとなれば、その人たちは英雄確定だもの。


「どんな人って、ほれ。そこの少年少女じゃ。名前は……、なんて言ったかのう? とにかく将来有望な子たちじゃよ」


「へっ?」

「んあっ?」


 今、エドモンドさんはなんて言った?

 私たちが大賢者の弟子候補って、そんなの無理に決まっているじゃない。

 だって、私もアレスも呪われた忌み子と呼ばれていて、人並みの生活だって許されていないのよ。


「お主たちならワシの長年の研究成果である。“属性の限界突破”をマスターできるじゃろう。いやー、寄生虫飲み込んで正解だったわい。いい拾い物をした。ほっほっほ」


 どうやら冗談で言っているわけではなさそうね。

 どうせ私たちの名を聞いたらクラウスさんあたりが反論して認められずに終わりでしょう。

 ああ、なんでもっと早く名乗らなかったのかしら私たち。

 

 上機嫌そうに笑うエドモンドさんを見ながら私はこれから名を名乗ることが憂鬱になっていた。



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