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【完結】氷結の聖女と焔の騎士  作者: 冬月光輝
第一章『呪われた忌み子』
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2.路頭に迷った二人

「俺らをクビ、にですか? ちょっとそりゃあないですよ。なぁ? アーシェ」

「ええ、ギルドマスター。私たちを孤児院から拾ってくださったとき。あなたはずっとここにいてよいと仰ってくれたではありませんか」


 お叱りを受けることくらいは覚悟していたが、まさか解雇通告とは。

 孤児院にきた彼は多くの人の前で涙を流しながら言ったのである。


『安心しろ、僕は君らを見捨てない。呪いにかかっているから差別されるなんておかしいじゃないか!』


 拍手は起きた。彼の言葉はニュースとして取り上げられて新聞にも掲載された。

 呪われた子どもを恐れずに引き取った勇気あるギルドマスターだと、国中が知ることとなったのである。


「かーかっかっか! 良い人キャンペーンは終了なんだよ。三年も世話したんだから、文句は言わせないぞ」


(キャンペーン? やはり私たちを引き取ったのはギルドのイメージアップのためだけだったみたいね)


「役立たずのお前らを引き取って、俺は気のいいギルドマスターとして有名になった。あとはお前らをどう処分するか、だったが……」 


 鼻息を荒く忌々しげな視線をこちらに送るギルドマスター、エルドラド。

 どうやら私たちはよっぽど邪魔者だったらしい。


「結局、孤児であるお前らを保護観察する三年は我慢するしかないってことで落ち着いてな。今日がその三年目。お前らを自由にできる日ってわけだ」


「そんなこと許されるか!」

「ちょっと、アレス。火でてるわよ」

「ひぃっ……!」


 ドンと叩いた右手が燃えてしまったアレス。おかげでテーブルに火が燃え移ってしまう。

 エルドラドは驚きの声を上げて、後退りする。

 解雇通告がどうやら彼を興奮させたみたいね。こんなに彼が怒るのを見るのは初めてだ。


粉雪(ホワイトパウダー)


 人差し指から粉状の冷気を放出して消火。こうして、彼が燃やしたものを鎮火するのは何百回目だろう。


 厄介なのはアレスの炎は生きているように強く。簡単には消えてくれないところだ。

 生命の息吹を感じさせる独特の炎は魔法のそれと少しだけ異なった性質を持っている。


「クソが! その不気味な呪いがうちの評判を逆に下げ始めているんだよ! お前らみたいなのが俺らと同じ人間面してやがるのも気に食わねぇ! さっさと出て行きな!」


「……わかりました。しかしながら、あなたが行ったことは不当です。法律でも解雇するには事前に――」


「ここでは俺が法律だ! 事前に通知がいるのは俺の都合で解雇するときだけだろうが! お前らクズ二人は自らの都合で退職するんだよ! 書類は今朝、受理された! 保護観察がなくなると話が早くていい!」


 この男、なんてことを平気な顔していうのかしら。

 ということは私たちは自分の意志でこのギルドを去ったことになっているってこと? 勝手に書類を作って、自らの体裁を守るために。


「ギルドマスター! あんた、人の心がないのか!」


「あるともさ。お前ら、残念ながら人じゃない。人未満には情もわかないし、そんなのは俺だけじゃないのは知っているだろ?」


 エルドラドの言うとおり。

 私たちは知っている。仲間に優しい人たちも私たちにだけは態度が違った。

 人未満という言葉が突き刺さる。この世界はどこまでも私たちの生存は許さないみたいで。


「アレス、出ましょう」

「アーシェ、なにを言っているんだ! ここを出たら俺たち……」

「ここにいてもどうにもならないわよ。あの人がこれから先、給金を払うと思う?」

「うっ……」


 出ていくのは決定事項。これは覆らない。

 エルドラドは私たちを追い出す手続きを終えた。もう、働いた分の給与を渡す義務もないのだ。

 

「かっかっか。アーシェ、お前は物分りがいいじゃないか。その見た目なら買ってくれる男もいるかもしれないし、案外今より稼げるかもしれないぜ?」


「……エルドラド、お前いい加減に!」

「放っておきなさい。あなたが本気で暴れると消火するのが大変だわ」

「ちっ、わかったよ。出ていけば良いんだろ?」


 私たちはギルド員の証であるブロンズ製のバッヂを外して、エルドラドに返還した。

 これで正真正銘私たちは無職である。ここを一歩でも出たら路頭に迷ってしまうだろう。


(でも、この人に頭を下げたとて何も変わらない)


 エルドラドという男の人間性に触れ、私は軽く絶望に近いものを感じていた。

 この先、どこに行っても人間扱いなどされず誰も私たちを雇ってなどくれないのではないか、と。

 

 しかし、この場に留まってゴネるのは嫌だった。プライドもあるけど、何よりこんな気持ちでここにいるのは死ぬよりも辛いかもしれないと思えたのだ。


 人は人として扱われて、かろうじて正気を保てる。

 虐げられてきた自覚はあれど、ギルドマスターであるあの男に拾われて給金をいただいていたときは、それでも最低限そのおかげで私は自分を人だと認識することができていた。


 今のこのどす黒い気持ちを抱えたまま、仮にここにいることが許されたとしても、私は昨日までの私でいられる自信がなかったのである。


「あーあ、俺らこれでプータローだ」

「どこの言葉よ? それ」


 さっきまで興奮して拳を炎上させていたアレスは呑気そうな言葉を吐く。

 この人は短気だけどメンタルは強くて切り替えが早い。

 だからもう既にギルドを解雇されたことを受け入れているのだ。


「なー、これからどうするよ。海を渡ってお宝でも見つけるか?」

「そんなお金があれば悪くないかもね。あなた、今いくら持ってるの?」

「銀貨二枚と銅貨は数えてない」

「お話にならないわね」


 なにを夢みたいなことを。

 まぁ、実際にこの状況を打破するにはそれくらいのことしなくてはならないんだけど……。


 働く場所を探すにも特にこの王都付近の町では私たちの悪名が知れ渡っている。

 私たちが悪事を働いたとかではない。

 忌み子と呼ばれるようになったきっかけ。あの魔術師ゲラの起こした事件と、ギルドマスター・エルドラドが私たちを引き取ったというニュースがあまりにも有名なのだ。

 

 だから私たちは偽名でも使わない限り、どこに行っても呪いを受けた忌み子として扱われるだろう。


(偽名を使って働いたことがバレたら、今度は解雇どころじゃ済まないけどね)


 つまり私たちは完全に路頭に迷っていた。

 私などは半分ほど人生を諦めていたのだが、神様というのはいるもので、まだ天は私たちを見捨てていなかったのである。

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