19.輝かしい未来へ
「そんじゃ、お前らの最初の仕事を与える」
「えっ?」
「も、もうですか?」
驚いた。入って早々、仕事があるとは思っていなかったから……。
でも、せっかくの初仕事だ。頑張ろう。
「まぁ、仕事って言ってもこれは宮廷ギルドの業務に入らないんだけどな。お前らが前にいたギルドのトップ、エルドラド氏についての話だ」
「エルドラド?」
「ギルドマスター?」
まさか、古巣ギルドの長の名前が出てくるとは思わずにいたので、私たちはまた聞き返してしまう。
これは一体どういうこと? 彼の話が仕事って意味がわからないわ。
「アルガモン公爵はお前らの話を聞いて、だな独自でエルドラド氏について調査したんだよ。お前たちに対する処遇も含めて不正のオンパレードだったらしい」
「はぁ……」
「で、あいつを糾弾するためにお前らの証言が欲しいんだとさ。古巣に捨てられて宮廷ギルド員にまでなった経緯を話してやってくれ」
「ぐがっ! お、俺は無実だ! あいつらは自ら望んで退職……! なっ――!? あ、あ、アーシェ、そ、それにアレス、な、な、な、なぜ宮廷ギルドに!?」
え、エルドラド? なぜここにいるのか、というのはこっちのセリフよ。
ど、どうしたっていうの? 一体、全体……。
いきなりの登場に私は驚いた。
不正のオンパレード。そして、私たちの証言がほしい。
そのためにわざわざ宮廷ギルドが動いて彼を捕まえたとでもいうのかしら。
「あ、会いたかったぜ、二人とも。俺ァ、止めたよなぁ? それに三年間、きっちりと世話してやった。給金も過不足なく、ちゃんとお前たちみたいな呪われた忌み子にもくれてやったのは事実だ」
「…………」
「なっ? なっ? そう証言してくれよ。俺は恩人なんだからよぉ。ゴミみてぇなところから拾ってやったんだ。感謝してるって言ってくれ」
それで愛想を振りまいているつもりなの? 醜悪な顔を歪めて、弁護しろと述べるエルドラドは自分が何を言っているのか理解してないらしい。
この人はまだ私たちに恩を着せようとしているのか。信じられない。
「突然、呼び出されて首を宣告されました。書類上は自主的に辞めたことになっていると言われてしまって」
「抗議しても取り合ってもらえなかったな。イメージを損ねるから俺らはいらないって」
「う、嘘だ! こ、こいつら、やばいっすよ。嘘ついているんですって。忌み子ですよ、忌み子。根性捻れて、俺を嵌めようって算段。こんな連中の言うこと信じるんですか? こいつら、人間以下の畜生ですぜ」
酷いことを言う。これがこの人の本音で、どうやらこの人は私たちの証言の信憑性がないと主張したいらしい。
悔しかった。こんなふうに言われても言い返せなかったあの時が。
惨めだった。信じていたのに捨てられたあの日が。
「エルドラドさんよぉ。悪いが仲間の悪口言うのはそこまでにしてくれや」
「へっ? な、仲間?」
「アーシェさんとアレスくんは宮廷ギルド選抜試験に合格しました。二人は僕たちの仲間です。そして僕もグレンさんも仲間への侮辱は決して許しません」
ありがとう。グレンさん、そしてクラウスさん。
私たちのために怒ってくれる仲間ができるなど一ヶ月前には考えられなかった。その一言をもらえただけでも、私たちは人生を変えるために頑張って良かったんだと思っている。
「お、お前らみたいな落ちこぼれが宮廷ギルド? ははははは、嘘つけ! 俺は信じない! そして、俺はお前らみたいだゴミクズに見下されるのが我慢できねぇ!」
「エルドラド……」
激高したエルドラドはこちらに掴みかかろうと詰め寄る。
これでも、ギルドマスター。一瞬のスキをついて俊敏に動けるものだと感心してしまった。
「アーシェに手を出すな!」
「ごふっ! 熱い、熱い、熱い! 死ぬううううううううう!」
「クラウス! そのクズを連行しろ! 書類は俺が書いてやる! あと、筆跡鑑定するから、鑑定士を寄越しやがれ! 提出した書類は全部押収したからな!」
アレスに殴られて身体を燃やされながらのたうち回るエルドラドはクラウスさんに連れて行かれた。
筆跡鑑定をして、彼の証言が間違いで私たちが正しいことを証明してくれるのね。
良かった。彼の不正が暴かれるのは喜ばしいことだわ。
それから間もなくしてエルドラドは偽証罪に加えて、数々のギルド法違反が発覚し、懲役88年の実刑判決が言い渡されたのであった。
模範囚となっても、刑期が44年を下回ることはないのだとか。
エルドラドは現在45歳。つまりどう転んでも出てくるときは90歳近く。生きていられるかわからないのだ。
十分すぎるほど重い刑罰がくだされたと私は思った。
◆
あれから月日は流れて私たちは数々の冒険に出かけ、手柄を上げて、生還してきた。
いまや、この国に氷結の聖女と焔の騎士の名を知らぬものはいないとほどだ。
少しだけ恥ずかしい気もするけど、一番私たちの名前を有名にしたのは、もちろんこの人だ。
「ほっほっほっ、魔法研究の第一人者、このエドモンドの弟子というのはそんなに重いかね」
「そんなにどころではありません。大賢者様が新たな英雄を生み出した、と大袈裟な話が国中で流れており、期待が重いです」
「ほっほっほ、アーシェちゃん。人生を変えるというのはそういうことじゃよ? 自信などなくとも、見る目が変われば期待はされる」
エドモンドさんの言うとおり周りの反応は今までと大違いだ。
誰も私たちのことを忌み子だなんて言わない。大賢者エドモンドの弟子、未来の英雄、氷結の聖女と焔の騎士。
その名が全部を上書きして消してくれたからだ。
「アーシェ、またその愚痴かよ。いいじゃないか。俺たちの未来がようやく輝いてきたんだ。楽しもう」
「アレス、あなたはいつだって、そうなんだから。仕方ないわね。私もあなたの前向きさに乗ってあげるわ」
こんなに自然に笑えるようになったのはいつからだろう。
もう私の胸の中に空いた穴は消えてしまった。
あの頃、ただ自分の不幸に泣いていた私。でも人生を切り開いて変わることができた。
まだ環境の変化に戸惑うことはある。でも、それも含めてこれから私は人生を思いきり楽しもうと思った。
氷結の聖女と焔の騎士 ~完結~
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