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【完結】氷結の聖女と焔の騎士  作者: 冬月光輝
第二章『宮廷ギルドにて』

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18.入廷手続き

「きゅー、きゅー」

「ミュー、ミュー」


 エドモンドさんから“亜空の指輪”というアイテムをもらって、幻獣である炎馬(フレイホース)銀狼(フェンリル)の幼体を譲り受けた私とアレス。

 

 アレスは炎属性の魔力と相性のいい炎馬(フレイホース)。私は銀狼(フェンリル)の世話をすることとなった。


「慣れるまでは一緒におったほうがええが、どうしても離れなくてはならんときは、指輪の宝石をこう向けて……、このボタンを押すと」


 指輪から放たれる光を当てて、炎馬(フレイホース)銀狼(フェンリル)をもといた場所に帰すエドモンドさん。

 

 なるほど、慣れるまでは一緒にいてあげたほうがいいのか。

 ペットって飼ったことないんだけど、どうすればいいのかしら。

 そもそも幻獣はペット扱いでいいのか、そこから疑問なんだけど。


「まぁ、そんなに難しく考えんでよいぞ。幻獣は自然界に流れているエネルギーと主の魔力を少しずつ吸収して育つのじゃ。他の生き物とは構造そのものが違うでのう」


 へぇ、ご飯食べないんだ。魔力を摂取して成長する……。

 エドモンドさんの魔力を受けて大きくなったという理屈はそういうことなのかしら。


「さぁ、これからはお主らがこの子たちの契約者(マスター)じゃ。幻獣はワシの昔の弟子たちも使役しておってな。特にケヴィンは一角獣(ユニコーン)を乗りこなして、敵を蹂躙する姿から“騎士”と呼ばれるようになった」


「へぇ、そりゃあさぞかし楽しそうだな」


 一角獣(ユニコーン)に乗って戦っていたという、四英雄の一人ケヴィンの逸話を聞いてアレスはニヤリと口角を上げる。

 

 あなた、まさかこの炎馬(フレイホース)に乗って戦いたいだなんて、言うんじゃないでしょうね。

 

 それだけで周りは大火事になりそうだから、私が消火して回るイメージしか湧かないわ。

 

 好きにすればいいんだけど、加減は考えてほしい。


「それではアルガモン公爵を待たせとるし、そろそろ祝勝会へ行こうかのう。君たちが幻獣を役立てて活躍することを期待しとるよ」


 こうして私たちは公爵様が待つ食堂へと向かう。

 そして今まで味わったことがない知らない料理の数々を余すことなくいただいたのである。


 びっくりしたわ。人ってこんなに沢山食べることができるのね。

 太ったらどうしようって食べ終わって初めて気付いたくらい、夢中で食べちゃった。


 たまには、こういう日があってもいいわよね。

 だって、私たちは新たな人生の門出を祝ってもらえたんだもの。


 ギルドマスターに強制的に解雇されたときはどうなることかと思ったけど、幸運と努力で何とかここまで来たわ。


 明日の入廷手続き、遅れないようにしなくちゃ……。


 ◆


「ここが宮廷ギルドの本部です。各地に支部はありますが基本的に僕らギルド員はこちらに在席することとなります」


「あ、それは知っています。支部は地方の依頼を受け付けて、宮廷ギルドに回す依頼を精査しているんですよね」


「そのとおりです。宮廷ギルドでなくても解決可能な依頼は地方ギルドに回しているのです。その方が効率が良いですから」


 クラウスさんに案内されて王都までやってきた私たち。

 ズドンと目の前に建てられた七階建ての大きな建造物。宮廷ギルドの本部である。

 目の前に見ると迫力があるわね。王都で最も高い建物だって聞いたけど、それも納得できるわ。


「入廷手続きは七階で行います。ギルドマスターから宮廷ギルド員の身分証でもある銀バッチと二つ名をいただくだけですが……」


 宮廷ギルド員の証である銀バッチか。クラウスさんの襟にもついているけど、これと同じものを私たちも貰えるなんて……。


 憧れではあった。私たちには身分を示すものは何一つなかったから。

 それが手に入れば、今までとは違う新しい自分になれるような気もするし。


「なぁ、その“二つ名”ってなんだ?」


「それはあだ名みたいなものですよ。僕は素早い動きが目立って合格しましたので、“疾風”という名前を頂戴しました。カイン様は宮廷ギルドに入る前から“神童”だと言われていましたので、それがそのまま」


 なんか恥ずかしいわね、そのシステム。

 誰が考えたんだろう。きっと男ね。そういうこと考えるのって、たいてい子供っぽい男だと思うわ。


「おそらく試験官をされたモルガンさんが考えてくれていると思いますよ。それもお楽しみということで」


「わかりました。それでは私はなんとかの魔術師と呼ばれるようになるんですね」


 ルールだから仕方ないとそれは飲み込もう。

 モルガンさんが考えてくれるのか。変な感じのあだ名、じゃなかった二つ名でないことを祈らないと……。


「えっ? アーシェさんは魔術師ではありませんよ? エドモンドさんに言われて職業欄に“聖女”って書きましたから。アレスくんは“騎士”にしています」


「聖女? わ、私が?」

「へぇ、俺って騎士だったのか」


 突然に初耳すぎる情報を聞かされて、私はクラウスさんに詰めよった。

 アレスは特に気にしていないみたいだけど、あなたは馬もいないのに騎士にされていたのよ。もっと驚きなさい。


 推薦状には職業欄があって、ギルド所属でない者は任意で好きな職業を名乗っていいみたいなことは聞いていたけど、普通に前のギルドと同じ魔術師と剣士になっているかと思っていた。


「エドモンド様が将来的に英雄になるのだから、もっと華やかな職業にしようと提案しましてですね。僕はてっきり許可をもらったものかと」


「じゃあ、もう変えられないんですか?」


「無理ではないと思いますが、結構手続きが面倒なはずです。なんせ王宮の代理として受理された書類ですから」


 はぁ、私がよりによって聖女って柄じゃなさすぎて乾いた笑いが出るわ。

 でも、そんなに手続きが面倒なのか。どうしようかな……。


「いいじゃん。俺は騎士になってみたかったし、アーシェは聖女が似合っていると思うぞ」


「似合わないわよ。聖女って神様に仕える人間でしょう? そんな人間に見える?」


「ああ、それでも別に違和感ないぞ」


「はぁ、適当なことを言って……」


 まぁいいや。こんなことで目くじら立てても仕方ない。

 それはまた考えるとして、今日のところは受け入れよう。


「さぁ、七階につきましたよ。失礼します。クラウス・オルスタールです。アーシェ・アーウィンとアレス・マギナスを連れてきました」


「うむ。入りたまえ」


 ノックした先で低い男の声が聞こえる。宮廷ギルドのギルドマスターの声だろう。

 今さらだけど緊張してきた。合格して浮かれていた気分が一気に吹き飛ぶ。


 ちゃんと挨拶して、恙無く手続きを終わらせよう。


「お初目お目にかかります。アーシェ・アーウィンです」

「アレス・マギナスです」


「おっ! 来たか、来たか! お前らに会うのを楽しみにしていたんだぜ。なぁクラウス、こいつらがあのエドモンド殿の弟子なんだろ!?」


 部屋に入ると赤い長髪を後ろに縛った男が腕を組みながら、興味深そうにこちらを見て声をかけてきた。

 

 まさか、この見るからにやんちゃそうな人がギルドマスター? そんなふうには見えないけどなぁ。


「ええ、先日お話させてもらったのはこちらのお二人です」


「そっか、そっか。オッケーわかった。俺の名はグレン。とりあえずお二人さん。合格おめでとう。俺らはお前たち二人を歓迎する。ほら、銀バッチだ」


「えっ?」

「おっと!」


 ギルドマスター、グレンはひょいと銀バッチを投げて私たち渡そうとしてきた。

 まったく、大事な身分証を投げ渡さないでほしい。


「そんで、お前らの二つ名。これもモルガンから試験の内容を聞いて、今回は俺が考えてやった」


「グレンさんが私たちの二つ名を、ですか」


 よくわからないけど、この人は二つ名をつけたくて任命権をモルガンさんから奪ったらしい。

 

 それは期待されていると取っていいのだろうか。


「ああ、格好いいのを考えてやったから喜べ。まずはアーシェ、お前は今日から“氷結”の聖女だ。で、アレス。お前さんは“(ほむら)”の騎士だ」


「氷結の聖女……」

「焔の騎士……」

 

 なんかとても大仰な名前をもらってしまったわ。 

 でも、これくらいパンチが効いている方が頑張れるかもしれない。


 そうだ。私はこの二つ名に名前負けしないように全力でぶつかろう。そう心の中で決めたのだった。


 氷結の聖女と焔の騎士。これが呪われた忌み子と呼ばれた私たちに付けられた新しい名前……。

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