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【完結】氷結の聖女と焔の騎士  作者: 冬月光輝
第一章『呪われた忌み子』

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1.解雇

 私ことアーシェ・アーウィンは忌み子と呼ばれている。

 いつからなのかは覚えていない。物心ついたとき、私は田舎の孤児院にいたのだがその頃にはもうそう呼ばれていた。


 忌み子と呼ばれる理由。それは首筋に受けた呪いの刻印のせいだ。

 人攫いを雇ってまで、倫理を無視した人体実験を繰り返したという王国史上最悪の魔術師ゲラ。

 私はゲラの魔術研究の材料とされ、この呪いの刻印を受ける羽目になった。


 その後、ゲラは捕まって人体実験の生き残りである私ともう一人の男の子は救出されて孤児院に預けられる。

 そして、十二歳まで成長した私たちはとある冒険者ギルドに引き取ってもらうこととなった。


 忌み子と呼ばれて蔑まれていた私たちを受け入れてくれるなんて奇特なところもあったものだと、私たちは幸運に感謝したものだ。

 必ずやこの恩を返そうと、二人は一生懸命働いたのである。


 しかし、私たちの呪いは冒険者ギルドと圧倒的に相性が悪かった。


 まず、私が受けたのは「氷結の呪い」というものなのだが、どんな魔法にも氷属性の効果が付与されてしまう。

 回復魔法も攻撃魔法も何もかも冷気とともに放出されるので、使いものにならなかった。


 それでも私は魔法の適性が高かったのと、他の適性が著しく低かったのもあり、魔術師になる他に道はない。

 だから私はなるべく氷属性の魔法のみを使い、その他の魔法は必要最低限に抑えて使うことにした。


 その結果、凍らせることしか能のないお荷物だと揶揄されたが三年も経てばそれなりに仕事が出来るようになった。


 そしてもう一人の少年。アレス・マギナスが受けた呪いは「(ほむら)の呪い」と呼ばれている。

 彼が興奮すると右拳が燃え上がるという私以上にはた迷惑な呪いだ。激しく運動しても燃えてしまうので、困ったものである。


 彼は私とは逆に魔法適性がゼロに等しく、力仕事しか残された道がなかったので呪いとの付き合いは地獄だったと言えよう。


 長い年月をかけて判明したのは呪いの発動が心拍数に関係しているということ。ゆえに彼は常に動じない強いメンタルと簡単には疲れない無限のスタミナを得るという結論に至り、自らの体を鍛えた。何度も炎上しながら……。

 

 彼の特訓にはよく付き合った。彼が燃えたら私が冷やすの繰り返しの日々。

 アレスは根性があった。負けず嫌いでへこたれずにひた向きに特訓を続けていた。

 その結果、彼も彼なりにお荷物から脱却しつつあり、努力が実を結び始めていたのである。

 

 とはいえ、ちょっと使えるようになったとて私たちに対する印象は良くなるようなことはない。

 所詮は呪われた忌み子であり、身寄りのない孤児。

 ギルド長の気まぐれで引き取られただけの肩身の狭い存在なのである。

 

 それゆえ私たちはお互い以外に友人はいなかった。

 今日を生きるためにお互いに助け合って、時には少ない給金を相手のために使うことも辞さなかった。

 それだけ私と彼の絆は深かったのである。


「まぁ、孤児だった俺らにしちゃ上出来な人生だろう」

「そうかもしれないわね。働かせてもらえるだけ幸運だと思うことにしましょう」


 二人とも今の生活に満足しているわけではない。

 だけど、これ以上は良くなりようがないしどうにもできない。

 そんな諦めのような気持ちもあって私とアレスはこの状況をも幸運だと思おうと努めた。


 人体実験にされた他の幼い子どもたちはそこで人生の幕を閉じた。私たちはまだ生きている。

 生きていさえすれば、生きてさえいれば……。何とか道は切り開ける。

 そんな藁にもすがる根拠のない夢を見て、私たちはこのギルド生活に何とか順応しようと努力し続けたのである。


 だが、その生活も突然終わりを告げられてしまった。

 私とアレスがギルドマスターに呼ばれたのである。

 私たちは恩人であるギルドマスターのもとへと向かった。


「ギルドマスター、俺らに用事なんざ珍しいな。なんか心当たりあるか?」

「いいえ、何も。私はあなたと違って物を燃やして始末書を書かされることもなくなったし。平和なものよ」

「ったく、俺だってもうそんなドジ踏んでねーよ。まぁいいか。もしかしたら良い知らせかもしれないし」


(そんなわけ無いでしょう。まぁ、わかって言っているんでしょうけど)


 アレスの楽観的な見解はわざとだ。彼だって私に負けないくらいネガティブな想像をしている。

 だけど、そんな想像など非生産的ではないか。それなら、一時的とはいえ楽しいことを考えよう。

 そんなことを彼は思っているのであろう。それは長い付き合いでなんとなく察することができた。


「アレス・マギナス、入ります」

「アーシェ・アーウィンです。失礼します」


 ノックとともに室内に入る私たち。そこに待ち受けていたのはキラリと光る金歯だった。

 ギルドマスター、エルドラド。私たちの恩人である。


「おおっ! 来たな! 少年少女! まぁ座ってくれ。紅茶飲むだろう? 菓子も適当に摘んでいいぞ!」


 気前よく私たちをソファーに座らせるエルドラド。

 紅茶に菓子など大盤振る舞いではないか。これはもしかしたら、本当にいい話なのだろうか。

 

「ほら、遠慮なく食べろよ」

「は、はい」

「って言われてもなぁ」

 

 私たちは慣れない扱いにお互いの顔を見つめ合い困惑する。

 この焼き菓子見たこともない形をしていて、嗅いだことない匂いがする。もちろん、いい意味で。

 多分、その辺では売ってない高いやつなんだろう。

 

 だからこそ、わからない。なぜ、こんな賓客用の菓子が出てくるのか。


「本当に遠慮するな。これがお前らにくれてやる退職金なんだからさ」

「「えっ?」」

「忌み子を孤児院から引きとってイメージアップを計ったが。やはりお前らはクビだ」


 嫌われ者はどこまでいっても嫌われ者。

 私たちは普通に生きていきたいだけだった。しかし、その普通は絶対に手に入らないものだったみたい……。


 今日、私たちはギルドマスターからクビ宣告を受けた。

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