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白い箱  作者: 旭日葉乃
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第3話: 枯れない涙


    加筆修正中


『憂、なんて口の利き方をするの!』

頬を叩く母。

『お母さっ……』

『言う事聞かない子は、こうよっ』

体を殴られ、蹴られ、痣になる。痛い、苦しい、なんで自分だけ。でも、この時間が過ぎさえすれば、母はまた元に戻る。それを信じ、憂は痛みに耐える。

『…っ』

次にくる痛みに目を瞑った。が、衝撃は来ない。ゆっくりと瞳を開けてみると、そこには倒れた母が居て紗夜が母を見下ろしていた。

『ふふふ、だいじょーぶ? 憂』

血に濡れたその顔。憂と同じ顔。

『さ…よ……?』

『これで、アンタも一緒ね。あたしと』

『…え?』

『自分の手を見てみなさい? 綺麗でしょ?』

 目を見開き、自分の手を見た。赤くべったりと血が付いている。これは、母の血。血の気が引くのを感じ、服に手をなすりつける。

『や、やだ…! な、なんでとれな…っ』

拭いても拭いても赤いまま。

『アンタがお母さんを殺したのよっ!!!』

『いやぁぁあぁああ!!』

 自分の悲鳴で飛び起きる。

「はぁっ、はぁっ…ゆめ…っ?」

慌てて両手を見るが血は付いていない。あれは本当に夢だったのだ。乱れる呼吸を整え、息を吐く。リアルな夢。夢でよかったと憂は思う。夢では自分の手で、母を殺めていた。また掌を見つめ、ベッドから出る。そして、ベッドの側にあった椅子に腰掛け、夜空を見上げる。

「綺麗。何もかも洗い流してくれそう…」

手を伸ばしても届かない星達。伸ばしていた手をぱたっと下ろし、ベッドに倒れこむ。

「…おかあさん」

居ない人に呼びかけ、憂は己の体を抱く。

「冷たい…」

もぐり込むようにして憂は寝具に体を埋め、悪夢を見ないように願い憂は瞳を閉じた。


 暖かい朝日と共に、目を覚ます。夜中よりは大分眠れたようだ。まだ、寝たいと思いながらも目をこすり、時計を見る。8:15分まだこんな時間かと思い、顔を洗うためスリッパに履き替え病室を出た。

 パタパタとスリッパを鳴らしながら洗面所に向かい、水で顔を洗う。ばしゃばしゃと洗い、持参してきたタオルで顔を拭く。

 憂が起きる時間帯は誰も廊下を歩いていないから、憂には都合がいい。

 自分の病室に戻ろうと歩き出した。タオルを持つとき視界の隅に何かが見えた。何だと思い、見渡すと一輪の百合が静かに横たわっていた。来た時には無かったと思い、百合を掴む。香りは少々強いが、茎がピンと真っ直ぐ伸びていて、部屋に飾るのに丁度良い。しかし、何故こんなところに百合が? 疑問に思うが誰かが落したんだろうと勝手に解釈し、憂は部屋へと早々戻って行った。

 食事を済ませ、窓辺に置いてある百合を見る。

「あら? …百合? 憂ちゃんどこから取ってきたの?」

「洗面所の近くに落ちてたの…」

「…洗面所。あぁ、そういえば国井さんの部屋にも飾ってあったわね…」

「国井さん? 誰?」

珍しく反応を見せた憂に嬉しくなる広川。

「あ、憂ちゃんは知らなかったわね…最近入ってきた患者さんなんだけど、その国井さんが」

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