白い箱 彷徨まで
雲ひとつ無い空を見上げ、憂は呟いた。
「…平和だなあ」
施設の庭に長い木の椅子が置かれている。その椅子に腰掛、憂は自然を楽しんでいた。
庭には草花や木々、噴水、日陰などがある。それは憂の趣味に合っているため、暇があればいつでもこの安らぎの場所へと足を踏み入れている。
心地よい春風が憂の髪を優しく撫でる。芝生の上に転がり、大きく息を吸い込めば、太陽と土、草の香りが堪能できる。柔らかな日差しに目を瞑ろうと瞼を閉じかけた、その時。頭上から名前を呼ばれる。名を呼ばれ、瞼を開けると、愛しい彼が自分を覗き込んでいた。憂はゆっくりと体を起こし彷徨に向き直る。
「…憂? あ、寝てた? 起こしてごめんね?」
「…ううん! いいよ別に」
申し訳なさそうに謝る彼に憂は急いで首を横に振る。
「そう? なら良いけど…」
「それより、何かあったの?」
きょとんとした顔で彷徨は憂を見つめ返す。
「…? 何も無いよ? だた、憂がいたから来ただけ。――…理由がコレじゃ駄目?」
彷徨に上目遣いで見つめられ、憂は頬を赤く染める。
「…っ! ぅ…えっと…あの、その……」
慣れない彼の言語に憂は何を言って良いのか分からなくなる。
「くすっ…意地悪しすぎたね……」
そう言って、彷徨は手を伸ばし憂の柔らかな髪を撫でる。気持ちよさそうに目を細める憂。そんな憂を見て可愛いなと思う。
頭を撫でているうちに眠くなったらしく、憂は自分の方へ体を傾けた。彷徨はそっと、憂を抱きかかえ、施設の中へと入っていった。




