第21話: 白い箱
「……憂?」
彷徨が私を呼ぶ。最初、誰の声か分からなかった……。
私が二重人格だとわかったあの日―――。彷徨は声が出せるようになった。
彷徨はすごい優しい声で私の名前を呼ぶ。
呼ばれているだけなのに、安心する。でも、彷徨の全てが……私と正反対だと思ってしまう。彷徨の隣は私には似合わない……。でもやっぱり側にいたいと思うのは矛盾だって事ぐらい分かってる……。どうすればいいの?
「…何?」
私は思っていたことを隠すように彷徨に言う。
「声を出せるようになったのは、憂のおかげだと思ってさ……。」
「なんで、そう思うの……?」
「…首を絞めてくれたから?」
「バッカじゃないのっ……」
彷徨が優しく私に微笑む―――。
やっぱり彷徨は優しい。私が……殺そうとしても。許してくれた……。
「なんで……そんなに嬉しそうに笑うの? 私は、紗夜なのよ!? こんな誰でも手にかけるような女、見捨てれば良いのにっ!」
そう言って、私は嗚咽を漏らす。こんな姿、彷徨に見せたくないのに……! どうして、涙が止まらないの? 私は一人でだって生きてゆける……!
フワッ―――。
何―――?と口にする前に、私は彷徨に抱きしめられていた……。
「見捨てるわけないよ……ずっと、側にいる―――」
「……なんでっ……そんなことっ…だって、私は……いつ紗夜に戻るか、わからないのにっ……!!」
「そんなこと思わなくていい―――。一つにならなくてもいいんだよ……。憂になっても良いし、紗夜になっても良い―――。」
あぁ……私はなんていい人に思われているのだろうか……。そんな彷徨を傷つけるようなまねして……私の方がバカだ。
「俺はずっと見守っている……ずっと、側にいるから……」
じんわりと彷徨の優しさや、暖かさ、温もりがその言葉を通じて伝わってきた。
もう、悩まなくもいいんだよ―――そう言われている様な気がして、少し気持ちが楽になった。
あれから、紗夜は面に出なくなった。
そして、私達二人は公共施設に移動になり、今はそこで暮らしている。
友達もたくさん出来、楽しい毎日だ。
でも、時々、紗夜のこと―――お母さんのことを思い出す。
お母さんを殺した時―――もうすでに私は二重人格と判断されていたのだろう……。いま、よく考えていれば、変だった。警察もこないし裁判にかけられてもいない……。それなのに私は……何も知らないで、無邪気に過ごしていたんだ。
そして……白い箱に入っていたのは、紗夜じゃなく―――
―――私。
私は見えないガラスの箱に入れられていたんだ……紗夜が持っていた箱に。
精神科の先生はもう、紗夜は出てくる事がないと言ったけれど……。
本当に紗夜の人格は消えたのだろうか……?
私は今でもナイフを持てずにいる――――。
完結しました!!
苦労しましたよ……。紗夜と憂が争うので^^;
それから、憂の名前はWE。英語に直すと『私達』って意味になります。
私も見つけてもらった時、ビックリしました。
自然とそうなっていたんですね……。
さて、次の物語は―――吸血鬼、ヴァンパイヤです♪
私自身、吸血鬼ものが好きなので……
多分、逆ハーになると思います。
最後まで読んでくださった皆様……。本当にありがとうございました!!
アクセスを見て飛び上がっておりました……。
これからも、どうぞ、よろしくお願いします。




