第20話: 本当の真実
あたしをバカにした事、後悔させてやる……!!
それに何で、あたしは憂に負けてきているの? どうして…あたしの方が今まで有利だったのに……!
下唇を噛み締め、憂の弱点になるものを探す―――。
……手紙を破ったときの憂の表情。あれは、おもしろかった。これまでにないくらい、楽しめた……。あんな一切れの紙だけで……。
一人の看護士が紗夜の前で病室を覗いていた。
「…くん?」最初の名前は分からなかったが子供だろうと思い、あたしはその病室の前を通り過ぎようとした。けれど……。
「彷徨くん、いる?」聞き覚えがある名前があたしの耳に響いた。
”彷徨”? どこかで……。あぁ…! あの手紙の差出人だ! 紗夜は何か思いついたように、口元を歪めた。
みーつけた…。最高の材料を……憂にぴったりの罰を……。
後から起こる事にあたしは笑みを深め。あたしはじっと、彷徨を見つめていた。
ディナーはたっぷりと時間をかけて
……上等のワインは夜にとって置かなくっちゃね……?
そうでしょ? 憂―――――……。
私は、千切れた紙をパズルにみたいにして繋ぎ合わせていた。
酷い……。ほとんど、クシャクシャになってる。無事だった手紙も何枚も在るけど……。
なんでこんなことを……! 私自身にやれば良いのに……!
でも、罰って何をするの? 最後に見せた背筋が凍るほどの笑み―――。
まさかっ―――……彷徨を? じゃあ、彷徨が危ないって事? 彷徨を一人にしちゃ駄目だ!!
紗夜が何を仕出かすか……。
私は手紙を棚の中に戻し、急ぎ足で彷徨の元へと向かった。
ガラッ―――!
「彷徨!!」
私の目に映ったものは……。彷徨がベッドに座って本を読んでいた。彷徨は本から目を離し私に視線を向けた。すごく、驚いてる。そりゃそうだ……誰も私が来るなんて考えてもないだろう。
『どうしたの? そんなに慌てて……なんか、あった?』
「ううん、なんでもない! ねえ、彷徨。今日は絶対、一人にならないでっ……」
『どうして? あ、紗夜って子が来たの?』
のん気に彷徨は笑って、私に紙を見せた。笑ってる場合じゃないんだけど……。
「そう。……彷徨が、紗夜に狙われてるの! だから、本当に今日は一人にならないでっ!」
『……分かったよ。でも、憂と瓜二つなんだろう? 見分けがつくかどうか……。
そうだ! 憂が一日、俺の部屋にいれば良いんだ! そうすれば、紗夜が来たって分かるだろう?』
「……そうだけど。でも、本当に気をつけてね。紗夜は残酷だから……夜は良いとして。昼は十分に……」
『うん…。気をつけるよ』そう、彷徨は書いたけど……。私は不安げに彷徨を見つめていると、腕が伸びてきて頭を撫でられる。
言葉に、紙に書いていないけど……彷徨が私に『大丈夫』と言ってくれているようで、なんだか安心した。
時間は刻々と過ぎて行き、あっという間に消灯の時間になった。
看護士さんの見回りの音が廊下に響いている……。どんどんと遠くなっていく足音。もう聞こえなくなった。
私は、そろりとベッドから出てドアに向かう。病室のドアを開けると辺りはしんと静まり返っている。うわ……こんなに真っ暗なんて思わなかった。
ぺた、ぺた、ぺた……。靴下もスリッパも何も履いていないから足が冷たい。長い廊下は何処までも続いているようだ……何十歩も歩いている気がするのに中々、彷徨の部屋にたどり着かない……そう思った時、見慣れたプレートが見えた。
彷徨の部屋だ! やっと着いた。病室のドアを開けると、誰かベッドに座ってこっちを見ていた。
「彷徨?」
私が問うと彷徨はベッドを降りて、私の所へやってきた。そして、私の腕を引っ張りベッドの淵に座らせた。
『本当に、来るのかな……紗夜は』
紙が月夜にあたって文字が浮かんで見える…。あぁ…そうか、だから彷徨はベッドの端に腰掛けたんだ……。灯りを灯せないから…。
「……わからない。今日来るかもしれないし、明日かもしれない……。」
『そうだね……』
そんな話をしているうちに、瞼が重くなってきた。眠っちゃいけないと思うのに……。
月明かりと、彷徨の温もりが心地よくて……。
『憂?』
彷徨が紙を見せるが反応がない。憂の体を自分のベッドへと横に寝かせる。彷徨の憂に対する瞳は優しく、愛しいものを見る目だ……。
彷徨が憂の髪を撫でていると、憂が突然笑い出した。その事に彷徨は首を傾げ憂の表情を見ようと覗き込む。
「あははははっ! くくくっ!」
が―――――。憂がいきなり顔を上げ、彷徨の首を掴んだ。彷徨は憂によって押し倒される。
「ふふっ……捕まーえた♪ どこまでもあたしの邪魔ばっかりして……許さないっ!」
彷徨は女とは思えない力に顔をしかめる。
「……あんたなんか、死ねば良い。あの女にもう希望を持たせないで!!」
これは……憂じゃない! 自分を締めているのは、紗夜だ。でも、どうしてだ? 憂から紗夜に変わった? 部屋から入って来たのも見ていないし……。どうなってる…!
そのとき、首を締めている力がより一層、強くなった。
「ぐっ……う、憂っ……!」無意識に俺は…声を出して? 発する事の出来ない言葉だと思っていたが、今言えた。
そして、憂は彷徨の声を聞き手の力を緩め、首から手をゆっくり離す。
「あっ……!? 彷徨? 私、いま…っ!」
憂は自分の手を見て振るえ出す。
なんで、私!? どうして、今、彷徨を……!?
「あ……あ。ご、ごめんなさいっ……! 私、そんな……」
「げほっ……ごほっ……!」
彷徨は首に手を当て憂を見る。憂は直も震え続けている。
私は紗夜なの!? この手で…彷徨を殺そうとしたの!?
”そうよ、貴女は紗夜。憂でもあるし、紗夜でもある……”
直接、頭に響いてくる声……残酷なほど冷たい音。知っている声…紗夜!?
私は紗夜? 憂? どっち!?
”ふふ、やっと言えるわ! 二人は一人。二分の一。これがどういうことか分かる? ”
嫌っ! 考えたくない……そんな事。ありえないもの!!
”ありえないくない―――。だって、実際に起こっている事なんですもの……。憂、この言葉聞いた事ある? 二重人格って言葉……? ”
嫌っ! 言わないでっ!! やめてっ……!
”一人の人間が全く異なるの人格を持っていること……そう、憂の思っている通り。私達は、一人。二重人格なのよっ!! あたしは、紗夜は憂の闇の中から生まれたの……心の闇からね。だから、紗夜と憂の性格は正反対……。貴女もわかっていたでしょ? あたし感謝しているわよ? 紗夜という人格を造ってくれて……”
全ては……私のせいって事? お母さんを殺したのも…紗夜を造り出したのも……
”そうよ!! 全部あんたのせい!! あの女は自分の娘に人生を狂わせられたのよっ!! ふふ”
全部、全部! 私のせい……。紗夜を造ったのも……私の責任っ!! そして、彷徨まで私は、手に
かけようとしていたの…?
私が弱かったから、こんな取り返しのつかない事に……。
本当の真実を知ってしまった私―――――。
彷徨を見てみると、不思議な顔をしてこちらを見ている。そんな彷徨を見ていると、深い水底へ堕ちた様な気がした。無垢な彼とは違い、私は穢れてしまった。いや……穢れてしまったのではなく―――――
私は自ら血黙りに足をどっぷりと踏み入れてしまったのだ……。
もがいても、もがいても……どんなに足掻こうとしても、その沼からは抜け出せない……。
私を繋ぐ鎖がある限りずっと……。




