第17話: 彷徨
コンコンッ―-―。静かな病室に、ノックの音が響く。
「……。」
私が何も言わなくても、無言で手紙を置いていく彼。
その姿は見たことも無いのだけど……。
私がドアを素早く開ければ、誰もそこには居ない。あるのは、白い紙一枚だけ……
私はそれを拾い、内容を見る。紙には綺麗な字が並んでいる。
内容を読み終えると、私はいつもの場所―――敷きだしの中にその紙をしまう。
引き出しの中を開けると、そこには数枚の紙が重ねられていた。憂はいつのまにか、彼と手紙をやり取りする事になっていた。
憂はそれを嫌がることもなく、手紙を受け取り、返している。
これは、変化というものなのか、それとも――――?
どんどん、増えていく、紙の枚数―――――。数えれば、数えるほど、笑みが増してくる……。
―――いつしか、私は彷徨から来る手紙を待つようになっていた。
ノックの音が聞こえれば、私は顔を綻ばせ、すぐにドアを方へと向かった。
この気持ちが、何なのか、分からない……どうして、私は彷徨がやってくると嬉しいのか……。
あと、もう一つ、分からない事がある。
何故、彷徨は、手紙でしか話さないという事……。前に一度だけ、このことを手紙で聞いた事があるが、はっきりと答えてもらっていない……。そりゃ、私も話していないこともあるけど……。
何かを隠しているように思う。
……この際、手紙で聞いてみるしかない。
そう決心して、私は手紙を書いた。
そして、その翌日―――。
ドアのところに行くと、紙が挟まっていた。
紙!!
私はその紙を拾い、恐る恐る、開いた。
『憂へ、 今まで君に話さなかったのは……訳があるんだ。
……でも、憂も俺と同じように、何かを抱えているんだろう?―――人には言えない、何かを。
もう手紙で、話すのも今日で終わりにしよう……。
彷徨より』
人には、言えない何か……彷徨も? 私と同じように、闇を?
でも、どういうこと? 終わりって……何? ……そんなの嫌だ!
私は考える前に、もう体が彷徨の病室に向かっていた。
「はぁ……はぁっ……」
【三神彷徨 様】と書いてあるプレートを見て、私はドアを開けた。