第16話: 一枚の紙
日曜のお昼近く―――。
私はいつものように窓の外を眺めていた。
一人の看護士が病室にやって来た。
「憂ちゃん。今日のお昼、食堂に行ってくれる?」
食堂……? なんで、また。
そんな思いを胸に抱きながらも私は頷いた。
「……何か、あるの?」
「何かあるって訳じゃないけど……。病院のみんなと仲良くなるためかしら?」
「……」
「憂ちゃん? どうしたの?」
看護士は憂が無言になったのを不思議に思い、憂の顔を覗き込んだ。
「なんでも、無いです…」
そう? とだけ看護士は言い病室を出て行った。
私は看護士が行ってしまった方を見て、呟いた。
「……仲良く? はは、笑わせる―――――。幼稚園児じゃないのに……」
そんなことを呟き、ベッドに横になる。
「はぁ……行かなきゃだめか。―――――めんどくさい」
しばらく横になっていた憂だが、体を起こし、病室を出た。
憂が向かうのは、食堂。
私は、早く食堂に来てご飯を済ませようと思ったが、皆考える事が同じなようだ。
どこか、空いている席を探そうと見てみたが……無い。一人でゆっくりと食べられる場所はどうやらないようだ。……無いといっても、在るはあるが、人の隣。
ため息を吐き、しぶしぶ、私はその席へと足を運んだ。(トレーを持って)
よくよく隣を見てみれば、見上彷徨だった。
また……隣。何かの縁?
私は椅子を引き、トレーにのっているスープをすくい、喉に流し込んだ。
味は、不味くもなく、美味しくもない。
そうやって、私が食べていると、隣から視線が感じた。私がふと、目をやると、見上彷徨が私をじっと見つめていた。
私は驚いて、声を上げた。
「! な、なに!?」
私がそう言って、三神彷徨を見ると、目が合い。それを見ていると、目を逸らされた。
一体なんなの? 用があるなら私に直接言えば言いのに……変な奴。そういえば、初めて合った日もこんな感じだったような……。
それに、私と同じ眼差し―――。この人も、私と同じように何か闇を抱えているのだろうか……?
そんな事を考えていると、おもわず言ってしまった。
「……目。私と似てる……貴方も何かあったの?」
私、いまなんて?
しまったと思ったときにはもう遅くて、見上彷徨は私の方を見ていた。
「あっ…えっと、その……」
私は言いたいことが見つからず、モゴモゴと言っていると、三神彷徨が一瞬口を開いたが、閉じ、眉間に皺を寄せ、席を離れていった。
私はその行動に、唖然とした。
……何か言ってくれると思ったのに。
私は彼と同じ気持ちだと思ったの? もし、闇を抱えているのなら一緒に分かり合おうと思った?
ありえない! あるはずがない―――。何をバカな事考えているんだろう。
そんな思いを消すように私は、席を立つ。
食堂から、病室に戻っても、さっきのことが頭を離れない。
どうして……? 彼のことが気になるの? でも、何かを言おうとしてた…。
「はぁ……私らしくも無い。他人のことが気になるなんて……どうかしてる。」
と、そのとき、病室の外からノックが聞こえた。
「誰?」
看護士ならノックはしないはず―――。
私は恐る恐る、そのドアへ近づき、開ける――――と床には、一枚の紙がドアの隙間に挟まっていた。
私は落ちている紙を拾い、中に書かれている文字を読んだ。
「……『さっきはごめん、答えられなくて……三神彷徨』?」
私は驚いて、辺りを見渡した。けれど、廊下には誰もいない―――。
私はその紙をもう一度、見て、そっと握り締めた。