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白い箱  作者: 旭日葉乃
14/23

第13話: 変化



 「私が……お母さんを殺した……」

 憂は繰り返すように、言葉を呟く。

 「なんでっ……! 私が? どうして紗夜じゃないの!? 

 私が何をしたっていうのよっ……!!」


  悲痛な叫びとは反対に、楽しげな声が笑う―――。


 「ウフフッ――。さあ? 誰でもいいじゃない、そんなの。

 誰が殺したって同じ事よ? 貴女に罪は無いわよ? あの女が貴女をそうさせたの…」

 だから、憂は悪く無い―――。

 そう言って、紗夜は憂の耳元で囁く。

 

  甘い誘惑の言葉とともに、穢れた手で、獲物を染め上げていく―――。

   まるで悪魔の囁き。


 「悪く無い……? 私は悪く無いの?」

 虚ろな眼で憂は紗夜を見る。

 「そうよ? まだ、分からないの? 憂? 貴女はあたしの言う事を聞いていれば良いの。」

 「紗夜の事を聞く?」

 「えぇ、そう。」

 後、もう少し―――。

そんなことを思いながら、紗夜は笑みを深める。


  私は悪く無い―――。その言葉を自分に言い聞かせ、問う。

 何が忘れていない? 大切な事を―――。

  

  駄目!! 忘れては! あの日の事を……。

 自分の犯した罪を、忘れては―――。

  紗夜の言う言葉に惑わされないで……。


   惑わせる? 

  そうだ、私は自分を失いかけていた。

 紗夜の言葉を信じてはいけない……。

  私は何度、紗夜に怒りを覚えたか……。

 いまでも、その事を思い出せばよみがえってくる。


  お母さんを……殺した事は、消せないけど……。

 私は掌を強く握り締めた。

 曇りの無い、真っ直ぐな瞳で憂は紗夜を見つめた――…


  ……チッ。もう少しだったのに…!

 どうして、あんたは揺らがないの?

 なんで、あたしにひざまずかないの? 

  素直に、あたしの事を聞いていれば良いものを……!


  あたしに向けられた、あの瞳。見ているだけで嫌気が差す―――

 穢れていない眼、最後まで自分の意志を貫くような瞳。

  その全てが気に食わない。

 苛つく……。

  その瞳を踏みにじってやりたくなる―――。


  憂の恐怖に歪んだあの顔―――。

 もうちょっとで屈服くっぷくさせられると思ったのに……

 いとも簡単にかわすなんて……。

  何か策を練らないと―――

 でも、どうすれば?

 

  そう紗夜が考えていると、憂が口を開いた。

 「もう、迷わない――――。絶対に。

 私を卑しい言葉で狂わせようとしたって、そうはいかない。

 絶望のどん底に落とされても、私は何度でも、

 そこから這い上がってみせる。―――覚悟しなさいよ? 紗夜。」

 

  憂はもう悲しみを見せない。

 自信を持ったような、余裕の在る笑みを紗夜に浮かべた。


 「……!」

 なんで、そんなふうに言えるの? 

 あたしの言葉が……憂に、希望を与えた?

  そんなの許さない!!

 あんたは、苦しみに悶えていればいいのよ……!!

 そう思って気が付いた。

  あたしの手が、体が震えている―――…。

 このあたしが?

  たかが憂の言葉でしょ?

 他人に感情を左右されては駄目。

  そんな事を思いながら言う。


  「ふーん。楽しみね……。貴女がどんなふうに変わって行くのかを……

  その時まで、あたしは待ってるわ?」

 

  あたしは、この時、平静を装うのが精一杯だった。

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