第12話: 驚愕
朝日が差し込み、その眩しさで私は目を開けた。
いつもと変わらない一日が始まろうとしていた。
私は何気なく窓の外を見ていると、病院のエントランスに一台の車が止まった。
車の中から、少年が出てきた。
あの子どうしたのかな……?
此処の病院に入院するのかな……。
あの子も私と同じようなことがあったのだろうか……。
私はふと、そんな事を考え、外から目を逸らした。
私には関係の無い事。私が心配して何が出来るというの?
……なんだか、紗夜みたいな言い方。
似てきたのだろうか……。違う、私は紗夜じゃない!
私はあんなに残酷じゃない、人の悲しみを見て楽しむような人間じゃない!!
憂は自分の掌を強く握り締める。
まるでその姿は、何かを抑えるようだ―――。
そして、時間がゆっくりと流れて行き
――午後――。
今日は珍しく1病棟の人達は食堂へ集まった。
なぜか、私の横の椅子が一つある。
いつもは、椅子なんて無いのに……。
全員集まり終わったところで、看護士長が手を叩き
「……全員集まりましたね?今日、
新しく1病棟に入って来た、三神彷徨くんよ。皆、仲良くしてね。」
あっ、朝見た男の子だ……!
私が驚いていると、別の看護士さんが言う。
「えーっとじゃあ、憂ちゃんの隣りに……あっ誰だか、分からないわよね。
憂ちゃん。手を上げて」
私は言われた通りに手を上げる。
「あの子が憂ちゃんよ。」
その彷徨っていう子が私の隣りにやって来た。
私はちらりと横を見ると目が合った。
その瞳は光を失っていた、けれど瞳の奥底には強い意志が見え隠れしていた。
私と同じ眼―――。
彼にも、辛い出来事があったのだろうか……。
そして、食事が終わり私は自分の病室へ。
私は、ベットの端に座りため息を吐いた。
「はぁ――疲れた……。なんで、食堂に集まらなきゃならないのよ……」
「くすくすっ―――。」
笑い声――…。
こんな笑い方をするのはこの世でただ一人――――。
「紗夜……」
紗夜は私を見て不思議そうに呟く。
「あら? 驚かないの?」
「もう慣れた…どこでもかんでも貴女は現れるし……
いちいち、気にしていたら気が狂ってしまうわ」
そんな私の言葉に紗夜は笑みを漏らす――。
「あんたも、あの時とは大違い。……そんなに疲れたのかしら?」
私は紗夜の言葉を遮る。
「で、なんか私に用? 用が無いなら出て行って。」
「ホント、生意気な口。いつ、あんたが苦痛を漏らすか楽しみだわ……。」
「まだ、そんな事いうの? いい加減やめたら?
それに私の悲しみを何度も見ているはずよ、貴女は。」
「ふふふ――そうね。憂の言う通りだわ……。でも、あれはまだ、序の口よ?
もっと、辛い事が貴女を待ち受けているの―――。」
その言葉と同時に紗夜は高らかに笑いをあげる。
その声は、”狂った叫び声”にしか聞こえない。
そんな紗夜を見て、私はため息を吐く―――。
「そんなため息を吐いていられるのも、今の間だけ―――。
……本当に幸せな人。憂は、あたしがあの女を殺したと思っている?」
紗夜が ”あの女” と言うのは、私の唯一の肉親だった母の事。
「ええ、思ってる。だって実際、貴女が殺したんだから!!」
「クスクスッ―――。本当に? 絶対? 事実? あの日の事をよ~く思い出してみなさい?」
あの日――。私は家に帰って来て、お母さんが……。
紗夜が私に包丁を振り上げる――。
「……!」
「ふふふ、思い出した?あのナイフの感触、肉を裂く音、飛び散る血。
あの時の貴女は本当に綺麗だったわ……」
”紗夜が私に包丁を振り上げる”あれは、紗夜じゃなくて、私。
私が、お母さんに包丁を振り上げたんだわ……。
わ た し が 、お 母 さ ん を 殺 し た 。
「イヤーーーーーああああああぁぁぁ!!!」
紗夜は憂の悲鳴を聞き、満足そうな声と表情で言う。
「フフッ――どう? 恐怖のお味は? 最高に甘美で極上でしょう?」