第11話: 悪夢
真っ赤……
テーブルも、カーテンも、床も、壁も皆、赤。
赤だらけ……
なんで、私は右手に包丁を持っているの?
包丁から滴り落ちる赤い液体――
そして、私の目の前には、真っ赤でグチャグチャになった
お母さんが居た――。
顔だけが残っている……
私は顔を背けた。
誰がこんな事を……。
『……クスクス。貴女に決まってるじゃない
だって自分の手を見て御覧なさい?
真ぁっ赤、すごい汚れてる。』
私は両手を開き、見る。
『!』
紗夜の言う通り……。
『あ……わたし?
私がやったの……?
お母さんを?』
『そうよ! あんたがやったのよ!!
その手で! 自分の母親をね!』
紗夜は狂ったように笑い続けている……
その笑いを聞きながら、私はずっと掌を見ていた。
『わたしが……わたしが……お母さんを……
違う――違う! 私じゃない!
イヤあぁぁぁああぁあぁ――――ッ』
私は、そこで飛び起きた。
汗で髪がくっ付いて気持ち悪い。
「いまのは……夢?」
私はシーツを握り締めていた手を緩め、掌を見た。
私の瞳に写ったのは、さっきと同じ赤色―――。
「いやあぁぁ―――! いやだ、違う違う。私じゃない……!」
爪で引っかいても、擦っても、その紅は消えてくれない。
私は髪を掻き毟り、悲鳴を上げた。
憂が悲鳴をあげるのを見て、頬笑みながら紗夜は言う。
「それが、真実だとしたら? ときに現実は残酷になるものよ……
たとえ、貴女が選んだ茨の道だとしても―――。
貴女が真実を知るのも時間の問題かしらね?憂?
フフッ…それまで、足掻き続けてみなさい……」
その声は虚しく、闇に溶けて行った―――。