2F
道を進み、颯たちは階段を上っていった。
そうして2階に着いた。内装は一階とほぼ変わらず、暗く細い道が続いている。
「何があるかわからない。一階の時よりも慎重に進むぞ」
颯の忠告にメンバーは頷いた後、一階と同じ隊列で道を進んでいった。
しばらくして特に敵が出てくるわけもなく、フロアと思われる部屋の前に着いた。
「中を見てくる」
颯はまた隊列から離れて、入り口から少し顔を出し、中を確認した。
一階とは違い、石で作られた薄暗く殺風景な部屋だった。そこには一体の石造りの人型モンスターが部屋の真ん中で仁王立ちをしていた。
「ゴーレムか」
これもまた、現実世界のファンタジー作品で出てくるテンプレモンスターである。が、このゴーレムは颯の知っているものではなかった。
石は石でも宝石に近いぐらいの光沢と美しさを誇っていたのだ。胴体の真ん中には赤い球体が埋め込まれている。弱点なのだろうか。
「あれは」
そしてその部屋の奥、ゴーレムの向こう側には螺旋階段が目立つように存在していた。
(戦闘は避けられない、か)
作戦を立てる必要がでてきたので、颯はすぐに隊列に戻ってメンバーに見たものをすべて伝えた。
「ゴーレム、ですか」
コトネはそうつぶやいた。
「コトネ、知っているのか?」
「はい。ゴーレムとは石でて来た自律型魔法人形です。内部にあるコアに魔力を注ぐことで活動できます。各関節には部位をつなげるための魔力が集中していてそれを切ることで各部位を落とせます。しかし物理攻撃がほどんど効かないのです。なので魔法で対抗するしかありません」
「なるほど。ありがとうコトネ」
「いえいえ」
コトネは颯の礼に笑顔で返事をした。その後颯は作戦を練るため少しうつむき、少し疲れている脳を回転させる。
まず考えるべきは侵入方法だ。侵入者を発見した際にどのような反応を見せるのかを確かめる必要がある。そしてどう攻略するか。基本的には魔法を用いるが、魔力をまとわせた剣ならもしかしたら有効かもしれない。
(とにかく今思いつくものはあまりない。さっきみたいに様子を見ながら決めていくしかないか)
そう結論付けた颯はそれを全員に話した。
「そうね。私もそれでいいと思う。正直資料の情報だけじゃ足りないしね」
「わ、私も、それでいいと、思います!」
「私も賛成です」
「俺は難しいことは分かんねえから、とりあえず従うぜ!」
ミツキ、コハル、コトネ、ギャレットの全員が意見に賛同してくれた。
「ありがとう」と颯は言った後、道に落ちていた小石を拾い上げてた。
「では、さっそく実験だな」
颯はそう言いながらその小石を入り口からひょいっとゴーレムに向けて投げた。
すると、
キー――――! ドカァン!!!!!
機械のようなな高い音を立てた後、小石の方向に赤い光線が発射された。それが入り口を通過し、大きな音を立ててその先の壁に穴をあけた。
「…………」
颯は呆然としてしまっていた。それはコトネも、コハルも、ミツキも、ギャレットも一緒のようだった。
全員の目線は穴の開いた壁、そこから見える外の景色にあった。
「これやばくね?」
ギャレットは目線をそのままにそう言った。
それに他の面々が反応をする。
「私、生き残れるかな?」
とミツキが、
「こ、怖い」
とコハルが、
「大変な戦いになりそうですね……」
コトネが顔を青ざめていた。
颯も少し驚いたが、固まっている場合ではないので、今度は二つの小石を両手に一個ずつ持った。
「ふっ!」
そして小石を今度は入り口から左の壁の方に投げた。
ゴーレムはそれを見つけるとすかさず光線を打った。その瞬間颯はあえて、入り口に立って右側に投げる。その後は素早く壁に隠れた。
ゴーレムの光線でまた壁に穴が空いたのち、ゴーレムは二個目の小石を攻撃する、と颯は予想していたのだが。
「――」
ゴーレムはその小石を無視し、最初と同じように仁王立ちをしていた。
「なるほど」
意外とポンコツなんだな、と颯はそう思いながらこれからとる作戦を決めた。
「みんな、聞いてくれ」
颯はそう声をかけ、
「今から手持ちの煙幕爆弾を部屋に投げつける。ゴーレムはそれを爆発させてくるはずだから、まずは気を取られている間に部屋に侵入する。爆発し、煙が蔓延した頃合いにまずは後ろから膝を僕とミツキで切るさすがに関節であれば剣も通るだろう。仰向けに倒れるはずだから、その後にギャレットがゴーレムを上から押さえつける。そしてミツキと俺で肩関節を切り、最後にコハルがコアにとどめを与える。そういう作戦にしようと思う」
「わ、わたしがとどめを?」
颯の話を聞いたコハルは緊張した声でそう言った。
前線で戦わないコハルには慣れないことをさせてしまう。しかしこの中で一番魔法にたけているのはコハルだ。だからこれは彼女にしか頼めないことなのだ。
颯はそう考えた。だからこそ、
「ああ。どうしてもコハルにしか頼めない。引き受けてくれないか?」
コハルはうつむいたあと、両手を組んで胸に当てた。そうしてしばらくして深呼吸をし、手をほどいて顔を上げた。そして覚悟を決めたような、颯が今まで見たことのない顔をして答えた。
「はい。私、やります!」
「ありがとう」
颯は安堵し、微笑んでお礼を言った。続けて颯はギャレットに爆弾を一つ渡した。
「それじゃあギャレット、この爆弾を左側に投げてくれ」
「おう。わかった」
ギャレットは返事をした後、前を向いて入り口から言われた通りに爆弾を投げた。
その瞬間ゴーレムはそれを感知し、攻撃しようとした。
「今だ」
颯は小声で号令をかけ、一行は一斉に入り口から小走りで侵入した。
「――――」
そんな颯たちに気づかず、ゴーレムは目から光線をを爆弾に当て、爆発が起きた。煙が部屋を一気に包んでいく。そのときにはすでに颯たちがゴーレムの死角まで進むことができていた。
「行くぞミツキ」
「分かってるわよ」
颯とミツキは一言交わし、剣を構えて同時に飛びだした。颯は自分で剣に魔力を込めることはできるが、ミツキはそれができないので、念のために事前にコハルから魔力を分けてもらい、ミツキの剣に纏わせていた。
「ふっ!」
「せやぁー‼」
パリ――ン
二人は同時にゴーレムの膝を後ろから攻撃し、見事に膝の切断に成功した。
ゴーレムは爆弾に気をとられ対応できず、ガラスが割れるような音がした後に自身の足を失い、あっけなく後ろに倒れた。
轟音ともに蔓延した煙が少し薄れた。すかさず颯は指示をだす。
「ギャレット! 急げ!」
「分かってらぁ!」
ギャレットは蛮声を上げて魔法を発動させた。ゴーレムの真上に巨大な透明の盾が出現し、容赦なくゴーレムを押さえつけた。
ゴーレムは反撃のためか、動き出そうとするが盾のせいで身動きが取れない。
そしてギャレットの魔法により、広まった煙の半分ほどは消えてしまっていた。ここまでくれば必要がないため、むしろ颯たちにとって都合がよかった。
「次行くぞミツキ」
「だから分かってるわよ!」
二人は再度ゴーレムに攻撃を仕掛けようとした。幸い奴の二の腕は広がっており、攻撃がしやすい状態だった。
「しっ!」
「はあぁぁぁ!!」
先程と同じようにゴーレムの肩関節を切断しようと近づいた。その時、
キィィィィィィ!!!!!
とゴーレムから耳障りな甲高い音が発せられた。ゴーレムの目から、あの光線を放とうとしているのだ。
「「……っ!」」
二人はそれをさせる前に切ろうとし、走るスピードを極限までに高めた。一気にゴーレムとの距離を詰め、同時に切りかかる。
「ふっ!」
「せい!」
パリ―ーーン
膝の時と同じように音を立てながら肩関節を切ることに成功し、
キィィィィィイイイイイイ!!!ーーーーーードカァン!!
その直後にゴーレムから光線が放たれた。それはギャレットが作った盾に当たり、その衝撃は強く広がった。
「くっ!」
「きゃぁぁ‼」
ゴーレムのすぐ近くにいた颯とミツキはその衝撃で吹き飛ばされた。地面に何度もぶつかりながら転がっていったが幸い壁にぶつかることは無かった。
颯は肩や背中を強く打ち、頭も多少ぶつけてそこから出血していた。しかし作戦成功への思いを力に変え、必死にコハルに最後の合図を出す。
「コ、コハル!、今だ!」
「わ、分かりました!」
コハルは負傷した颯たちのことが心配そうにしている様子だったが、すぐに上へ飛び、ゴーレムの真上に移動した。それと同時にギャレットの魔法が解ける。
ゴーレムはというと、自分の攻撃の衝撃で体である宝石にヒビが入り、そこから体内の魔力が少しずつ漏れ出している状態だ。これならもうあの光線を打ってくることは無いだろう。ラッキーなことにコアのある部分にもヒビがある。
「はぁぁぁぁああ‼」
コハルはらしくない、今まで颯が聞いた事のないほど大きな声を出し、構えた杖に魔力が集つめ、光の塊を作った。。
「いっけぇぇぇ‼」
彼女はその光を刀身のような形にし、落ちる勢いとともに一直線に突き刺した。
「――――⁉」
コハルの攻撃は見事にコアに当たり真っ二つに割れた。するとゴーレムからうなり声のようなものを発された。それと同時にコアから光があふれだす。
「コハル!」
颯は彼女の名前を必死に呼び、逃げるように催促する。コハルもその場を離れようとした。
しかし光は一気にあふれ出しーーーーーー爆発した。
音はノイズのように聞こえるほど大きく、とても聞き取れるようなものではなかった。全員無事では済まないかもしれない。
爆発が止み、煙が少しずつ晴れていく。颯はいま自分がどのような状態にあるかが分からなかった。
どこか怪我でもしているかと思い、とっさに閉じていた目を開くと、
「……さすがだな」
そこには魔法で作られた盾があった。ギャレットがとっさに守ってくれていたのだろう。その盾は一人ひとりのところにあり、特にコハルには球体の中に守られていた。
そんな彼女は空間の中でしりもちをついて呆気に取られていた。外傷も見当たらない。
颯は一つ息を吐き、安心して一言つぶやいた。
「魔王城二階、無事攻略だな」
ゴーレムを倒してからしばらく颯たちはその場に座り休憩をしていた。一階のベルゼブブを倒して休憩なしでゴーレムを倒した。その反動が今に来た、というところだろう。
「あ~さすがに疲れたー」
「確かに連戦だったものね。町の時はまだ魔物が雑魚だったけど、今回は一体一体が強いから余計疲れるわ~」
いつも強気のギャレットとミツキでさえ、あまりの疲れに弱音を吐いていた。
「とはいえ、俺も人のことは言えないな」
そう、颯もそんな二人の仲間だった。連戦続きで今まであまり味わったことのない緊張感のなかで頭を動かした。そのつけが今になって来たのだ。
コハルとコトネは声には出していないものの、二人と顔色が悪く脱力しているように地面に座っていた。
仲間たちの状況を見た颯はやむを得ず、
「少し休憩にしよう。各自、自由にしてほしい。出発五分前にまた声をかける」
その発言を聞いたメンバーは「はーい」と返事をした後、水分を飲んだりぐったりするなどしていた。
颯も部屋の端に行き、水を少し飲んでぼーっとしていた。しばらくして急に眠気がやってきたので少し横になることにした。
「こんな状況で、寝る、なん、て」
颯はなんとか起きようとするも、重くなり続ける瞼には逆らえず、その場で寝てしまった