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「転生」

「なんだ、ここは」

 

 中村颯〈なかむら はやと〉は困惑していた。なにせいつもどおり自宅のベットで就寝し、起きてみれば、全く見知らない空間にいたのだ。明らかに現代の日本では無い。空には星のような光が点々としていて、地面は薄い白色になっている。颯はとても奇妙に感じた。

 一度立ち上がって、軽く体を動かしてみる。


「夢の割には、手足の感触がしっかりとしているな。本当になんなんだこれは」

 

このままだと何も進まない。そう思った颯は辺りを散策することにした。

 しかしどこを歩いても同じ景色で、次第に意味を見出せずに辞めてしまった。

 

「さて、どうするか」

 

 颯は現在編集業についている。仕事柄、担当作に〝異世界転生〟と呼ばれるジャンルもあった。

「たしかその主人公も、知らない空間でで女神と出会い、転生を果たしたのだったか」

 そうつぶやき、颯は今の自分の状況と、その展開が重なっていることに気づいた。

 その直後、


「君が今回の転生者かい?」

 

 後ろから声が聞こえた。


(やはりか)

 

 颯は振り向き、呼び主の姿を見る。

 ――それは光る球体だった。


「驚かせてしまったかな?」


「いや、特にそんなことはないが」


「へぇ。逆に驚かされたよ。今までの転生者はみんな僕の姿を見て驚いていたからね」


「それはきっと、綺麗でスタイル抜群の美少女が迎えでくれる、と期待していたからじゃないのか」


「確かにそれもあるかもね」


 言葉を交わしながら、颯は思案してた。

 このまま定石通りに事が進むのなら、異世界に行ってなにか試練をクリアしなければならないことになる。それは例えば魔王を倒して世界を救ってほしいとか。


「君をここに来させたのは理由があるんだ」


 光る球体が話を始めた。


「なんだ?」


 楓は少し緊張気味でその先の言葉を待った。

 そして球体は重たい声色で言った。


「単刀直入に言うよ。今から一週間以内に、とある世界の魔王を倒してほしいんだ」


 一週間⁉ 何を言っているんだこいつは、と楓は思わずそう口にしてしまいそうになったが、何とか堪えて冷静に光る球体に質問をした。


「なぜ一週間なんだ。いくら何でも、チートでもない限りは成しえないことだぞ」


 その問いに対し球体は淡々と説明した。


「その世界にはね、大昔に魔王がすべてを支配していたんだ。その脅威を退けるために、人類が力を合わせてなんとか魔王を倒した。そうして平和な世界になったんだ。だけど、つい最近になってその魔王が復活してしまってね。このままだとこの世界の人類は瞬く間に滅んでしまうんだ」


「そこまでの力を蓄えて復活してきたのか。君はその魔王が復活してくることは知っていたのか?」


「いや、僕にできることはその世界の表面を見ることだけなんだ。だから魔王が倒されてからのことは何も知らない」


 光る球体はそう言ったが、颯は何か引っかかるような思いになった。

 球体の言い分だと、魔王は死んでから何か行動を起こして、自らの復活を計画した。フィクションだとありそうなことだが、ここはノンフィクションだ。実際に死後の世界という非科学的なことがあり得るとは思わない。


「君の言いたいことは分かるよ」


光る球体は楓の考えを見透かしていたかように話し始めた。


「この空間も異世界に転生するのも、君たちの世界ではありえないかもしれないこと。だけれど、他の世界ではあり得ることなんだよ。現に君を元の世界と違う空間に連れてきたのも、君たちの世界の技術では成しえないものだ。なにせ魔法を使っているんだから」


「連れてきた? 魔法? つ、つまり、ここは夢では無いということなのか」


 口だけでは信用ならないが、確かに楓は現代の日本ではないところにいるし、五感もはっきりしている。そういう点では光る球体のことを信用してもいいのだろう。

 少しだけ納得した楓は光る球体にさらに質問をした。


「ちなみに、魔王討伐にあたっての支給品とかはないのか?」


「ああ。そこのところは心配いらないよ。装備品やその他諸々の必要なものはすべて準備してある。君がこれから目覚める予定の場所にあるはずだよ」


「なるほど」


 その装備品がどんなものであるかをはぐらかしているということは、少なくともすごく強いものではないのだろう。

 しかし、楓はそれに不満を持つことはなかった。そして、


「よし。その案件、是非やらせてくれ」


 喜んで光る球体の怪しげなお願いに協力することにした。。判断基準はいたって単純。面白そうだったから、である。

 楓は幼少の頃から天才と呼ばれ、あらゆるものをそつなくこなすことができる化け物じみた存在だった。

 それ故、楓は飽き性で、取り組んでからすぐにつまらないと放り出すことが多かった。だから何か面白いものはないのか、自分にもできなさそうなことはないのかと今まで探し続けていた。結局見つかりはしなかったが。

 だからこうして目の前に面白そうなことが転がって入れば、躊躇なく飛び込んでいく。それが中村楓という男なのだ。

 光る球体は楓のその言葉を聞き、


「ああ。ありがとう! そうだ。一つ言い忘れていたことがあった」


 光る球体は軽い軽いノリでこう言った。


「一部の記憶は異世界に行く際の邪魔になるから、こっちで封印させてもらうけど、それでもいいかい??」


 それは最初に説明すべきだろう一番大事な情報だった。

 しかし楓は、


「ああ。かまわない。好きに消してくれ」


 淡々と、しかし不敵な笑みを無意識に浮かべながらそう返した。

 その言葉を受け取り、光る球体は満足げに頷くように宙を浮いていた。


「君ならそういうと思っていたよ。それじゃあ、さっそくいこうか」


 光る球体はすぐに楓の足元に魔方陣を展開。間もなく楓を囲むような光が出現した。


「君の健闘を祈っているよ」


 その声が楓に届いたときには、その姿は見えなくなっていた。次第に周りは光だけになり、楓の意識も薄れ始めていた。

 その最中(さなか)、楓は一つ聞き忘れていたことを思い出した。

 ――なぜ自分が転生していることになっているか、と。


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