これ以上堕落しないために(みんなと相談したけど)勢いで「追放する!」と言ってみたけれど、もう遅い~ボク(女勇者)たちは、きみ(幼馴染みで荷物持ち男)の提供する快適な旅に依存してるから~
テト : 男主人公
一人称 : 僕
髪/瞳 : 茶/茶
役割 : 荷物持ち、など
職業 : トリックスター/トラッパー
イオ : 幼馴染みの少女
一人称 : ボク
髪/瞳 : 金/碧
役割 : パーティーリーダー/オールラウンダー
職業 : 勇者
ルカ : 流浪の剣豪。東方出身
一人称 : 私
髪/瞳 : 黒/黒
役割 : フロントアタッカー
職業 : 剣豪
ソフィ : 太陽神ソル神教の中枢《大聖堂》より派遣された神官
一人称 : わたくし
髪/瞳 : 銀/紫
役割 : ヒーラー/バッファー
職業 : 聖女
アンジェ : 《大図書館》より派遣された司書代行
一人称 : 私
髪/瞳 : 赤/赤
役割 : バックアタッカー
職業 : 魔導師/読書狂
「テト……きみを、このパーティーから追放するよっ!」
細い指をビシッと突きつけて、僕に宣言するのは、12歳の誕生日に、善神にして光神にして太陽神にあらせられるソル神に『勇者となりて、世界に仇なす魔王を討つべし』との託宣を受けた少女、イオ。
僕と同じ村に生まれて、同じ村に育ったご近所の幼馴染みで、一番の仲良しの親友で、今は旅の仲間。その旅も、既に三年目になるけれど。
そんな少女から、旅の途中に立ち寄る町を目前にして、深刻な顔で「話があるんだ……」と言われ、唐突に宣言されたのがこのセリフだった。
……追放か……。
正直、ようやくか、と思ったくらい。
というのも、勇者たる少女を支えるパーティーメンバーは、
冒険者としての依頼を通じて、最初に仲間になった《剣豪》のルカさんに、
王都の《大聖堂》に参拝したおり、太陽神ソル神の導きのままにと言って仲間になった《聖女》のソフィさまに、
魔法の本である魔道書を収集、管理し、魔法を研究、開発している《大図書館》から派遣された、《魔導師》のアンジェさんに、
善神にして光神にして太陽神ソル神に見出だされた、《光の勇者》イオ。
……で、そのイオの金魚のふんの、僕。
僕以外、みんな女性だ。
だから、田舎者で気の利かないうだつの上がらない戦力にならない荷物持ちの男との旅に、嫌気が差したんだと思う。
まあその、正直、場違いというか、配役の違いというか、とにかく、僕はみんなに尽くしてきたつもりだったけど、一目見ただけで田舎者と分かるような僕は、影に日向にパーティーを去れと言われるようになって久しい。
……その、全然知らない男たちから。
代わりに俺が世話してやるからとか言われても、いやらしく笑いながら寄る男たちをイオたちがぶちのめしていたから、離れたくないと思われていたのか……と密かに感動していたけれど、やはり、かなり無理していたんだね。
「分かった。でも、追放する理由だけは聞かせてくれるかい?」
「……えっ? えっ? こんなあっさり……? あ、理由、理由ね? それはね」
僕に問われたイオは、なぜかキョドってキョロキョロと見回すけれど、大きく息を吸って、吐いて、改めて僕に指を突きつけてきた。
「そ、それは、…………それは、きみと旅をしていると、快適すぎて堕落しちゃいそうだからだよ!!」
…………うん? 聞き間違いかな?
「ねえ、イオ? 旅が快適なのは、良いことじゃないのかい? それは、僕の頑張りを誉めてくれているのかな?」
意味が分からず、こてんと首を傾げたまま幼馴染みにして勇者の少女に問う。
どうしても、そこから追放に繋がらない。
「そうだよ! いつもありがとう! とっても助かっているんだよ! ……じゃなくて、旅をしているのに、毎日お風呂に入れるなんて、贅沢が過ぎるよ!!」
……貴族でも、下級の立場の人は毎日お風呂に入ることは難しい。と聞いたことはあったけど……。
…………でも、僕たちの村では、普通だったんだよね。
みんな、魔法を使ってお湯を沸かして、毎日お風呂に入っていたから。
まあその、みんなと言っても、村の半分くらいは魔法が使えなかったから、そこは助け合いで、僕や魔法が使える人たちが風呂を沸かして、本当に毎日入ってたんだよね。
それを話したら、ルカさんもソフィさまもアンジェさんも、みんな驚いていたっけ。
「はじめて聞いた時は、とても驚いたよ。魔法で冷たい水を出して、魔法で薪に火を着けて、時間と魔力を費やして湯を沸かすのが普通なんだけど……。きみたちは、いや、テトは違ったよね」
お姉さん、というよりは、姉さんと呼びたくなるルカさんから誉めてもらえると、嬉しいな。
「テト、ルカねぇにデレデレしちゃダメ!」
「わ、ご、ごめんよ、イオ」
ぷんすこ可愛く怒るイオに、つい謝ってしまう。この、すぐ謝る癖、ルカさんにも直せって言われているけれど、中々難しいね……。
「……じゃあ、夜寝る時は、やっぱり狭くて不便だからかな?」
「とんでもないです!」
「わっ!? な、なんか、ごめんなさい?」
「立派な木造家屋を、丸々収納できるスキルをお持ちの方は、世界広しと言えども、そうそう居るものではありません!」
普段はおとなしく、淑やかに微笑む聖女さまが、こんなに声を荒らげるなんて……。
……うん?
「テトさま、わたくし、幾度か申しているはずです。あなた様の価値を正しく認識して欲しいと」
「はい、すみません、聖女さま」
あまりの勢いに、つい平伏してしまう。
それだけ、この長く美しい銀髪の聖女さまは神々しくて、美しくて、威厳に満ち溢れていて、しかし、か細い体でありながら巨大な魔物の強力な一撃を防ぐ《神盾》でみんなを守る、頼もしいお方だ。
「お止めなさい。わたくしが、いつ、平伏しろと?」
「はい、申し訳ありません。聖女さま」
「テ、テトさま? あの、わたくしは……」
だんだん尻すぼみになっていくソフィさまの声に、なにかが間違っていることに気付いた頃には、「ほら、怒られていないから、立て」と、ルカさんが腕を掴んで立たせてくれる。
…………えっと、ルカさん? 立ちましたから、手を離してくれてもいいんですよ?
なんで、腕を離してくれないんですかね?
……その、えっと、大きな胸が腕に当たっているんですけど……。
「ああっ、ルカさま、テトさまは、今わたくしとお話ししているのです。……テトさまっ! ルカさまの大きなお胸にデレデレしないでくださいませ!」
「はい、お許しください! 聖女さま!」
鈴を鳴らしたような綺麗な声で一喝され、つい平伏してしまった。
…………ルカさんが、ついに我慢できずに吹き出していた。
…………おかしい。僕は、このパーティーから追放されるんじゃなかったんだろうか?
「……ソフィ、話が進まない」
本をめくるような、静かだけれどよく響く声の主は、アンジェさん。
いつも物静かで、けれど、パーティーがもめると、冷静に声をかけてくれる人。
アンジェさんが口を開くと、みんな一旦口論をやめる。それは、パーティー内では一番賢くて一番冷静だから。
この状況の解決策を示してくれるのか? と思ったけれど……。
「アンジェさん、本、もっとたくさん運べると良かったんですが……」
本を読むことが何よりも大好きなアンジェさんは、夜になっても魔法で明かりを着けて本を読む筋金入りの本の虫。
町に寄る度に本を買い足していくのだけれど、僕の収納スキルにも限界があって、一番は食料、二番は夜寝るための家、本は、本来優先度が低い。けれど、本は高級品でもあるため、換金用として持っていく魔物の素材よりは上位に設定していた。
これは、パーティーみんなでちゃんと話し合って決めたこと。
けれど、新しい町に着く度に泣く泣く読み終わった本を手放しているのが、耐えられなくなったのだろうか?
「……テトは、よくやっている。本来、商人でもないのに、旅に本なんて持ち歩けない。でも、テトが居てくれたから、毎日焼きたての柔らかいパンと作りたての暖かいスープを食べられる。果物も新鮮なままだから、私でも毎日快食、快眠、快便」
一言ひとこと、噛み締めるように言うアンジェさんに、うんうんうなずくイオ。……最後だけ、首をかしげたけど。 僕も、首をかしげたけど。おかしい。美少女のいう言葉とは思えない。
「テトのおかげで、旅なのに毎日お風呂に入れる。収納している家が風呂付きだから、他人の目を気にすることもないし」
今度は、ルカさんがうんうんとうなずいている。
ルカさん、剣士として腕を磨くべく旅をしながら生活していると聞いたけれど、本当はお風呂が大好きみたいだから、一緒に行動するようになって最初の夜は、すごく喜んでいたっけ。
「テトのおかげで、旅なのに毎日雨風しのげる家で、安心して寝ることができる。魔物避けと悪意避けの刻印術で、ドラゴンでも安眠妨害できなくなった」
今度は、ソフィさまがうんうんとうなずいている。
ソフィさま、小さい頃は大変な生活をしていたらしく、食事どころか寝る場所にも苦労したそうで、旅に出る時、一番困るのが安全な寝床と言っていたっけ。
でも、その魔物避けと悪意避けは、ソフィさまの聖女としての御力だし、その力を家に定着させたのは、アンジェさんの魔法技術だし、アンジェさんの指示通り刻印を刻んだのは、ルカさんとイオだし。
うん、僕は、やはり……。
やはり、追放される程度の存在なんだろうな。
そう、言おうとした時だった。
「テト、きみは、とても素晴らしい魔法技術を持っている」
アンジェさんが、普段は眠そうな感じのタレ目を、大きく見開いて断言してきた。
「テト、土魔法は普通、直接素手で地面に触れていないと地面を操作できない。なのにテトは、魔物の足元をへこます《土ベコ》や、魔物の足元を逆に盛り上げて躓かせる《土デコ》を、地面に触れずに複数制御してる。魔法の同時起動と同時制御。高等技術」
「あれはビックリするよね。おかげで、すっごく戦いやすいし」
少し興奮しているのか、早口なアンジェさんと、誇らしげに胸を張るイオ。
「手に生み出した砂を、風を起こして目に吹き付ける《砂かけ》は、土魔法と風魔法の異なる属性を合わせる複合魔法。高等技術」
「突然魔物がのけ反ったり苦しみだした時は驚いたが、いつも完璧な援護があるから、私たちは勝ち続けることができるのだ」
さらに早口になるアンジェさんと、誇らしげに微笑むルカさん。
「極めつけは、その収納スキルの容量と状態保存機能。そんなの、聞いたこと無い」
「固い干し肉や水の代わりのお酒で食事を終えることもなく、毎日 沐浴してベッドで眠ることができるなど、旅をするなら上位の貴族でも難しいことですよ」
いきなり、叩き付けるような言葉になるアンジェさんと、感謝の祈りでも捧げそうなソフィさま。
…………えーと、ここまで誉めてもらえれば、さすがに、僕が何か失態を重ねたから追放。とは思えなくなった。
「…………ご、ごめん、テト。やっぱり、もう遅いよ!」
いきなり腰にすがり付いてくるイオ。
もう、訳が分からないから、説明してくれるかな? そんな思いを込めて頭を撫でていると、やっと分かりやすく説明してくれた。
「あのね、ボクたち、テトに頼りすぎていたから、少しは自分で自分のことをできるようにならなきゃ! ってなって、少し、テトから離れようってみんなで相談したんだ」
「その、結論が、追放?」
まだちゃんと理解できていないけれど、なんとか言葉を絞り出す。ベソかいているイオがあまりにもかわいそうに思えたから。彼女たちを理解する努力を放棄しちゃいけないと思ったから。
「そうだ。だから、町のそばで一旦分かれて、私たちだけでなんとかできるかやってみたかったんだ」
決意に満ちた瞳のルカさん。その姿は、かっこいいのだけれど……。
「一度分かれてからは、テトさまには、教会での仕事を任せてみることで話しは着いていたのです。一人放り出されることになっても、安全で、かつ、食事などの不安を一切感じさせないよう取り計らう段取りでした」
ありがたいことに、追放された後の事もちゃんと考えてくれていたらしい。手厚いにもほどがある気もするけれど。
「でも、無理。もう遅い。今さら、テト無しで旅なんかできない」
確信をもって断言するのは、アンジェさん。その、理由を聞かせて欲しい。
「テト、きみが担当していること、全部言ってみて」
続けてアンジェさんに言われ、考えながら言葉にしていくと…………あれ?
「朝、朝食を作ってみんなを起こす。ハムエッグと生野菜のサラダがあると、みんな喜ぶね。
朝食後は、家を収納して旅を続けることになるけど、移動中の休憩を提案するのはいつも僕だね。休憩の時は水とお菓子か干し果物を配ることにしてる。甘いものはみんな喜ぶから。
昼、昼食は、魔物肉を焼く場合が多いね。匂いが広がっても、明るいうちだから構わないってことにしてたっけ。
雨が降ったら、収納スキルで保管している雨具をみんなに配るね。一人一人体が違うから、間違わないように気を付けてる。
夕方、いつも日が暮れて暗くなる前に早めに夜営の準備だけど、収納スキルで家を出せば、それで足りるね。
夕食は暖かいスープを作って、食後は熱い風呂を用意して、みんなが風呂に入っている間は、みんなの装備の洗浄と点検だね。錆びたりすると大変だし。
それが終わったら、みんなが寝てるのを確認してから寝るけど、……やってるのはそれだけだよ?」
ほんとにそれだけなんだけど?
みんなが首を降る。足りないらしい。
「荷物持ち、食事係、体調管理、戦闘支援、装備の保守点検、夜営の準備と寝床と風呂の確保、最後まで起きてるのも込み込みで、もう、私たちは、テトが居ない生活は考えられない」
「ごめんなさいーっ! 追放なんてしないから、謝るから、見捨てないでーっ!」
淡々と語るルカさんと、ついに泣き出してしまったイオ。
いやむしろ、僕が見捨てられる側でしょ?それに、僕なら、世界を救うために過酷な旅を続ける勇者パーティーを、見捨てるなんてできないと思うよ?
……だからさ?
「えっと、うまく言えないけど……。その、これからもよろしくってことで、どうか一つ」
なんとも締まらないけれど、これからも頑張るからさ。
だから、勇者さま? あなたが魔王を倒して世界を救うその瞬間を、とっておきの特等席で見せておくれよ?
そのために、これからもみんなのことを『守る』からさ。
『……ちっ……。ガキが……見せつけやがって……』
『おいやめろ。あそこに居るの、光の勇者さまと、名うての若き剣豪と、教会の秘蔵っ子と、上位貴族の娘だぞ。視線が合っただけでどんな難癖付けられるか』
『この距離だ、小声なら聞こえるはずもないだろ……ちっ……。いちゃつくならよそでやれよ』
『それは、全力で同意する。……お前さん、彼女に振られたばっかだしな』
『うっせぇよ。……ちっ……。イライラする……』
『もうそろそろで終わりそうだから、我慢しろ。仕事が終わったら、今夜は奢ってやるから』
『……くそ……爆発しろ……テメェの血で溺れろ……』
『(そんなだから、仕事は真面目なのに粘着束縛系の重い男だから、爽やか笑顔のトークの弾む若い商人なんかに彼女寝取られるんだが……)……おい、そろそろ黙れ。仕事はちゃんとやるぞ。
……こんにちは、旅の人。身分証はお持ちか?……はい、確認しました。ようこそ、ネットリーの町へ。ここは近隣で収穫される新鮮な果物がオススメだよ! 楽しんで行ってくれ。……はい、次の人。身分証はお持ちか?』